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トリガーガードにぶつかるまで  作者: ほんぽうな鱶


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01話 緑の国

ある日の昼、とある飯屋にて


「ねえ、まだ着かないの?俺はもう疲れたよ...」

「別にもう良くないか?いくら報酬が良いからってわざわざこんな遠出してまで行かなくたってさあ...そもそも下道じゃなくて電車でー」

「うるせえなあ...そんな金があったら力仕事なんてとっくに辞めてるだろうが...お前らもどうしようもねえことをウダウダ言ってんじゃねえよ...」

と、体格のいい男たちが話している。体格の割に品性良く食べる奴らで根はいいやつなんだろうと伺える。


「だが、今回の報酬は金だけじゃねえ。噂によれば、働き次第でグラドリーン結晶が手に入るらしいんだ...!」

「本当かよ!手に入れたらどうする!?質屋で売っちまうか!?」

「どこまで脳筋なんだよお前は...俺たちのグローブを強化してもらって仕事の効率とやれる仕事の幅増やせるようにしてもっと稼げるようにすんだよ!」

「でも、絶対もらえるわけじゃないんでしょ...噂程度でわざわざこんな遠くに来なくてもよかったよー...」


...だいぶ話が盛り上がってるな。こんなに暑苦しいのに元気な奴らだ。噂だとしてもそんな重要な話をデカい声で話すなんてやっぱり脳筋か。

そんなことを思いつつ、焼き飯を食べながらまた一ページ、ガイドブックをめくる。


グラドリーン鉱石か...ウーバルジュラ王国の地域で採られるレアメタル。衝撃伝導の性能が非常に高く、作業現場のサポートアイテム製品に幅広く使われている。色は周りが白く、中心に向かって煌びやかな黄緑色をしているのが特徴。


よし、一通り読み終わった。ご飯も食べ終えたし、また向かうとするか。


席を立ち、レジ前で店員を待つ。ふと、テレビに目が行く。

『昨日もトラスで大規模な空襲が起き、死傷者は増えていく一方で、つい先日一万を超えました。侵攻はまだ続いておりーー』


「いつも戦争の話で嫌になるねえ。ここら辺は環境がこんなだから戦争が起こる気配なんてこれっぽっちもないけどずっとこんなだと絶対ないってわけじゃないからあんたさんも気をつけてね。」

そう言われ、頷きながら伝票を渡して、さっさと支払う。


「...ごちそうさま」

「ありがとうございましたー!」


店を出ると強めな風と共に砂が舞う。羽織っていたマントが靡く。目に砂が入らないように急いでゴーグルを装着する。


手に持っていたガイドマップの表紙を見る。表紙にはこう書いてあるーー


『際限なき砂漠に存在する奇跡!!多種多様な植物も群生する世界のオアシス!!緑の国、ウーバルジュラ王国を満喫しちゃお!』


「『緑の国』、ねえ...」


そうして目を上げる。一面砂漠の世界に水面に反射した光と限りない水源で成長した溢れんばかりの植物の緑が見える。周りには車、電車などの交通網の動線が国に一点に集中している。砂漠に集まる動線の管は蜘蛛の巣のように見えて、異様な光景だ。


「今回は...どうなるかな...」


そう呟き、かぶっていた帽子を目深にし、ウーバルジュラへとまた歩き出した。

ウーバルジュラ王国 南部入国口


駅からたくさんの人々が降りてくる。皆、きれいな服を着て、旅行バッグやキャリーケースを持って、子どもたちは降りた瞬間からはしゃいでいるのが聞こえてくる。


「...今日も絶好の仕事日和だ!!」


向こう側から大勢の人が来るのが見える。私含め周りの人たちが静かに身構える。そろそろだ...。気を引き締めろ。こいつらは敵だ。今日こそ絶対に負けない...!

まるで雪崩のようにどんどん近づいてくる。そして、群衆の先頭がメインストリートに入ると同時に私たちは一斉に声を上げる。


「「「「「ウーバルジュラ王国へようこそーーーーー!!!!!」」」」」


さあ、開戦だ!!

「観光案内していまーす!地元ならではのスポットをご案内しますよー!」

「長旅でお腹も空いたでしょう!すぐそこのチャラジュ飯店ならウーバルジュラのグルメを安く、堪能できちゃいます!ぜひ寄って行ってくださーい!」

「どこよりも早く行きたい場所にお届けします!タクシーいかがですかー!?」


色とりどりの売り文句で客を呼び込む。この王国で群を抜いて稼げるのはサービス業いろんな人種が訪れる。だから、需要は高まり続けるし、一見、訳のわからないサービスが意外と利用されることも多い。まあ狙う人も多いけど。っていうか竜人の尻尾格納サポーター販売ってなんだよ!なんであんなのが売れてるんだ!ってそんなの見てる暇ない!私も頑張らなきゃ!


