魔王様結婚してください!
ここはグラム王国。
50年ほど前から魔王軍と死闘を繰り返していた。
いまから20年前、勇者、聖女、賢者、戦士、魔法使いの5人で魔王討伐に向かった。聖女は平民であり、勇者である王子の婚約者となっていた。聖女は国民に慈悲深く接し人気が高かった。討伐の旅でも4人に献身的に尽くした。魔王軍の力はとても強かったが、何とか討伐することができた。しかし、魔王との最後の戦いの時に聖女は亡くなってしまい、国民がみな聖女の死を悲しんだ。
勇者はロバート第一王子であり、王位継承第一位だった。魔王封印後は、幼馴染の公爵令嬢と婚約し、その後結婚した。その5年後、第一王子は王に即位した。王は再び起こうる魔王軍との戦いに備え、軍事力の向上に努めた。
そして、10年前教会より、勇者、聖女、賢者、戦士、魔法使いの力を付与したと神託があったと発表された。
国は該当者を探し当て、勇者は元勇者で現王の息子のギルバート、前回同様に第一王子であった。そして、聖女もま同様に平民の女の子であった。女の子の名は、カレン12歳だった。
カレンは快く、おそらく起こりうるだろう魔王の討伐について了承した。教会で厳しい修行に耐え、治癒力は先代の聖女よりもはるかに強い力を持っており、国民たちの人気が高かった。そして、その力を取り込むため王子との婚約も、やはり同様に結ばれた。しかし、元々公爵令嬢と婚約予定だったため、聖女は貴族たちに疎まれていた。
辺境では魔族が暴れ国民に脅威をもたらすようになり、国軍が対応に当たっていた。そして、先日、当たらな魔王即位が国民にも知らされた。それにより、勇者、聖女、賢者、戦士、魔法使いの5人は、魔王討伐のため魔王城に出発した。
魔王四天王をなんとか倒したころには、皆力を使い果たしていた。
しかし、とうとう魔王が登場し、対決することに
・・・なったはずだった。
「エイレンおにいちゃん!」
聖女がそう叫び、魔王に抱き着いた。
魔王討伐メンバーの他4人は呆気にとられていた。
「・・・カレン?」
「カレンだよ!覚えてくれていたんだ!嬉しい~」
「なんでここに・・・」
「お母さんの聖女の力受け継いじゃったみたいでさ。討伐なんて嫌だったけど、でも、おにいちゃんに会える方法がこれしかなかったから聖女としてきちゃった」
「お前は内通者だったのか?薄汚い平民が!俺と婚約までして、裏切り者め。この場で婚約を破棄する!!」
ギルバートが叫ぶ。
「裏切者?何言ってるの?あんたたちが勝手に婚約結んだんじゃない。」
「お前は俺を好きだったはずだろう」
「は?そんなわけないじゃん。しかも、あんたたちってあたしのお母さんにひどいことしたし」
カレンは冷めた目で勇者を見る。
「そんなことより、おにいちゃん昔結婚しよって約束したよね。結婚しよっ!」
「え?」
「は?」
「なっ」
「へ?」
「ん?」
皆驚愕している。
「え、おにいちゃん覚えてないの・・・?結婚するって言って、約束ねって私言ったじゃない。最後に会った日、四葉のクローバー渡してくれたじゃない・・・」
カレンは泣きそうになりながら、胸ポケットからしおりを取り出し見せる。
「え、いや、えっと、覚えてるよ、覚えてる。泣かないでカレン」
魔王は焦ってカレンをなだめる。
「カレン、あの、状況を説明してほしいのだけれど・・・」
賢者のサラリナがカレンに問う。
「仕方ないなぁ・・・おにいちゃんちょっと待っててくれる?待っててね!」
「え、あ、はい」
カレンが4人に説明を始めた。
「まずお母さんの話からかな」
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20年前魔王討伐に向かった5人のうち、聖女はカレンの母親、メアリーだった。
当時の勇者ロバートは幼馴染の公爵令嬢、現王妃であるエレナ・ルナルド公爵令嬢と恋仲であり、すでに婚約者候補としてほぼ決定しているも同然だった。
しかし、聖女が平民から見つかり、聖女の力を王族に取り込みたい前王が聖女メアリーと王子ロバートの婚約を王命で結んでしまった。
それにロバートは憤り父王に物申したが、一蹴されてしまった。そのため、婚約後もメアリーには冷たい態度をとっていた。そして、魔王討伐の旅に出ることになった。ロバートはエレンに戻り次第、婚約を解消しエレンと婚約すると約束した。しかし、一緒に苦楽を共にするたび、メアリーの包容力、優しさ、心の美しさにロバートは徐々にひかれつつあった。王都では、二人の仲が縮まり仲睦ましいこと、戻り次第結婚予定と皆噂していた。
エレナは怒っていた。メアリーに、そしてロバートに。
ロバートに手紙を出し、自分を裏切ることのないよう手紙を書いた。恨みがこもり、悲しみがあふれ、手紙には涙のあとと口を強くかみ唇から出血し落ちたのだろう跡が残されていた。ロバートは焦った。エレナを恐れた。そして、メアリー以外の他3人マリアナ・ローズ伯爵令嬢、レイ・シェイバー公爵令息、ダグラス・オーロスト侯爵令息はみな貴族の子息子女であり、レイ、ダグラスはロバートの側近、マリアナはエレナの親友でだった。3人はエレナからの手紙の内容を盗み見、メアリーについてロバートに内緒で相談していた。
何とか魔王を倒したあとも、ロバートは迷っていた。メアリーに惹かれつつある自分に嘘をつけなかった。
魔王城は、山頂、断崖絶壁に建てられていた。メアリーに、聖女の力で魔王が死んだかどうか見てみてくれないかとマリアナは頼んだ。崖の近くに倒れていた魔王にメアリーが近付いた時、レイとダグラスはメアリーを魔王と一緒に崖から突き落とした。
