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薬屋【アネモネ】  作者: 末畠ふゆ
第一部
37/37

いらっしゃいませ




 セレスティンと2人、時々マラヤも加わって、慌ただしい開店準備は続いた。やれ、アレがないだの、コレがないだのと大騒ぎし、ふと振り返ると実は灯台下暗し、なんてことがしょっ中だ。それでも時間は待ってくれないので、落ち込む暇もないのだが。




「遂に明日だね……」


「……はい」



 まだ余裕があると言っていたのは、いつの誰なのか。結局、ギリギリまで掛かってしまった。それでも、1人ではここまで出来なかったことは明白だ。

 横を見ると、セレスティンは店内に目を向けていた。



「どう?緊張する?」



 まるで自分に問いかけるように、セレスティンに問う。セレスティンは言葉の意味を飲み込むようにゆっくりと瞳を閉じ、同じくらいゆっくりと開くと「はい」と返事を返した。


「でも、嫌な緊張じゃないです。ワクワクするというか、笑顔になるというか……すいません。上手く言葉に出来なくて」


「いや、わかるよ。おれも初めて店を出した時と同じ気持ち……とも違うか。誰かと一緒に作り上げるっていうのは初めてだから、やっぱり初めてかな?」


「じゃあ、一緒ですね」


 互いに言葉に出来ずとも、感じることは同じなようで顔を見合わせはにかむ。ガランとしていた室内にその面影はなく、今では飾り付けられ、商品が行儀よく並ぶ店内となった。



「明日からが本番だし、今日はこれで解散!」


「はい、また明日」



 少し早いが、明日のことを思って終業とした。どれだけ客が来るのか、全くもって想像もできないが、少なくとも家賃とセレスティンの給料分は毎月稼がなくては!







 翌日_____





 気持ちが昂っていたのか、昨夜はなかなか寝付けず、その影響かいつもより遅く目が覚めた。時計を見ると10時で、これはもう朝昼兼用で食べるかなぁ、とぼーっとした頭で考える。

 顔を洗い、鏡を見ながら手櫛でそれとなく髪を整える。目玉焼きか、トーストかと、何を食べるか悩んでいると、ポーンとチャイムが鳴った。


 開店にはまだ早いし、配達の予定もない。それに鳴ったのは、裏口に設置している住居用のチャイムだ。


 誰だろうと思いながら出てみると、そこにはセレスティンが立っていた。



「あれ? 今日って12時にしなかったっけ?」


 開店初日で昨日は準備のため遅くまで残っていたことから、出勤時間をずらしたはずだ。もしかして、考えただけでセレスティン本人に伝え忘れていただろうか。



「あ、12時です! 間違ってないです」



 ちゃんと伝えていたようだ。だとしたら、どうしたのだろう。セレスティンには店の入り口の鍵を渡しているので、いつもだったらそこから入ってくる。もしかして、鍵を忘れてしまったのか? でも、時間が早すぎるのだから、一度取りに帰っても十分に間に合う。なぜ裏口から?



 ザクロの頭に、次々と疑問が浮かぶ。それがわかったのか、セレスティンが口を開いた。


「気持ちが急いてしまって………それで、早く……すみません。それで、入り口から入ろうとしたんですけど、もう、お客様がいて……」


「え?!」



 もう客がいる?!



 ザクロは慌てて工房から店舗に移動し、カーテンの隙間から外の様子を伺う。すると、数人ではあるが、すでに並んでいる人がいた。

 裏路地で店を開いた時はそんな経験をしていなかったので、まさか開店前から並ぶ客がいるなんて……。

 だからセレスティンは、入りづらくて裏口に回ってきたのか。



「朝、散歩に来た時に先頭の方はすでに並んでいたので、相当待っているんだと思います」


「それって何時?」


「えっと、7時くらいでしょうか?」



 7時からって……もう3時間も並んでるじゃん……。あとさらに3時間待つのかよ………。



「って、ちょっと待って。セレスちゃん、7時に1回来てんの?!」


「あ、いえ、散歩です!………ただ、ちょっと気になってしまって………」



 ザクロがグースカ寝ている間に、外ではそんなことが起きていたのか。というか、緊張して眠れなかった、っていうのは自分には当てはまらない言葉なのかもしれない。呑気に寝ていた、というのが正解か。


 開店時間を早めるのは、早くくれば開けてもらえるという癖に繋がりかねないので、心を鬼にしてスルーしておく。とりあえず、食事を取ろうと動き出す。セレスティンに何か食べるか聞くと、持ってきたとのことなのでお茶を二杯入れる。


 のんびりと食事をし、終わったら店内の最終チェックだ。昨日何度となくチェックしているので、する必要もないのだが、心を落ち着けるためには必要な作業だ。特にセレスティンは、会計ミスがないようにと値段一覧と睨めっこしている。



 そんなことをしていると、あっという間に開店時間1分前となった。


「準備OK?」


「ひゃい!」



 緊張のあまり、声が裏返っている。本当に大丈夫か?



「前の店と一緒だよ。そんな緊張しないで」


「そ、そんなこと言われても」


「ま、のんびりやろーよ」



 焦ったところで、もう遅い。できることからやるのみだ。



 ザクロは入り口の取手に手を掛けて、ゆっくりと押し開いた。そして____




「いらっしゃいませ」




 新規開店、ようこそ薬屋【アネモネ】へ。







とりあえず、ここまでです。もう少し内容を練って、中身を充実させたいと思います。

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