そして少女は一層声を張る。


「この街の細い路地もスルスル抜けて、あなたの行きたい場所までひとっ飛び!ミューランの高速バイクタクシー乗って行きませんかー!?」


...誰も見向きもしない。でも、ここで諦めるわけにはいかない!

ミューランは声を上げ続ける。


本当はわかっている。家族連れが多いからか二人のバイクなんて誰も乗らないって。でも、生きるためには稼がないといけない。いつまでも、無理させるわけにはいかないの!


しかし、立ち止まる人はいない。声は空を切り続ける。ふとした瞬間、彼女の肩がぶつかり、尻餅をつく。


「おお、すまない。大丈夫かい?ここら辺は人通りが多いから近づかない方がいい。お父さんかお母さんは近くにいるかな?」


そう言うと手を差し伸べてくれた。とても優しい言葉。ただ、それは私にとっては救いの言葉ではなかった。大丈夫です。と言い放ち、その手を無視するように路地へと入って行った。


嫌なことを考えてしまう。この国は私と言う存在がいていいと肯定してくれるように思えない。採掘資源が豊富なこの国で女で力も弱いからそんなのできない。身長も小さいから気づいてもらえない。華奢じゃないからリゾート勤務もできない。家族は自分たちで精一杯なのに、私がいるから生活はもっと苦しくなる。ずっと笑顔で接してくれるけど、体がどんどん悪くなってるのもちゃんと知ってる。いっそ、いなくなりたい。ずっとそんなことを思っていた。


メインストリートに戻ると、人はほぼいなくなっていた。


この時間のラッシュは終わったか。はあ、バイク回収しに行こ。空を見上げ、一息つく。いつまでこうしていられるんだろう。私はいつまで...


自分の未来を想像できない。こんなにキラキラしている場所なのに気分はじめっとした暗がりに押し込まれる。そんなことを思っているとふと、背後に気配を感じる。振り返ると小さな人影が遠くに見える。人影の近くを風が吹くと砂が流れていく。


まさか、歩いてきたの!?めずらしい人もいるんだな...


どんどん近づいてくる身長は私と同じくらいか少し大きいくらいだろうか。...気になる。とても気になる。こんなにインフラが整っているのに下道から来て、しかも一人。どことなく惹かれてしまう。それに一人ならバイク使うかもしれないし!突如現れたビジネスチャンスを逃さないよう、バイクを押して走っていく。


「すいませーん!もしかして下道からきました?それはさぞかしお疲れじゃないですか?今なら高速バイクで宿までひとっ飛びだけど乗って行きませんか?」

「...疲れてないから大丈夫だ」


ふつうに断られた...


「...ひとつ聞きたいことがあるんだが、この街の図書館、もしくは歴史資料館がどこにあるか教えてもらいたい」


そう言われるとミューランは地図を見ながら、大体の所要時間を計算する。


「図書館はここからだと3,40分くらいかかりますねえ...」


「...」

「...乗って行きます?」


ウーバルジュラ王国 中央部

壁を円形に設置し、壁の上からはドーム型の透明な壁面が多い完全に外の砂の影響を受けないように遮断している。中央には国王の城と大きな湖。そこからドームの天井にまで届くほどの大樹が立っている。


中に入ると改めて実感するが、異質だな。まだ砂漠で水が湧き上がったり、発掘されたりするのはよくある。だがここまで木が成長することがあるのか?しかも水が干からびずに存在し続けている...一時的なものではなくずっと...


「少し聞いてもいいですか?」

そうミューランは振り向かずに問いかける。


「どうした?」

「なんで下道から来たんですか?ビジネスチャンスだと思って、駆け寄ってっちゃいましたけど、やっぱり気になっちゃいまして。言いたくないなら全然大丈夫なんですけど」


随分と直球にものを言うな...


