6.希望の星
朝目覚めると、コーギーがそばに座っていた。「顔洗いに行こう」
サーヤは洞穴を出ると、黙ってついていく。今日は曇りだ。
あれから、昨日はまったく眠れなかった。マロンがそばにいてくれて少し心がなごんだものの、これから何を生きがいとしてゆけばいいのか、彼女には分からなかった。
「あれ、何だろう?」
コーギーが足を止めた。川岸に木材のようなものが転がっている。だが、少し様子がおかしい。サーヤは彼に引っ張られていく。
「あっ……」
コーギーが声を上げ、サーヤの顔が引きつった。それは、女性の遺体だった。体中に引っかき傷のようなものがついている。川に流されている間に、あちこちにぶつけたのだろう。亡くなってからそれほど時間が経っていないようだ。
「災害の犠牲者か。ぼくらの他にも人がいると思ったのに、残念だよ」
二人は女性に近づいた。すると、二人とも目を丸くした。そばに赤ん坊が横たわっていたのだ。生後半年くらいに見える。
「こんな赤ん坊まで……。なんてことだ」
コーギーが二人を埋めるための穴を掘り始めた。しかしその時、
「この赤ちゃん、まだ生きてる……」
サーヤが小さくつぶやいた。
「本当!?」
濡れていてかなり衰弱しているが、たしかに息をしていた。これは助かるかもしれない。
「サーヤ、今すぐ帰って焚き火をおこそう。温めないと危険だよ」
「分かったわ」
彼女ははっきりそう答え、彼よりも先に走っていった。
コーギーがおこした焚き火に近づけて、サーヤは赤ん坊の濡れた体を拭いている。赤ん坊の顔が青白い。何かを食べさせなければならない。
「羊の肉を食べさせよう。ぼくは水をくんでくるよ」
コーギーは、木をくりぬいて作った入れ物を持って走っていった。
サーヤはマロンに赤ん坊を預けると、洞穴の奥から残り物の肉を両手いっぱいに持ってきた。
「待ってて。今食べさせてあげるから」
彼女は肉を口に含んで柔らかくした。十分かむと、赤ん坊の口へ直接与えた。赤ん坊のくちびるはひんやりとしている。
「すごい……」
離乳食は受け付けないのでは、と思っていたが、赤ん坊は夢中で食べていた。まだ足りないようだ。ねだるように泣きはじめる。
サーヤはどんどん口に含んで柔らかくしては、赤ん坊に口移しで与えた。次第に、赤ん坊の顔が赤らんできた。体温も上がってきているように感じる。お腹が膨らんできた。
「もうそんなに元気そうになってる。羊肉ってすごいんだなぁ」
コーギーが水を持って戻ってきた。サーヤは首を横にふる。
「違うわ。この子が必死に生きようとしているのよ」水を彼から受け取って、少しずつ口に含ませてあげた。
「この子のために、あたし生きるわ」
サーヤの目には、決意の心が光り輝いていた。
その日の夜、サーヤは眠っている赤ん坊を抱きながら、コーギーと夜空を見上げていた。
「サーヤが元気になってくれてよかったよ」
コーギーはサーヤに寄り添った。
「あたしが元気にならないと、この子だってそうならないわ。ママも同じことを言ってた」
「もしかしたらその赤ん坊は、サーヤのママからの贈り物なのかもしれないね」
サーヤは夜空の星にいるママと赤ちゃんのことを想った。
「決めたわ」
サーヤは彼の方を向いた。
「何を?」
「この子の名前よ」
そう言って、満面の笑みで言った。
「この子の名前は、スターよ」
コーギーは、うんとうなずいた。
お楽しみいただけたでしょうか? 「希望の星」は、今回でラストを迎えました。
初めての連載作品でしたが、完結出来て嬉しく思います。この作品を読んで何かを感じ取っていただければ幸いです。
書いていて、とても楽しかったです。