図書館の守り
「ここを通りたければ儂を倒してから行け」
森の前にある図書館の前。
一人の老けた男が僕たちの前に立ちはだかった。
スッ
ミクツが剣を鞘から抜く。
「待って待って待って待って」
僕がミクツの腕を掴んだ。
「ダメですよ」
「やられる前にやるしかない」
ミクツはなぜか少し焦っている。
「相手は老人です。ですから……」
フォン
老人が剣を抜き、振るった。
……多分。
見えなかった。
「ミクツ、勝てるか?」
ジンの問いに、ミクツは少し間を開けて
「無理だ」
と首を横に振った。
「そうか。一旦引くぜ」
僕たちは情報収集をしに、近くの街へ向かうことにした。
「爺やのことですね。有名ですよ」
一番近くの街の鍛冶屋。
鍛冶屋の店主である女がミクツの剣をまじまじと見ながら言った。
「もう何十年になるんでしょうね。私が生まれた時にはすでに図書館の守り手として馴染んでいました」
「子供のころはまだ若くてね、”おじさん”って呼ばれてたんですけど。懐かしいなぁ。北の国での旅の話をよく聞いたっけ」
北の国での旅……となれば、アーデルバイトの父親と一緒に魔王の封印の調査に協力した人物で確定だろう。
言われてみれば、本に書かれている内容はとても一人で調査できるようなものではなかった。
「ところで、その剣借りてもいいですか?良い剣ですね」
「やだ」
ミクツが即答する。
「爺やに関する一番大事な情報持ってるんだけどなぁ……」
ちらちらと剣を横目に見ながら鍛冶屋が言う。
「……チッ」
ミクツが鍛冶屋に剣を投げ渡した。
「ありがとうございまぁす!」
鍛冶屋は剣を受け取り、うっとりとした顔でその剣を抜き、刃を見た。
「良いですねぇ、このレベルの剣は王都でもなかなか見れませんよ。いやぁ素晴らしい……」
「早くその大事な情報くれなーい?」
ミクツが若干イライラしながら聞く。
「あぁ、はい。爺やの右ポケットには鍵が入ってるんです。何を開けるためのものかは知らないんですけどね」
「鍵……か」
恐らくそれは隠し部屋の鍵なのだろう。
「あの図書館の中からは超強力な魔力の流れがあった。多分魔法結界だな。強引に突破するのは無理だぜ」
爺やを避けてはあの図書館に入ろうと、隠し部屋に入ることはできない。
倒すしかないのか。
「私がやる」
「ビビって逃げたままじゃプライドが傷つくからな」
僕たちは、この街に数週間滞在することになった。
老人を倒すために。
「勇者ぁー。手合わせしてくれぇ……」
ミクツが僕の部屋のドアを開け、そう言い放った。
その顔はしょんぼりとしていて、いつもの覇気がない。
「僕じゃ相手になりませんよ」
僕は一般人よりは強い。
勇者としてそれなりの鍛錬を積んできた自信はあるし、剣を振るいながら日々を送ってきている。
それでも、ミクツには一切敵わない。
ミクツの見た目はまるで子供のようだが、熟練の剣士のオーラをまとっている。たまに鍛錬の景色を見ていたが、僕じゃ到底たどり着けそうにない領域に立ち入っていた。
「それでいーんだよ。雑魚をボコしたい気分なんだ」
「……分かりました。付き合いますよ」
僕はいやいやながらも、ミクツと稽古をすることにした。
「よいっしょお!」
ミクツの木刀が僕の木刀を弾いた。
ゴロンッ
木刀が音を立てて地面に落ちる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
僕は何時間もの稽古のせいで息も絶え絶えだった。
「雑魚をいたぶるのは気持ちがいいな!自己肯定感が高くなる!」
ミクツが汗を拭きながら笑顔で言う。
僕の剣はミクツに一撃も当たらなかった。
本当に、格が違う。
ミクツは水を飲み、一息をついてから
「十八回。十八回私はあのジジィに敗北した」
と語る。
そして、僕の目をまっすぐと見た。
「今度は勝つ」
その目には、先ほどのしょんぼりとした様子はない。
自信を完全に取り戻していた。
「信じてますよ」
僕にできるのは、そう言葉をかけることだけだった。
数時間後。
ボロボロになったミクツが帰ってきた。
「随分長かったですね。どうでした?」
ミクツは僕の部屋に入るなり、僕のベッドにごろんと転がる。
そして、僕に何かを投げつけた。
「これは……」
僕の手に渡されたのは、鍵。
「おめでとうございます」
僕が手を叩く。
「君のおかげだよ」
ミクツは悔しそうな顔をしながら
「君がたった数時間でへばったおかげで、老人には体力がないであろうことに気付いてね……八時間。粘り勝ちだよ」
ミクツは息を切らしている。
「あと、ジジィから多分勇者に向けて伝言」
「”勇者よ。あとの世界は任せた”って」
世界は任せた。
……多分、それは僕に向けての言葉じゃないな。
「とりあえず、おめでとう。今日はよく眠って明日にでも……」
「スー。スー……」
ミクツは寝息を立てている。
「……僕の部屋なんだけどなぁ」
まぁ、良いか。
これで一歩進んだ。
後は、一体どんなものが残されているかだ。
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