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薬屋【アネモネ】  作者: 末畠ふゆ
第一部
9/37

手紙




 笑顔のシトロンの手に、ザクロの上級証書の写しが見える。どうやら薬師協会から入手したらしい。

 いや、それはガッツリ個人情報ではないのか?いいのか薬師協会?!


「ちなみにこちらの証書の写しは、スプルースさんのお母様より頂きました」



 ……敵は身内にいた。



「しかし、協会経由でお母様とお話したところ、どうも噛み合わなくて。よくよく話してみたら、お母様はスプルースさんが下級薬師で働いてることに大層驚かれておいででした」


 そりゃあ言ってないしねぇ、と思いつつ、それとは別に母にバレたことの方が大問題である。家族は、ザクロが上級薬師として働いていると思っている。引っ越す際も『上級薬師として力を尽くしなさい』と送り出されたものだ。それがまさか、下級薬師のフリをして呑気に生活していたと知れたら……。



「それに伴いまして、こちらの封書がギルド宛に届きました。中を改めたところ、2通の封筒が入っておりまして、一つはギルド宛、もう一つはスプルースさん宛でしたのでお渡ししますね」


 シトロンから封筒を受け取ると、そこには母の字で『ザクロへ』と書かれている。自然と冷や汗が全身から吹き出し、生唾を飲み込む。意を決して封筒を開くと、中には2枚の紙が入っていた。

 1枚目は想像通り、母からの手紙であった。



『ザクロへ


 元気でやっている? 陽にはちゃんと当たっている? あんたはただでさえ血色が悪いんだから、外に出て健康的な生活を志すのよ?』



 自分を心配してくれる母の言葉に、先程までの緊張はどこへやら。手紙からでも充分伝わる愛情に、成人を過ぎたというのに母が恋しくなる。



『店は順調かしら? お客さんが来なくてもくよくよしなくていいのよ。病気はしないに越したことはないんだから! ザクロが得意なハンドクリームなんか、女性に人気が出てるんじゃない? ちゃんと看板商品にするのよ!』



 売れ行きは上々だし、少ないながらも常連さんが出来たよ。手紙を読みながら、心の中で反応を返す。母の愛情がなんだかくすぐったい。



『まぁ、そんなことはさて置いて。


 ザクロ、下級薬師って名乗ってるそうね?』



 温かい気持ちが急に氷点下まで冷え込んだ。



『わたしは言ったわよね?

「上級薬師として力を尽くしなさい」って。


 小さい頃はあんなにやる気に満ち溢れていたのに、大きくなるにつれてだらけていって。だから荒療治的に迷宮都市に送り出したのに、さらにだらけてるなんて……母さんは情けない!!』



 やっぱり嘘だったんかい!!

 確かに上級薬師になった段階で燃え尽き症候群のようになった部分はあるが、大半の原因はCランククエストの恐怖だと思う。



『だからね、迷宮都市の現状を鑑みて、協会長と話し合ったの。その結果をもう1枚の紙と、ギルド宛の封筒に入れてあるから、きちんと確認しなさい。


 これは師匠命令よ、いいわね!


                   母より』



 この手紙の後ろに更なる恐怖があるというのか。今すぐにこの場から逃げ出したい気持ちと、逃げたら地獄の底まで追いかけられる恐怖とで体が震える。


 ザクロは怖々2枚目の紙に目を移した。そして、1番恐れていた事態に直面するのであった。




『辞令


下記の者を迷宮都市専属常駐薬師として任命す。


上級薬師  ザクロ・スプルース


  薬師協会長 ヘリオドール・ジャスパーグ』





さ、お仕事ですよー、ザクロさん。

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