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優しいキス  作者: キヨ
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第5部

 「明〜〜」

 美月がなんとも情けない声を出す。

今日は、市内の図書館で明に勉強を教えてもらっていて、明はその隣で静かに本を読んでいた。


「何?」

明は本を閉じながら訊いた。


「ココ分かんない」

美月が教科書の問題の所を指で指しながら言った。


「さっきも教えた問題だろ?」

明は目を細めた。

「だって〜」

数学なんて解んないよ!と、続けた。


 明は手に右手でシャーペンを持ち、サラサラとざら紙に公式を何個か書き、

「コレに当てはめていって」

紙を美月の方に滑らしながら言った。


ーーー*


 その後、しばらくは本を読むことに集中していたのだが、

何となく本を閉じ、美月の方を見た。


「寝てるし;」

明は「はぁ」と大きくため息をつき、美月のノートを見た。

ノートにはミミズが這ったような痕があり、すさまじいことになっていた。


 確かこのノートは明日提出だと言っていたハズ、

明は美月を起こすか起こすまいか悩んでいた。


 「よぉ、長瀬」

突然呼びかけられ、明は声のした方を見た。


 有馬が手を振りながら近付いてき、

その隣には高校生時代に美月絡みで何回か逢ったことがある子がいた。


「お久しぶりです長瀬先輩。猪飼千里です、覚えてくれていますか?」

千里は控えめにそう訊いた。


「あぁ、覚えてるよ」

明は人当たりの良さそうな笑顔で言った。


「前、座っても良いか?」

有馬がそう尋ねると明は一瞬ためらったが「良いよ」と言った。


「俺たちも今度の期末テストの勉強をしに来たんだよ」

有馬がリュックから教科書やノートを出しながら言った。


「長瀬は・・・って、お前は勉強しなくても余裕か」

有馬が「毎回、1番だもんな」と嫌みたらしく言うと、


「僕はキミと違って“日頃から”、“真面目”に勉強をしているからね」

「当たり前じゃないか」と明は腕を組みながら答えた。


「そんなとこ見たことも無いがな」

「見せたこと無いんだから当たり前だろ?」

明は不適な笑みをうかべる。


「はいはい、長瀬先輩も洋之ひろゆきも落ち着いてください」

「せっかく勉強をしに来たのに」と千里が言うと、

2人はしばらく睨み合っていたが「チッ」と舌打ちをすると有馬は教科書を開き、明は再び本を開き、読み始めた。


ーー*


「ん、・・ん"ん"、・・・あきら?」

しばらくして美月が目をこすりながら起きた。

肩甲骨あたりまである綺麗な黒髪が少しボサボサになっている。


「あ、起きた?」

明は「髪がボサボサだよ」と、クスクスと笑いながら右手で優しく美月の髪を整えた。



「(優しいな〜、長瀬先輩)」

千里はしばらくその光景を見ていたが、ちらりと今、自分が付き合っているヤツを見た。

 有馬は明と美月の光景を間抜けな顔で見ていた。


「(何で私、こんな人と付き合ってるのかな〜?)」

千里は「(私も長瀬先輩みたいな“頭が良くて”“かっこ良くて”“優しくて”しかも

ちゃんと“しっかりしてる”彼氏が良かったな)」と心の中で呟いた。

 目の前では美月が明に教えられながら問題を解いていた。



ーーーー*



 数時間後。日も傾き、図書館にはオレンジ色の光が差し込んで来た。


「出来た〜!」

美月が明に抱きつきながら言った。

明は「がんばったね」と微笑み、美月の頭を撫でながら言った。


「さてと、美月の勉強が終わったから、僕たちは帰るけど、有馬たちはどうするの?」

明は椅子から立ち上がり、帰る用意をしながら訊いた。


「え、ああ。俺たちも帰るよ。な?」

「う、うん。そうだね」


ーー*


 「じゃあ、僕たちはこっちだから」

「ばいばい!」

美月が千里に手を振り、2人は行ってしまった。


「なあ、千里」

不意に有馬が千里に呼びかけた。


「なあに?」

千里が訊くと有馬は「ごめんな?」と誤ってきた。

千里はびっくりして目を見開いた。


「だって、お前の好みは、“長瀬”みたいな“頭が良くて”“しっかりしてて”“優しくて”

“カッコイイ”やつなんだろ?俺、1個も当てはまってないじゃん」

有馬は千里から眼をそらし、辛そうに言った。

 普段の彼からは想像も出来なかった。


「・・何を今さら」

千里の言葉に有馬は千里の方を見た。


「確かにね? 洋之はそこまで頭良くないし、少し気が抜けてるとこもあるけど、」

千里の一言一言に有馬の心は沈む。


「でもね?私は、洋之がちゃんと私のことを思ってくれているのは。私なりに

ちゃんと分かってるつもりだよ?」

千里はニッコリと微笑みながら言った。


「それにね、」

有馬に近付きながら言う。

「長瀬先輩と比べちゃったら、そこらへんの男の人達は全員、

かっこ良くなくなっちゃうじゃない!」

千里は、アハハハッと笑いながら有馬の背中をバシバシと叩いた。


 有馬は少しばかり複雑な気持ちになったが、千里の笑顔を見ていると悩んでいた自分が馬鹿みた

いに思えてきたのだった。


ーーその頃*


「うんうん」

美月は草むらの影で2人の話を聞いて少しばかりか感動していた。


「盗み聞きとはずいぶんと趣味が悪いね」

明が木にもたれ掛かりながら溜め息を吐いた。


「何言ってるのよっ、大事な大事な親友のことが心配だったからじゃない!」

美月は頬を膨らませながら言った。

「それに、盗み聞きなら、明だって一緒に聞いてたじゃないのよ」


「僕は別に聞いてなかったよ。」

「興味ないしね」と、明は付け加えた。


「だいたい僕がココにいるのは美月が断固として帰ろうとしなかったからだろ?それに、

帰っても良いのなら、僕はもう帰るよ?」

明はもう1度溜め息を吐くと開いていた本を閉じ、鞄の中に入れ、歩き出した。


 美月はもう1度だけ千里たちの方を振り返ると、急いで明のあとを追った。


 なんてことない風景も 君がいると よく見える。

そんなことがあるものだ。


それは きっと みんなにも当てはまるだろう



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