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山本五十六曰く【やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ】

第二話

【帝都東京大惑星】:大日本皇国の首都惑星であり、皇国政府と万世一系の帝 天皇陛下が座す、日本という国家の中枢星。


 それは大日本皇国軍の存在意義そのものであり、大日本皇国軍人の偉大なる使命そのものである。

そして、彼女の目指す目的地はその帝都東京大惑星の軌道上に存在する『軌道横須賀軍港』だ。


 大日本皇国の心臓であり脳である帝都東京大惑星を(ほか)なる敵から防ぐには、惑星(りく)に砲台、宇宙(うみ)(ふね)が必要である。

しかし、新天地であったここら一帯の惑星は全く開発されておらず、御国を守る軍艦は惑星地表に仮敷設された軍港と言う名のただの空き地に泊めておくしかなかった。

惑星地表に必ず座礁(ちゃくりく)する必要がある為、それ用に設計されていない軍艦には許容負荷を優に超える負荷が運用する度にかかり、毎度宇宙空間まで昇る為の膨大な燃料消費が惑星開発を阻害していた。

何よりこの状態では有事の際すぐに出撃する事が出来ない。軍艦がすべて座礁(惑星地表にある)しているからである。

また、これは軍艦だけでなく移住船や輸送船も同じであり、民間から国防に重要な輸送網まで全てを阻害していた。


その為、大日本皇国政府と大日本皇国海軍は早急に守護すべきこの星の軌道上に新時代日本初となる軌道軍港を建造する事を決定した。


 海軍第一〇軍備計画 一号により起工、竣工した当時最先端の施設を備えた軍港には、

勅令第五百七十三号により発布された皇国海軍条例 第七条(各海軍区の軍港に鎮守府を置き、その海軍区を管轄させる)によって、前地球時代に存在した鎮守府と同じ名を冠する『横須賀鎮守府』が設置された。

また、皇国海軍条例 第六条(皇国の外気圏および宇宙空間を区分して、七つの海軍区とする)により、帝都東京大惑星の外気圏および周辺宇宙空間は第一海軍区に含まれる事となる。

設置された横須賀鎮守府は皇国海軍条例 第八条(鎮守府は周辺の重要な軌道港を管轄し、帝都東京大惑星およびそのほか七か所に設置し守備する)によって、軌道横須賀軍港とその他第一海軍区に存在する軌道港を管轄する事となった。


こうして帝都東京大惑星を守護する大日本皇国海軍最大の軍港『軌道横須賀軍港』が出来たのである。


 というのが軌道横須賀軍港と横須賀鎮守府についての学校教科書の説明であるが、歴史的な経緯は今の瑠海(るみ)にとってはどうでもいいことだ。


沖縄惑星県から軌道航行便で外気圏まで飛び皇国沖縄軌道港へ。そこから惑星間旅客船に乗り換える。

いつもはこんくらいの距離なんてすぐなはずなのに、今日は妙に長く感じられた。


軍港に降り立った瞬間、瑠海(るみ)は小さく息を吐いた。


石造りの重厚な建物が、無言の威圧感を放ちながら並んでいる。

前地球時代――それも、元号明治から昭和にかけての古めかしい西洋の様な建築様式。

教科書で見た白黒の古写真が、そのまま立体になって目の前に現れたようだ。


相変わらず時代遅れ……ホント上層部って伝統主義とか保守主義拗らせすぎてるわ


心の中でそう呟きながらも、視線は自然と建物の細部を追ってしまう。

無骨で、重たくて、効率とは程遠い。

それでも、不思議と嫌いにはなれなかった。


……って、違う違う


はっとして、私は歩調を早める。鎮守府への報告は最優先事項だ。感傷に浸っている場合ではない。


【横須賀鎮守府】:帝都東京大惑星防衛の要であり、膨大な艦隊と人員を束ねる国家防衛の中枢。

軌道横須賀軍港に設置された艦隊後方を統轄する機関。

皇国海軍組織と指揮系統を定めた勅令第五百七十三号 皇国海軍条例に基づき設置された最初の鎮守府。


鎮守府の巨大な赤レンガ建築に近づくにつれ、周囲の視線が増えていくのを瑠海(るみ)は感じ取った。


「……ねぇ、あの人……」

「あれ瑠海(るみ)大佐じゃない?」

「最近見なかったよな……」

「特別休暇中だったらしいよ」

「あんな出来事があったのに……」


 耳に入らないふりをして、瑠海は前だけを見る。制服の襟を正し、背筋を伸ばす。


「……にしても可愛いよな」


ふっ!今日も言われちゃったぜ!