「こんな珍しい国の周りがただの砂漠なのか知りたかっただけだ。交通網を使うとよく確認できない」


「環境調査の方...?」


「そんな大層なものじゃない。ただ気になっただけ。まああまり金銭的な余裕もないっていう理由も含まれてる」


「観光しに来たわけじゃないんですか?」


「ほどほどに楽しむつもりだ」


「それならもっと早く来ればよかったのに。明日は建国祭だから一層気合い入れてるから、どこも価格上がってますよ」


「ああ知ってる。ガイドブックをみて、祭りは俺も気になっていた。だからこの時期に来た」


「祭りが気になってるのに一番最初に行くとこが図書館ですか?」


「国のことを知れば祭りにも深みが出るんだ」


「そういうものなんですかね」


不思議な人だな、淡白だけど。ふつうそんなこと国の人だって気にもしないのに。わざわざ砂漠行く人なんて農家さんとかサボテン大好き人間くらいだよ。


「なあ、この国はどこもこんなに道が複雑なのか?脇道、路地が多すぎる気がするんだが」


「不思議ですよね。なんでなんでしょうね」


「こういう道は使ったりするのか?」


「めったに使わないですよ。バイクでも走れないくらい細いんですよ。橋がかけられて別の場所に繋がってたりしますけど誰も使ってないですね。でも家の近くの路地は井戸のためのものだと思いますよ。どこの家にも裏口から出た路地に設置されてるんです。私の家にもありますし」


「水源はあの湖しかない。どうやって引いてきてる?というか家に直通しないのか?」


「いや、ちゃんと家にも繋がってはいるんですけど、たまーに止まるんですよ。そのときのために井戸に貯めて使えるようにしてあるんです」


「なるほどな」


...信号で止まった時に顔を見てみるけどひとっつも笑わない。無愛想な人というよりかは何かをずっと睨んでいるイメージ。堅物って感じなんだよなあ。声色は決して怖くないし、顔は帽子かぶってるからわかりにくいけど怖くはないように見える。独特の雰囲気がある人だなあ。


ミューランはそんなことを思いながら、図書館へと進んでいると、脇道から人影が出てきて、道を阻んだ。ブレーキをかけ止まったが、避けるべきであったとすぐに後悔した。


「ここは通行止めだ。ここら辺一帯は俺たちの私有地なんでねえ。通行料払ってもらいましょうかねえ」

背の高い男がそう言いながら、ミューランの前に立つと、脇からゾロゾロと取り巻きの男たちも出てきた。


うーわ...ミスったあ...道中知らなかったけどここら辺、結構治安悪目なのねえ...早く連れてってあげようと思って、裏道使ったのが裏目に出たかあ...悪徳商売のクソ野郎が...


そう思いながらも、ミューランは彼らの機嫌を損ねないよう、最大限の愛想を振り撒く。


「...すいませえん。ここら辺の土地勘あんまりなくてえ、間違って入ってきちゃったんですう。別の道から行きますねえ。それじゃあ失礼しますう」

「ちょっと待ってよお、お嬢さん。」


うん。全然問屋はおろさないよね。わかってたけど。


「安くしときますから。ここから遠回りすると30分くらいかかると思いますよ。そんな邪険にしないでくださいよお」


うわあ...どうしようもないな。これは私のミスだ。断ったらどうなるかわからないし、さっさとお暇しよう。


「わかりましたあ。いくらですかあ?」

「一万ギークで大丈夫ですよ」


大丈夫じゃねえ!どんだけ大金だと思ってんだ!今持ち合わせそんなにないよ!


「すいませえん。そんなにないのでどうにかなりませんか?」

「そうですねえ。それじゃあそのバイクをいただく、というものに変えてもいいですよ」


それも無理ー!..だってこれ私だけのものじゃないんだからさ。...んもう!どうすりゃいいのよ!


あたりにはいちゃもん集団、ミューラン、客の男以外誰もいない。観光国とは思えない活気のなさに静かな緊張が走っていく、群れに囲まれた獲物はいつ襲い掛かられるかわからない状況にミューランは恐怖に包まれる。


少しの間沈黙が続くとゆっくりと男たちが腰に手を伸ばし、携えていた短剣に添える。リーダーらしき喋りかけてきた男はニコニコとして敵意は見せないようにしている。わざと見せるような動きでミューランたちに圧力をかける。


バイクを渡せば私たちは助かる。そうだよそれでいいんだよ。でも...これは唯一のお母さんの物なんだって、おばさんが話してくれた。私が一才の時くらいに親戚のおばさんに預けられて顔なんて覚えてない。写真もないからもう見ることもできない。だけど、私を引き渡すとき泣いてたって。こんなに小さい私を愛してたって。渡したらその繋がりが切れちゃう気がする。これだけは、私の今を引き止めてるんだよ。


そんなことをミューランは思っていた。しかし、願望では時間は止まらず、男たちの苛立ちを募らせるに過ぎなかった。


「まだかな?さっさとしてくれないかなあ?俺たちも忙しいんだよねえ」


だんだんと距離を狭めてくる。悔しい何もできないことが。なんか起きてよ。たまには救ってくれたっていいじゃん!


