第一話「青い春」
ーあれから考えた。本当の正しい世界とは何か…。私が見たのはどこにでもあるようなので周知の醜悪。だけど本当にこの世界が正しいのだろうか…昔から言い聞かせていた正しさの何かが崩れていく気がした…
異能高等専門学校、異能協会が運営する異能に関することを勉強する施設であり異能犯罪者の取締や怪奇事件を起こす怪異を払ったりなどの依頼をこなす場所でもあった。この世界は数十年前から異能者と呼ばれる人智を超えるような能力を持った存在が現れた。それによって犯罪率が増加、それと同時に怪異の活性化という問題に直面していた。
まだ青い夏の日、異能高等専門学校に通っている夜桜隼人は学校の敷地にある木を眺めていた。まだ咲いていた桜の花びらは今では完全になるなり若葉が生い茂っていた。この学校では異能力を持つ人が異能の使い方を知り人を助けるための施設だ。隼人の同級生は自分を含めて3人と少数、その理由は最近になって異能を扱う学校が増えたからだ。周囲にある学校は広大な敷地と普通の学園生活が約束されている上に危険な任務もない理想の環境だった。勿論、異能協会の公認の施設の為、文句は言えない。
異能高等専門学校は異能を扱う初めての学校であり古い、校舎は森の中にあるし学生寮も和風で古い、この学校に通っているのは異能に関する知識と人助けの精神が立派な奴だけだ。
隼人「相変わらずウチの校舎は古いねぇ…」
双葉「仕方ないよ。これが唯一の近道だしね。」
口を溢す隼人に同級生である朱音双葉が応える。欠伸をしながら教室のある校舎へと怠そうに歩いていく。
劉星「隼人。ここに居たか双葉も一緒か…」
隼人「劉星。どした?」
劉星「実は星野先生から集まるように言われてね」
隼人「真面目だねぇ…それにしても星野さんが何の用だろう」
劉星「先生だよ。隼人…いくら身内とはいえ敬う気持ちを忘れちゃ駄目だよ。」
隼人「まぁそれじゃ行きますか」
その場にいた3人は星野がいる職員室に向かった。職員室を開けるとそこには如何にもヤンキーのような金髪をした好青年が椅子に座っていた。彼の名前は星野優作、異能の学校の教職を担っている先生だ。この学校の教員は5名、その中でも星野先生は特別に認められた講師である。
星野「おや?来たか3人とも…」
隼人「何の用です?また新しい任務とか?」
劉星「隼人。敬語…」
星野「まぁそんな所だ。3人に任務が来てる…」
星野は机にあった書類を隼人に渡した。周囲にいた二人は覗き込むように書類の内容を読んだ。
星野「ある要人からの依頼だ。何かを代償に願いを叶えるという呪物が少女の中に埋め込まれているのを発見した。少女の親が言うにはある日、突然埋まっていたらしい。上層部はその少女を保護するため護衛を付けて欲しいそうだ。協会の防衛軍に依頼するべきだが依頼者が協会の人間を毛嫌いしているようでな。学生を派遣しろと…」
隼人「随分と虫のいい話ですね。その令嬢さん…」
劉星「呪物が埋まっているなんてことは普通はあり得るのだろうか。私としては親が何かを隠しているように思える。それに上層部も保護よりも呪物の独占が目的かと。」
双葉「でも代償ありきでしょ?あまり良いものとは思えないけど」
隼人「まぁ悪い奴らに利用されちゃたまったもんじゃないな…」
星野「重要な任務のため三年生も向かわせようと思ったが京都の姉妹校と合同訓練中だ。」
劉星「敵の目星は付いているんですか?」
星野「敵勢力は主にNightだな…裏社会を牛耳っているマフィアみたいな組織だ。それとVと名乗る異能者を集めた組織がある。ただ詳細が謎で不気味な組織だ…何処でも気を抜くなよ?」
星野がそういうと3人は元気よく返事をした。その声に驚いたのか教員室の扉がガタッと揺れた。3人が視線を向けると星野に容姿が似ている姉妹がそこに立っていた。
星野「由衣…燈。何でここに?」
由衣「お爺ちゃんから聞いてお父さんに会いに来たの」
星野「そうかお母さんは?」
由衣「ナギくんと一緒…」
隼人「由衣か…また大きくなったな。」
劉星「子供の成長は早いからね…それよりも隣の子は妹かい?」
劉星が優しく目線を合わせるようにしゃがむと妹の方の少女が由衣の背後に隠れた。
隼人「劉星、怖がらせるなよぉ〜」
劉星「そんなつもりはなかったんだけどね。」
星野「気にするなただの人見知りだ…」
隼人「ほう?よく見たら良い顔してんじゃねぇか…」
双葉「劉星、警察」
劉星「あいよ〜」
隼人「待て待て!!」
劉星「それよりもさっさと任務に行くよ。」
劉星が隼人の制服を掴むと引きずるように出ていった。
由衣「またねぇ隼人兄」
そうして3人は依頼主が住んでいる屋敷へと足を運んだ。見る限り立派なお屋敷であり庭師が仕事しているのが遠目で見て確認ができる。インターホンを押して屋敷に入ると依頼主と思われる執事が出迎えてくれた。
執事「初めまして私は伊織と申します。主人は留守ですので私が応対させてもらいます。」
劉星「なるほど…天海家ですか…」
隼人「天海家?あぁ十二神家の分家か…」
朱音「確か天音家の分家だったよね…異能力はないけど異能協会を支援している。」
隼人「そんな令嬢が何で協会の人間を嫌ってんだ?」
伊織「お嬢様が言うには協会の人は信用できない目をしているとの事で…」
劉星「それを言うなら…隼人も十二神家ですけどね…」
隼人「やかましいわ」
隼人の出身家である夜桜家は異能協会を支える十二の異能家の一つである。遺伝として異能力が受け継がれており、日本を異能犯罪者や怪異の脅威から守っている。次の当主候補である隼人だが自由を得るために当主争いからおりた。だが親戚仲は悪くなく行事の集まりなどは参加している。
伊織「それは承知の上です。早速、お嬢様の元へ案内いたします。」
伊織は3人を護衛対象である少女の部屋へと案内する。階段を登っている時に依頼内容に付いて再度説明された。
伊織「今回の依頼はお嬢様の護衛です。現在、異能協会ではお嬢様に埋まっている呪物を取り出す試みが進められています。主人は本家の方へ仕事に行っており、お嬢様は部屋に軟禁しております。ですが流石に学校も行かせないのは可哀想だと思い護衛任務という形で依頼させて頂きました。」
隼人「このまま軟禁した方がいい気がするけどな…」
劉星「いや、逆に連れ出した方が効果的だと思うよ。敵にとって標的が動かずにいるのは実に都合がいい。家に侵入できてしまえば簡単に連れ去ることができる。今までの護衛は誰が?」
伊織「防衛軍の隊員、八雲忍様と白帝藤次様です。」
朱音「へぇ有名人じゃん…」
劉星「八雲家の次期当主と白帝家の当主か…少女の護衛にその二人が?」
伊織「えぇNightの刺客が手だれでして…」
朱音「伊織さんも戦えそうだね」
伊織「いえ異能者には敵いませんよ…」
伊織は微笑みながらそう答えた。護衛対象のいる部屋の前にやってくると伊織がドアをノックした。しかし返事がない眠っているのだろうかと思った3人は疑問を持った表情をした。何やら嫌な気配を真っ先に感じたのは隼人だけだった。