 執務室の扉が閉まった瞬間、ようやく肩の力が抜ける。


「いやー鎮守府に着いてからこの部屋に入るまで色々言われ続けました。人気者って辛いですね!」


軽い調子で笑い、瑠海(るみ)は言った。ついでにここに来るまでに聞こえた事も。


机の向こうに座る男――提督は、呆れたように眉をひそめる。


「多分人気だからという理由じゃないと思うぞ」


一拍置いてから付け足した。


「……最後の一言本当に言われた?」


なんだそれは。どういう意味だ。これでも巷では絶世の美少女とか、黙れば美少女とか、黙れ美少女とか言われてるんだぞ。


「細かいことは気にしない主義です!」


私はにっこりと笑い、姿勢を正す。


背筋を伸ばし、踵を揃え、腕を上げる。慣れ親しんだ所作だった。


「大日本皇国海軍大佐、横須賀鎮守府所属、天霧 瑠海(あまぎり るみ)。特別休暇任務を終え、ただいま帰還致しました」


「ああ。よく帰ってきてくれた」


提督は優しく頷くと、すぐに表情を引き締めた。


「帰還早々で悪いが……貴君の新しい配属が決定した。今日から準備に取り掛かってもらう」


「了解しました。大日本皇国軍人として、天皇陛下の為、日本国家の為、尽力したいと存じます」


即答だった。その言葉に、嘘はない。


「して、新しい軍艦について詳細をお聞かせ願えますか」


「……『日高型戦艦三番艦 大八洲』という名の戦艦だ。貴君には、その艦の艦長を務めてもらう」


提督はわずかに視線を逸らしながら言った。


「日高型……?」


私は顔を傾げた。聞き覚えのない艦名だったからだ。


「新型艦でしょうか」


「新型……」


提督は一瞬、言葉を探すように口を閉ざした。


「……まぁ見方を変えれば、そうとも言える……かも」


机の上に置かれたタブレットが、見ろと言わんばかりにこちらへ押し出される。提督の掌には、薄く汗が浮かんでいた。


……?


違和感を覚えつつも瑠海(るみ)はタブレットを手に取り、画面に目を落とす。

設計図、艦の写真、諸元――


「……大きいですね」


思わず声が漏れる。しかし何かがおかしい。何か引っかかる所が……外観?かなり珍しい?というか……古い?見た目ではあるけど……多分そこじゃなくて……

まぁとりあえず指を動かし、画面をスクロールしていく。設計図、写真の欄を超えて経歴、詳細を見た時……


「……え?」


スクロールする指が途中で止まった。


竣工日の欄。そこに記された数字を、もう一度なぞる。


「提督、これ竣工日が紀元一万六百五十二年になってるんですけど…」


今が紀元一万千三百六年、計算は早い方だ。


「つまりこれ……654年前?」


顔を上げると、提督は観念したように息を吐いた。


「ああ。そうだ」


そして、はっきりと言った。


「貴君には、600年前に建造された旧式戦艦――『日高型戦艦三番艦 大八洲』の艦長になってもらう」


一瞬、言葉が理解できなかった。


「……600年前?」


喉が、ひくりと鳴る。


「冗談……ですよね?」


「冗談ではない。その計画書に書かれている事が全てだ。大日本皇国海軍は600年前の旧式艦『日高型戦艦三番艦 大八洲』を現役艦に復帰させ、横須賀鎮守府に属する一線級の戦力として扱い、その艦長に貴君を割り得てる事を決定した。まだ所属艦隊は決まっていないが、時期に決まるだろう」


提督の声は低く、揺るがなかった。


瑠海(るみ)は、タブレットを握ったまま固まっている。画面の文字は、さっきから一文字も増えていないのに、妙に目が滑る。


そしてさっきまでの違和感が今解決した。デカい、デカすぎるんだ……

詳細の欄に書いてある全長912メートルは何かの冗談だろうか?


