局長現る
薬を作ってカウンターで寛ぐ、ザクロの通常ルーティンである。客は相変わらずまばらで、時々近所の人がやってくるのみ。
そんな日常を何よりも気に入っている店主は、『のどかだなぁ〜』なんて心の中で呟いていたりいなかったり。
カラン
ドアベルが来客を告げる。入ってきたのは金髪の美丈夫だった。貴族感漂う男性に、思わずだらけ切っていた背筋が伸びる。
「いらっしゃいませ」
当たり障りない挨拶をし、笑顔で男性を迎える。すると、男性は人当たりの良さそうな笑みを見せながら、ザクロに話し掛けてきた。
「失礼致します。こちらはザクロ・スプルースさんの店舗でお間違い無いでしょうか?」
「はい、わたしがスプルースですが?」
「あぁ、貴方が! お会いできて光栄です!」
男性は興奮した様子でザクロの手を取ると、力強く握手をしてくる。余りの勢いに目が点になってしまい、しばし時が止まっていたが、ハッとして慌てて男性に聞き返した。
「えーっと、あの……どちら様でしょうか?」
ザクロの声に男性も我に返ったのか、パッと手を放すと、入店時の時のような雰囲気を取り戻す。
「申し訳ありません、少々興奮してしまって。わたしは迷宮ギルド所属、素材管理局局長、シトロン・シャルトルーズと申します。突然の訪問で申し訳ないのですが、少々お話しするお時間を頂けないでしょうか?」
ギルド職員だと名乗るシトロンに、思わず訝しむ目を向けてしまう。『何故ギルドが?』という疑問が頭の中を駆け巡る。しかも相手は素材管理局の局長だという。ザクロ自身、違法な採取は行なっていないし、迷宮都市に来てからギルドでクエストを受けたのも、更新規定ギリギリの年に1回ずつだ。
ほぼ閑古鳥が鳴いているようなこの店に時間などたっぷりあるが、果たしてこの話は聞いていいものか。
いや、聞くべきではないと本能が告げている。
少しの逡巡の後、ザクロの返答は決まった。
「……申し訳ありま」
「店を閉める時間は、こちらの方で休業補償させて頂きますのでご安心ください。いやぁ、丁度どなたもお客様がいらっしゃらなくて良かった!ギルドの応接室もきちんと確保してきましたので、宜しくお願いしますね」
……イエス以外の返答は求められていなかったようだ。というか、『お時間を頂けないでしょうか?』の言葉は必要なかったのではないか?!
完全にシトロンのペースに飲まれたこの空間は、果たしてどこなのか。自身の憩いの場ではなかったか。
なぜ今日は素材採取に行かなかったのだろう、あぁ日用品の買い出してもよかったか、など今更な逃げ道を考えてしまう。後悔先に立たず、とはこのことか。
「さぁ、それでは行きましょうか!スプルースさん!!」
かくして自分の意思はどこへやら。笑顔のシトロンに連行もとい連れられて、ギルドへと向かうことになったのであった。
キャラクターの容貌説明って難しいですね……。