表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希望の星  作者: 和田喬助
6/6

6.希望の星

 朝目覚めると、コーギーがそばに座っていた。「顔洗いに行こう」

 サーヤは洞穴を出ると、黙ってついていく。今日は曇りだ。

 あれから、昨日はまったく眠れなかった。マロンがそばにいてくれて少し心がなごんだものの、これから何を生きがいとしてゆけばいいのか、彼女には分からなかった。

「あれ、何だろう?」

 コーギーが足を止めた。川岸に木材のようなものが転がっている。だが、少し様子がおかしい。サーヤは彼に引っ張られていく。

「あっ……」

 コーギーが声を上げ、サーヤの顔が引きつった。それは、女性の遺体だった。体中に引っかき傷のようなものがついている。川に流されている間に、あちこちにぶつけたのだろう。亡くなってからそれほど時間が経っていないようだ。

「災害の犠牲者か。ぼくらの他にも人がいると思ったのに、残念だよ」

 二人は女性に近づいた。すると、二人とも目を丸くした。そばに赤ん坊が横たわっていたのだ。生後半年くらいに見える。

「こんな赤ん坊まで……。なんてことだ」

 コーギーが二人を埋めるための穴を掘り始めた。しかしその時、

「この赤ちゃん、まだ生きてる……」

 サーヤが小さくつぶやいた。

「本当!?」

 濡れていてかなり衰弱しているが、たしかに息をしていた。これは助かるかもしれない。

「サーヤ、今すぐ帰って焚き火をおこそう。温めないと危険だよ」

「分かったわ」

 彼女ははっきりそう答え、彼よりも先に走っていった。


 コーギーがおこした焚き火に近づけて、サーヤは赤ん坊の濡れた体を拭いている。赤ん坊の顔が青白い。何かを食べさせなければならない。

「羊の肉を食べさせよう。ぼくは水をくんでくるよ」

 コーギーは、木をくりぬいて作った入れ物を持って走っていった。

 サーヤはマロンに赤ん坊を預けると、洞穴の奥から残り物の肉を両手いっぱいに持ってきた。

「待ってて。今食べさせてあげるから」

 彼女は肉を口に含んで柔らかくした。十分かむと、赤ん坊の口へ直接与えた。赤ん坊のくちびるはひんやりとしている。

「すごい……」

 離乳食は受け付けないのでは、と思っていたが、赤ん坊は夢中で食べていた。まだ足りないようだ。ねだるように泣きはじめる。

 サーヤはどんどん口に含んで柔らかくしては、赤ん坊に口移しで与えた。次第に、赤ん坊の顔が赤らんできた。体温も上がってきているように感じる。お腹が膨らんできた。

「もうそんなに元気そうになってる。羊肉ってすごいんだなぁ」

 コーギーが水を持って戻ってきた。サーヤは首を横にふる。

「違うわ。この子が必死に生きようとしているのよ」水を彼から受け取って、少しずつ口に含ませてあげた。

「この子のために、あたし生きるわ」

 サーヤの目には、決意の心が光り輝いていた。


 その日の夜、サーヤは眠っている赤ん坊を抱きながら、コーギーと夜空を見上げていた。

「サーヤが元気になってくれてよかったよ」

 コーギーはサーヤに寄り添った。

「あたしが元気にならないと、この子だってそうならないわ。ママも同じことを言ってた」

「もしかしたらその赤ん坊は、サーヤのママからの贈り物なのかもしれないね」

 サーヤは夜空の星にいるママと赤ちゃんのことを想った。

「決めたわ」

 サーヤは彼の方を向いた。

「何を?」

「この子の名前よ」

 そう言って、満面の笑みで言った。

「この子の名前は、スターよ」

 コーギーは、うんとうなずいた。

お楽しみいただけたでしょうか? 「希望の星」は、今回でラストを迎えました。

初めての連載作品でしたが、完結出来て嬉しく思います。この作品を読んで何かを感じ取っていただければ幸いです。

書いていて、とても楽しかったです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