「……600年前……」


いや600年前の旧式艦という時点で多分ふざけてるわ。

口に出してみてようやく数字の異常さが実感として胸に落ちた。


「……マジですか。可能であれば今すぐ辞退したいのですがよろしいですか?」


反射的に言葉がこぼれた。


「即答だな」


提督は笑みをまぜながら言う。


「さっきまで陛下の為日本の為尽力したいと言っていたのに」


「そりゃ、600年前の軍艦って聞いたら誰だってそうなりますよ!何ですか600年前って!よくそんな大昔の軍艦を海軍も残してやがりましたね!?」


瑠海(るみ)は思わず声を荒げた。


「大体そんな反応をされるとは思っていた。俺だって最初聞いた時は耳を疑ったさ」


提督は肩をすくめる。


「しかし、もう上の方で決まったことだ。すまないが辞退はできない」


その一言で、瑠海(るみ)の勢いは失速した。唇を噛み、視線を落とす。


「……理由は、何ですか」


問いかける声は先ほどよりも低い。


「今更そんな旧式艦を前線復帰させないといけない程、我が国の国力は低くないはずです。我が国が拡大路線に移行した今、軍艦が必要である事は理解しています。しかし、日本の造船能力なら十分な軍艦数は確保できるはずです。今さら旧式艦を復帰させなければならない理由が……」


「分からない」


即答した。


「この決定は大日本皇国海軍本陣で可決されたものだ。理由を尋ねても、答えは返ってこなかった」


「……提督クラスの方でも教えられなかったというのですか」


「ああ」


そう提督は言った。


 ……嘘だろう。帝都東京大惑星を守護する日本最大の鎮守府の司令長官で海軍中将の提督が上で可決された事を教えられないなんて事あるのだろうか。


もしかして……


瑠海は、言葉を探すように一度口を閉じた。

床に落ちた自分の影を見つめる。窓から入る光を見れば丁度この部屋を照らしている。


「……それなら……私への、罰なのでしょうか」


声が、思ったより細くなった。

執務室が、しんと静まり返る。


「それは断じて違う」


提督の声が、空気を切り裂いた。

瑠海は、思わず顔を上げる。


「横須賀鎮守府司令長官として断言する。そもそもアレは、お前の責任じゃない」


提督は真っ直ぐに瑠海(るみ)を見据えた。


「お前に罪はない。罰を与えられる理由もない」


一拍置いて、低く言い切った。その言葉が私を安心させる。この言葉を私はひそかに望んでいたのかもしれない。

反射的に敬礼しようとして、少し手が少し遅れる。


「は、はい……あ……ありがとう、ございます……」


慌てて姿勢を正す。なんか恥ずかしくなってきた。私らしくもない。


「そ、それにしても……この大八洲って、変わった見た目してますよね! なんか……強そうというか……いかにも昔の艦、っていうか……!」


タブレットを持ち上げ、早口になる。何とかこの空気から抜け出そうと話題を変える。


「そうだな。今の日本の軍艦は、前地球時代の軍艦――つまり水に浮かぶ船の形を残した設計が主流だが、大八洲は現代よりさらに古い」


提督は画面の艦影を指さす。


「見た目はほとんどそのまま“前地球時代の戦艦”だ。中身こそ宇宙船だけどな。地球至上主義者が見たら感動でぶっ倒れるくらい似てると思うぞ」


提督は鼻で笑った。


「もしかして……平和主義傾向が強い地球至上主義者に戦争を納得させる為のプロパガンダって事ですか?」


私は半ば冗談めかし笑いながら言う。


「まぁ可能性としてはある」


あるんだ……


「だが、それだけのためにこんな骨董品を引っ張り出すとは思えない。本命の理由は他だろうな」


「なるほど。というか骨董品とか言わないでください。私それに乗るんですけど」


私は思わずは目を細める。


「はは、すまない」


提督は笑いながらもすぐに表情を改めた。


「だが安心してくれ。大八洲は横須賀鎮守府が総力を挙げて近代化する。設計思想は600年前という肩書通りに古めかしいが、幸い全く損傷は見られなかった。改修すれば日本の最大戦力となる事は確実だ。

