処刑人・アーデルバイトについて
「処刑魔法」
執行の剣
剣が僕の肩に当たった。
その瞬間、剣がばらばらに砕け散る。
「無罪……か……」
アーデルバイトが剣を手放した。
剣は音もなく地面に落ちると、空中に霧散する。
「良いだろう。魔王の封印に関する文献の在処だな?教えてやる」
「ありがとうございます」
アーデルバイトが家の奥に足を向ける。
「ちょっと待ちな」
ジンがそれを制止した。
「なんだ?目的は達成できただろ、何の文句がある」
アーデルバイトが足を止め、こちらを向く。
「舐めてるのか?俺は魔法使いだ。この街にかかった”笑顔になる”魔法を見過ごすわけないだろう」
「笑顔になる魔法?何の話だ?」
「やっぱり俺を舐めてるな。お前が知らない訳ないだろう」
「だから、何の話だ?」
「俺の魔法は”ルールに則らない者を処刑する”だけだ」
「は?」
ジンが唖然とする。
ていうことは、じゃあ……
「笑顔の魔法というのを、俺は知らん」
アーデルバイトが言い放った。
しかし、ジンはまだ食い下がる。
「嘘だな。アルテ、解呪魔法は使えるか?」
「はい」
アルテが近くの通行人の方を向き、手を祈るように握る。
「治癒魔法」
解呪
その人は、何事もなかったかのように笑顔のまま歩き続けていた。
「……」
ジンが言葉を失う。
「この街に溢れている魔力は俺の魔力だ。しかし、それは処刑魔法を執行する条件の一部にすぎん。笑顔に関しては知らん」
「気になるならこの街に数日間滞在でもしてみろ。勇者と言えど無罪ならばただの旅人に過ぎん。心行くまで調査でもすればいい」
そう言ってアーデルバイトは屋敷の中に歩いて行った。
「どういうことだ?魔法じゃないとなれば……」
「町の人はみな自主的に笑ってるということになりますね」
しかし、理由が分からない。
この街独自のルールが何か関係しているのだろうか。
「せっかくだ。一週間ほどこの街に泊まってみよう。この笑顔の謎と、あの処刑魔法……解明しなければ気が済まん」
「さんせー。私もちょうどあいつの街を見てみたかったんだ」
その時、アーデルバイトが屋敷から出てきた。
「ほらよ」
そして僕に本を一冊投げ渡す。
「それは俺の親父が書いた本だ。俺には要らん。くれてやる」
「ありがとうございます」
僕が頭を下げた。
「再三言うが、俺はお前が嫌いだ。勇者」
「二度とその面を見せるなよ」
扉が閉まる。
「それじゃあ、宿でも探すことにしましょうか」
かくして、僕達は処刑人の街に一週間滞在することになった。
街を歩いてみて、改めて異常を感じる。
どの人も笑顔。
きっと、それは悪いことではないのだろう。ただ、それでも……気味が悪い。
ゴミ一つない地面も、輝くほど磨かれた石の噴水も、なぜか不気味に思えてくる。
なんていうんだろうな、現実感が薄いというか……いうならば、楽園のような場所である。
いい街だと言われるのも納得だ。
少し歩いて、宿が見つかった。
この宿もきれいだ。
「こんにちは。四部屋予約できますか?」
「はい!空いていますよ~」
やはり、笑顔だ。
「あの……なんで笑顔なんですか?」
僕が思い切って聞いてみる。
「……奥の部屋までどうぞ」
受付の人の笑顔が少し暗くなった。
まずい、地雷だったか?
僕達は誘導されるがままに受付の奥の部屋まで入っていく。
その部屋に入り、ドアが閉まった瞬間、受付の人の笑顔が消えた。
「これはね、ルールなんですよ」
確か、アーデルバイトの魔法は”ルールに則らないものを処刑する”魔法だったはずだ。そのルールに笑顔を強制させるものがあるのか?それなら……
「ルールとは言っても裏ルールなんですけどね」
「裏ルール……?」
僕が聞き返す。
「はい。この街は元々治安の悪い町でした。しかし、そんな犯罪を行うものを殺していったのが今の”処刑人”様なんです」
「処刑人様はこの街の領主になり、一つだけルールを作りました。それが、”他者から奪うな”というものです。他者の荷物やお金から、命まで。他者から奪うのを禁止されました」
「そして、それと同時にここで暮らす者同士の間で暗黙の了解といった風の新しいルール、裏ルールが作られたのです」
「人前で笑顔でいないといけないのは、その裏ルールの一つなんですよ」
なるほど、裏ルール。
街に住む人たちの中での暗黙の了解……ね。
まぁあって当然か。元々治安の悪いところだったのだ、抽象的なルール一つで治安を維持するのは難しかったのだろう。
しかし……
「なぜ”笑顔でいる”と言う裏ルールができたんですか?」
「処刑人様が処刑をされるときに言うんですよ」
「泣き喚くな。笑って死ね」
「って」
一週間後。
僕達は街を去る前に、アーデルバイトの屋敷に来ていた。
「来るなと言わなかったか?」
アーデルバイトが嫌な顔をする。
「僕は勇者ではなくリアルです。ほら」
僕が腰の横をポンポン叩く。
そこには、黄金の光輝く聖剣はなかった。
「……こずるいな。だが、良いだろう。用件はなんだ?」
「なんで勇者が嫌いなのか知りたいと思いまして」
これは単純な僕の好奇心。
そして、微かな勇者としての誇り。
勇者として、嫌われているのが気に食わなかったのだ。
「勇者が嫌いな理由……単純だよ」
「俺は勇者に嫉妬しているのさ」
嫉妬……?
「俺は力以外で他者を制することができない。それなのに勇者はその名前だけでどんな悪い奴でも一瞬は耳を傾ける」
「嫌いだよ。俺には到底できない芸当だ」
僕は宿の受付の言葉を思い出す。
(でも、悪い人じゃないんですよ)
(むしろすごいって言うか、ありがたいって言うか……あの人が居なかったら守れなかった命はたくさんあると思います)
ここまで来るときに話を聞いた町の人の話も。
(処刑人様はすげぇんだよ!悪い奴は一撃でズバッと!しびれるね!)
(この前街の清掃をしてましたね。綺麗好きないい人なんですよ)
(処刑人様ね……この街の勇者様みたいなものですよ。簡単に言えば)
「……多分あなたは、自分が思ってる以上に立派ですよ」
「そうか。帰れ」
アーデルバイトがドアを閉める。
知りたいことが知れてよかった。これで満足だ。
僕達は、処刑人の街を後にした。
「次の目的地はどこ?」
ミクツが僕に聞く。
「次の場所は……えーっと……」
僕が手に持ったカバンから本を取り出す。
アーデルバイトからもらった本に書かれていたのは大量の魔王の封印に対しての実験や聖剣に関する情報。
そのどれも核心に迫るものではなかったが、”最も重要な情報はここに”という情報と共に地図が書かれていた。
「どうやら、フェルトという名前の図書館の隠し部屋に何かが隠してあるそうです」
「フェルト図書館か。このまま東の国の方向に北上すれば行けるぜ」
「そうですね。大体二週間ぐらいでしょうか」
「遠いなー」
ミクツがぼやく。
僕が本を閉じた。
次の目的地はフェルト図書館。
そこにはいったい何が隠されているのだろうか。
魔王を殺す方法か、はたまた……
魔王を殺せない理由か。
どんな結末であろうと、僕の目標は変わらない。
勇者として、魔王を殺す。
それだけだ。
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