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小鍋をなげられた経緯は確かこうだ。

小学2年生の頃、何か些細なことで父に怒られた私は裸足で玄関に立っているように言いつけられた。ひんやりと冷たいコンクリートに立つ自分のつま先を眺めながら、いつまでこうしてればいいのだろうか…なんでそんなに怒られたのか…そんなことを考えていた。ふと、幼心に久しぶりに帰ってきている母に心配して欲しい、ちょっと父を困らせてやりたいという構って欲しい気持ちが湧いてきた。

そこで私がとった行動


(突然私が姿をくらましたら、心配してくれるかもしれない。探しに来てギュッとしてくれるかもしれない)


裸足のままそっと玄関の引き戸をゆっくり、ゆっくり、音をたてないように自分が通れるギリギリだけ開けて外へと足を進めた。

家の前は比較的大きめの石がならぶ砂利道で、ゆっくり歩かないと足の裏に石の先端がくい込んでしまいそうだったから、そうっと、ゆっくりゆっくり家の敷地から出ていこうとした。

数歩、ほんの数歩歩いたところで肩が跳ねるような怒鳴り声が後ろから聞こえた。


「あんた!なにやってんだ!!」


玄関の引き戸をあけて、怒りをあらわにした表情でこちらを見ている母だった。ちょうど当時飼っていた外犬のゲンに餌をあげに行くところだったようで、片手には今朝余ったお味噌汁に、にぼしと白米を入れたネコまんまが入った小鍋を持っていた。


「勝手に外に出て!何考えてんだおまえは!パパに怒られたんでしょ!?なにしてんの!」


眉を釣りあげ少し枯れた声で、あわてて振り向いた私にを睨みながら心配よりも、私のとった行動と父の言いつけを守らなかった事への怒りの感情が強いと感じる怒声だった。


「そんなことするなら、もう勝手にしたら!?そのまま好きなとこ行きな!!」


犬の餌を、小鍋ごと私の方へ投げ付けた母はそう言い放ち勢いよく戸を閉め鍵をかけた。


嫌われた、怒られた、締め出された…!!


ぐちゃぐちゃになったネコまんまが足に飛び散って、小鍋は砂利の上にひっくりかえっている。私は湧き出る不安と涙で目の前がぐしゃぐしゃになる中、足の裏に砂利が食い込む痛さを感じながらも玄関まで走って戻った。


「ごめんなさい!ママ!ごめんなさいっ!」


鍵がしめられた戸を叩き、わんわん泣きながら中にいる母と父に許してほしくて何度も何度もごめんなさいと繰り返した。


「ごめんなさい!もうしません!ごめんなさい!」


何度も何度もあやまった。何に謝っているのかもうよくわからない。そもそもなんで父に怒られたのかさえ覚えていない…それでも小学2年生の私の狭い世界では両親が世界の中心だ。嫌われたくない。捨てられたくない。抱きしめてほしい。私の事が大好きだって言って欲しい。


しばらくして、鍵があく音がした。


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