しかし、少々癖のある戦艦となるだろう」


その言葉を聞き、私は静かに息を吐く。


「だからこそ幾多の海戦を勝ち抜いた貴君に任せたい」


提督はそう続けた。一瞬迷いがよぎる。

だが、それはすぐに消えた。


瑠海(るみ)は立ち上がり、背筋を伸ばす。

踵を揃え、腕を上げ、敬礼。


「大日本皇国海軍大佐、横須賀鎮守府所属、天霧瑠海(あまぎり るみ)。『日高型戦艦三番艦 大八洲』艦長への任命、謹んでお受けいたします」


はっきりと、声を響かせる。

提督は、しばらく黙って彼女を見つめていた。


「……ありがとう、瑠海(るみ)大佐」


その声は、先ほどより少しだけ柔らかかった。


「そういえばお前が留守の間、綾火(あやか)がよく執務室を訪ねて来ていたぞ。一日一回は『瑠海は戻ったか』と聞きに来ていた」


ふと思い出したように言った。呼び名が”お前”に戻っている。正直こっちの方が好きだ。


「……そうですか。お礼を……言わなければなりませんね」


私は自然と視線を落とした。

その言葉は誰に向けたものだったのか。

自分でもはっきりとは分からなかった。

【あとがき!世界観解説!】


用語『地球至上主義』

人類は偉大なる母である地球に住み、死ぬべきであるという思想である。

前地球時代を善なる時代とし、母なる星である地球を汚し見捨てた人類を愚かだと主張する。

目標は死の星となった地球を再び人類が住める星に再生し、人類全員を宇宙から地球に戻す事だという。

人類同じ母から生まれた兄弟であるという思想の為、戦争を嫌っており平和主義的傾向が強い。

前地球時代を狂信的に崇拝している為、地球で生まれた文化や建築様式などを好むという特徴がある。

地球での歴史や話が大量に残っている前地球時代から存在する国家の国民に多い思想である。

「人類は地球から生まれたはずだ。私達は地球で生まれるはずだった。人類は地球と共に死ぬべきだった」


法律名『勅令第五百七十三号 《皇国海軍条例》』

紀元八千四百三十二年、勅令により発布された海軍組織と指揮系統を定めた条例。

勅令とは天皇陛下が発する法的効力のある命令の事。大日本皇国憲法 第十一条で定められた法形式である。

条例内容は以下の通り。


第一条


「およそ軍令(作戦・統帥に関する事項)に関するものは、参謀本部長が天皇に奏上して意見を述べ、天皇の裁可を受けた後、海軍大臣がこれを執行する」


第二条


「戦時においては、天皇の裁可を受けた軍令は直ちに鎮守府司令長官、艦隊司令長官、または特命司令官に下達し、司令部(帷幕)と相互に通報して、連絡が途絶えることのないようにする」


第三条


「海軍の軍政(行政事項)は、海軍省官制に基づき、海軍大臣がこれを掌る」


第四条


「海軍省に、将官会議、造船会議および兵器会議を置く」


第五条


「海軍省は、海軍兵学校、機関学校、水路部、督買部、衛生部、軍医学校、会計検査部、兵器製造所および火薬製造所を管轄する」


第六条


「帝国の海岸および海面を区分して、七つの海軍区とする。その区分は次のとおりである」

(第一海軍区、第二海軍区、第三海軍区、第四海軍区、第五海軍区、第六海軍区、第七海軍区)


第七条


「各海軍区の軍港に鎮守府を置き、その海軍区を管轄させる。鎮守府の名称は、その所在地の地名による」


第八条


「鎮守府は周辺の重要な軌道港を管轄し、帝都東京大惑星およびそのほか七か所に設置し守備する」


第九条


「鎮守府司令長官は、管内において軍令を主掌し、軍紀・風紀および訓練を統督し、軍政を管理する」


第十条


「各軍港に司令官を置き、鎮守府司令長官の命を受けて、港内の守備その他諸般の事項を掌らせる」


第十一条


「艦隊は、大艦隊、中艦隊および小艦隊の三種に区別する」


第十二条


「艦隊司令長官および司令官は、艦隊を統率して海上を防衛し、攻撃および防御の任務に従事する」


第十三条


「艦船は、各鎮守府および各艦隊に分属する」

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