ロバートは呆然としていた。3人は、自分たちも悩み苦しんだが、ロバートのために国のために動いたと説明した。ロバートは、3人の意をくみ、メアリーは魔王との戦いで負傷し、一緒に落ちてしまったと王に伝えることに決めた。
メアリーは崖から落ちた時の怪我で瀕死の状態だった。それを助けたのは、魔王と年の離れた異母弟エンニュートだった。エンニュートは魔王と人間の和睦を推奨していたが、他の魔族に受け入れてもらえず孤立していた。エンニュートは、治癒魔法をかけたが、メアリーは聖女のため効きが悪かった。そのため、魔王領と辺境領の境までメアリーを運んだ。そこにはエンニュートが、人間社会に忍んで行くとき用に建てた小屋があった。そこでメアリーを看病した。メアリーは徐々に回復を見せ、話せるようになった時エンニュートにお礼を言った。そして、献身的なエンニュートに心を許した。体が完全に回復するまで、人間社会のことをいろいろ教えた。2人は互いに淡い気持ちを持つようになった。そして、2人は結ばれ、妊娠が分かった。
妊娠が分かった時、エンニュートは魔王城を訪れた。日が暮れても戻らなければ、辺境領に逃げるようにメアリーに伝えて。
魔王城には魔王の子どものエイレンが残った魔族に守られ暮らしていた。エイレンはまだ5歳だった。エンニュートは残った魔族の怒りをかい、殺されてしまった。
メアリーは日が暮れると同時に涙を流した。急いで小屋を逃げ出し、辺境領の端の村に逃げ込んだ。そして、そこでひっそりと暮らしカレンを産み暮らしていた。エイレンはいとこと叔母の存在を気にし、時折側近たちを巻いてメアリーの様子を見に行っていた。そして、カレンに出会ってしまった。次第に遊ぶようになり、メアリーもエイレンの存在に気づいていたが、敵意はないと分かっており見守っていた。カレンはエイレンにとても懐き、将来結婚すると騒いでいた。エイレンもそんなカレンを温かい目で見つめていた。
しかし、カレンが8歳になった時、メアリーははやり病に倒れ、亡くなってしまった。そのため、以後カレンは教会で設置されている孤児院で暮らすこととなり、以後エイレンと会うことができなくなった。
一度孤児院を抜け出し、魔王領に向かおうとしたことがあった。魔王領に近づくカレンの気配にエイレンはいち早く気づき、魔王領の手前まで側近たちに内緒で迎った。そこで、「エイレンおにいちゃんと会えなくなるなんて嫌だ。結婚してずっと一緒にいる!」とエイレンに抱き着いて泣いた。エイレンはもう会えないと分かっていたが、「また会えるよ。会えたら結婚しようね」となだめ、次に会ったとき渡そうと持っていた四葉のクローバーをカレンに渡した。そして、孤児院までばれないように送っていった。カレンはその四葉のクローバーをしおりにして、ずっと大切に持っていた。
そして、12歳の時聖女の力がわかり、王都に連れていかれた。
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「というわけで、魔王討伐としてだったらおにいちゃんに会えると思ってここまで来たの。」
カレンの説明に驚き討伐メンバーは声を出せなかった。
「あ、おにいちゃん!戦った魔族の人にはちゃんと治癒魔法かけといたからね。んで、私が魔王領に住めるように説得しといたから!私、人間と魔族のハーフだから、魔族の人にも害のない治癒魔法も使えるから!」
カレンは焦っていった。
「そ、そっか、ありがとう」
エイレンはカレンの強引さに若干引きながらも、お礼を言った。
「そういうわけで私今日から魔王領に住むから!四天王さん全員の了解も得たしね。おにいちゃんいいでしょ?」
「え、あ、うん」
「じゃ、ロバート様方、さようなら。私転移させる魔法もつかえるからみんな王宮に戻してあげるね」
にこっと笑い、魔法を詠唱すると、ロバート達は消えてしまった。
「じゃ、おにいちゃん行こっ」
カレンは強引にエイレンを城に連れて行き、四天王同様他の魔族も強引に納得させた。
ロバート達は魔王領に改めて攻め込もうとするも、聖女の結界と転移魔法により、戦うことすらできなかった。そして、和睦交渉がカレンにより締結された。また、魔王領でとれる魔石も、カレンにより人間に害のないものに変え、人間界と貿易も始めた。
そして、今日無事エイレンとの結婚式である。
カレンは、黒い妖艶なドレスに様々な色の魔石のかけらが縫い込まれ、とても美しい姿であった。
「おにいちゃん大好き。幸せになろうね」
「もうおにいちゃんじゃないよカレン」
「あ、そっか・・・エイレン様・・・?」
カレンは赤面していった。
「カレン、愛してる」
2人は誓いのキスをした。
エイレンはカレンの強引さに助けられながら、魔王領を治め発展させ、幸せに暮らした。
魔王領を改革した2人として、以後魔王領では2人は英雄と称えられた。
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ある満月の夜、バルコニーに出てカレンは夜風に当たっていた。
「お母さん、人間たちも魔族たちも私が掌握したよ。これからも私のいうがままだよ。お母さんとお父さんの復讐になったかな。エイレン様は・・・」
「カレン、ここにいたのか。探したよ。身体が冷えてしまう、中に入ろう」
「はい、エイレン様、いま行きます」
カレンは月に向かってにこりと微笑み、部屋に戻っていった。