第3部
展開早し
「・・なんか、また少し肌寒くなってきたね」
白い息を出しながら美月は言った。
1月も終わり、2月も半ばに入ったトコのハズだが、
あいかわらずに雪は降り続いていた。
「そうだね」
明は自分のコートに両手を入れながら言った。
「・・明ぁ、普通はここでね?
『僕があたためてあげるよ』とか言って、手をギュッて繋ぐとこなんじゃないの?」
美月が頬を膨らませながら言った。
「・・いつの時代の少女漫画だい?それは」
明はそっけなく言うと、とっとと歩いて行ってしまった。
その後を美月が慌てて追いかける。
「あっ」
明に追い付くと美月はあるモノを見つけた。
「どうしたんだい?」
美月の声に明は振り返った。
「あれ」
明は美月が指をさした所を見た。
「赤い風船?」
「うん」
美月が指を指したのは、木にひかかってしまっている赤い風船だった。
その下で幼稚園児くらいの女の子が風船を見上げていて、今にも泣き出してしまいそうな表情を
している。
美月の表情を見て明は、何となく美月の言いそうなことが予想できた。
「・・ねえ、明。あの風船、取ってあげよう?」
やっぱり、と明は心の中で呟いた。
「明?」
「いいよ」
明は「しかたないな」と苦笑をしながら言った。
ーーーー*
「ありがとう!お兄ちゃん!」
明から風船を渡された女の子は満面の笑顔で言った。
「どういたしまして」
明は優しく微笑みかけながら女の子の頭を軽く撫でた。
女の子は2人に「バイバイ」と手を振りながら走り去っていった。
「美月?」
「あ、ごめん。ボーッとしてた」
「何を考えていたの?」
明が訊くと美月は少し顔を赤らめながら言った。
「・・いや、あのね?何か、私もあんな可愛い子供がほし〜な〜って思って」
「ふ〜ん?じゃあ、今夜から子作りに励むかい?」
明は不適な笑みをうかべて言った。
「えっ?」
「じゃあ、決定だね。運良くも明日は日曜日だし、寮の方には僕から連絡をしておくよ」
「ぇ?ぇえ?!」
「イヤ?」
明が不安そうに訊くと美月は慌てて首を横に振ってしまった。
「・・まあ、『イヤ』て、言っても言わなくても、美月に決定権は無いんだけどね」
そう言うと明はニッコリと微笑んだ。
そしてその夜のことは、窓から見ていた月のみぞが知る。
fin