心の中で叫び、絶望に打ちひしがれると共に覚悟を決める。どこまで自分を捨てれば良いのか。そう自分に言い放ち、呆れた感情がめぐる。その瞬間に一粒の涙が流れた。


ごめんなさい。お母さん。


そう心の中でつぶやいた時、一つの声が私に問う。

「あのバイクは渡せない大切なものか」


まるで何事も起きてないような顔でただ、澄んだ目で私にまっすぐ向き合っている。


「...うん」


「そうか。じゃあ目でも瞑っていてくれ」

ただ、彼はそう言った。


「何をするの...?」


「こんなとこで無駄金を使いたくない。それに、人が悲しむ様子はあまり好きじゃないんだ」


そう呟くと、瞬きより速いであろうスピードで囲んでいた取り巻きの一人の懐に入り込む。瞬間、男の体が打ち上がる。全員が打ち上がった男に注目する中、彼は止まらず、別の男へ向かい低い姿勢から蹴りを入れ込む。受けた男は衝撃で吹っ飛び、壁に叩きつけられる。

だが、彼は男が叩きつけられる前にもう相手の目の前に移動している。処理が追いつかない速度で取り巻きを圧倒していく。


「なんなんだよこれ...ふざけんなあ!」


さっきまで威勢の良かったリーダーがうろたえる。目で追うにも姿のひとかけらすらも見えない。一縷の望みをかけて短剣を抜き、大きく振りかぶった。半ばやけくそ染みた斬撃は振り終わる前に彼の手によって、あっさりと止められた。ガラ空きの胸に掌底付きを叩き込まれて、吹き飛ばされた。


その一部始終を見ていたミューランはというと唖然としていた。6人ほどの男がわずか20秒ほどで圧倒するなんて光景後にも先にも見れないであろう。状況は理解できようと頭は意識と情報が混戦してまとまらず、体を動かせなかった。ただ彼はこんなことをやってのけた後でも涼しげな顔をしていて、何も気に留めていないようだった。

そして、こちらにゆっくり歩いてきて左手を差し伸べる。


「急にすまなかった。大ごとにしたくなかったとはいえ、あんなわかりにくい質問でこんなことをしてしまった。」


差し伸べた手を取り、起き上がる。


「バイクも大事だと言っていたし、早計で行動してしまった。」


「うーん、ちょっとまだ混乱してますけど、私は感謝してますよ。バイクは無事、お客さんもあまり不都合ではない形になったのでしたら、全然文句なんてつけようがないですよ」


ミューランはバイクに近寄る。座席を撫でると共に安らぎがどっと押し寄せてくる。


「もともと私のせいでこんな事態に発展したわけですし、むしろ感謝しかないです」

緊張からの解放とバイクの安全の喜びにより、自然と微笑みかけた。


「本当にありがとうございます。何かお礼をさせてください」

「いや、何もしてもらわなくていい。図書館まで送ってくれればそれで十分だ」

彼は申し訳なさそうに愛想笑いをする。


「いや、絶対します!恩はしっかり返したいんです。私。最悪、命だって危なかったかもしれないんですから。お金あまり持ち合わせてないんですよね?ご飯奢らせていただきます!」


ミューランは目を輝かせながら、絶対にお礼をするという熱意が浴びせられる。どうやっても逃げられないらしい。


「それじゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」


そう言うと、ミューランはやった!と嬉々とした様子を見せる。そしてバイクに跨り、早く乗ってください!と言いながら座席をポンポンと叩く。急かされるように席に座ると、真っ赤なバイクは静かにまた走り出す。少し走り出すとミューランが口を開く。


「そういえば、お名前聞いてもいいですか?命の恩人の名前、覚えておきたいんです」

「大袈裟だな。そんな大層なことはしてない」


少し沈黙があった後、また口を開く。


「...あまり名前を広めたくないんだが、誰にも言わないなら言うよ」

「はい!誰にも言いません!」


「...フェイルだ。」

「良い名前ですね!私、ミューランです!」


いい名前って。どこが良いと思ったんだか。...どうやっても人に関わることになるな。これは旅の運命なのか。本当にそう感じてきた。


「よろしく頼むよミューラン」

「はい!」


バイクは風を切り、図書館へと進んでいく。ウーバルジュラは快晴である。

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