第一章 “幼き日々”
桔梗は日向の国(宮崎県)に生まれ育ったが、幼少の頃、戦さで両親を亡くし、身寄りのなくなった桔梗を伊東家当主、義祐の妻、お江の方が娘の鈴姫の侍女として召し抱えてくれた。
鈴姫は直ぐに桔梗に懐いてくれて、桔梗も幼いながら懸命に鈴姫の身の回りの事をお世話していった。
当主である義祐は、鈴には武門の才があると、幼い鈴姫に武芸を磨かせていた。
鈴姫も武芸全般が好きらしく、毎日の様に擦り傷だの打撲跡だのをこさえてきて、それを治療するのも桔梗の日課だった
戦乱が続く日々の中、キナ臭い空気が城内を埋め尽くしても鈴姫の屈託のない笑顔を見る度に桔梗の心が癒やされていった。
鈴姫には三人の兄がいて、一番下の弟、祐兵とは特に仲が良かった。
祐兵はしょっちゅう鈴の所に来ては何でもない話しをしていて、桔梗にも随分と優しくしてくれた。
幼い頃の穏やかな日々は、川の清流の様にあっという間に流れ去り、鈴姫と桔梗が十代半ばになる頃には祐兵も、時には鈴姫でさえも戦場を赴く事が多くなった。
桔梗はたいそう心配たったが、鈴姫はあっけらかんとしていて、
「大丈夫、直ぐに帰るから」
と町まで買い物に出かける様な調子で城を出て行き、事実、毎回無事に帰ってきた。