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薬屋【アネモネ】  作者: 末畠ふゆ
第一部
34/37

自信を持って




 インテリアについて、ザクロは全くと言っていいほど無知だ。

 前の店はこぢんまりとしていたこともあり、商品を置くだけでいっぱいいっぱいだったのだ。そのため、飾りつけるなんてことは一切なく、客からも何も言われなかったことから、気にも留めていなかった。

 しかし、今回の移転先は商品棚も大きければ、客の入れるスペースも広い。窓から入る明かりや照明はあっても、それだけではとてつもなく殺風景なのだ。尚且つ、従業員はたった2人(+ぬいぐるみ2匹)。やはり、大通りの店の一角を担うのだから、多少の華やかさは欲しい。

 他所の店をチラリと見たが、どこも内装にもこだわりが感じられた。そこまでではなくても、悪目立ちだけは避けたい。




 そのことをセレスティンに伝えると、真剣に考えてくれた。その一つがぬいぐるみだった、というわけだ。




 ぬいぐるみが許可されたことで、セレスティンの中で何かが弾けたのだろう。ぬいぐるみ雑貨以外の店にも意気揚々と足を向け、ザクロを引っ張り回す。「これも良いですよね!」なんて笑顔は可愛いのだが、そこら辺の知識が無いザクロはちんぷんかんぷんだ。同意を求められたところで何もわからないので、「そうだねぇ」なんて曖昧な笑いで誤魔化し続けた。

 セレスティンが手に取るものが、世間一般で『可愛い』と言われる部類であるものだということはわかる。だが、それをどう使うかまでわかっていないザクロは、ただの荷物持ちとして買い物についていくのだった。





「充実した買い物でしたね!」


「そうだねぇ……」



 ウキウキ顔のセレスティンに対して、慣れない店舗への出入りが精神的負担となったザクロは疲れ気味だ。

 今日は何回「そうだねぇ」を言っているのだろうか。もう、「そうだねぇ」と鳴く生き物になったんだろうか。



 買ってきた荷物を2人で開封していき、とりあえずカウンターに並べる。ぬいぐるみ以外、何をどこにどう飾るか、ザクロには見当もつかない。

 ここにいたところで、ただぼーっとするだけだ。ならば、工房で薬を作っていた方が良いだろう。



 そう判断すると、ザクロはセレスティンに声を掛けた。


「おれ、薬を作ってるよ。店舗の内装はセレスちゃんにお任せしちゃっていいかな?」

「はい! 任せてください!!」

「何かあれば、おれも手伝うから。遠慮せずに声掛けて」



 やる気も漲っていることだし、ここは自信を持ってもらうためにもセレスティンに一任することにした。本人も嬉しそうに請け負ってくれたことだし、良かったのではないだろうか。

 残った在庫でできるだけポーションや一般薬を作るべく、ザクロは工房に入っていった。





「こんなに仕事を任せてもらえるなんて、初めてだわ……」


 残ったセレスティンは、ポツリと呟く。


 学院を卒業して見習いとして務めた薬屋では、ほとんどが誰かの指示のもとで動いていた。雇ってもらったことだけがラッキーで、あとはほとんど雑用ばかり。薬の知識は、工房で薬師同士の会話に耳をそば立てたり、お金を貯めて手に入れた薬草学の本で独学で学んだりしていた。

 薬に関してやらせてもらえたのは、会計と軟膏練り。作り方なんて、ほとんどわからなかった。練る作業になってから、「これやっておいて」と渡されるのだから。



 本当は「教えてほしい」と言うべきだったんだと思う。だって、薬師になりたくて雇ってもらったのだから。でも、雇った人と一緒に働く人は違う。忙しそうに手を動かしているところに、「教えてください」なんて悠長に声を掛けられなかった。自信がないから、余計に。



 でも、こんな自信の持てない自分に、ザクロは「一緒に考える人」として向き合ってくれた。自分の考えに耳を傾けてくれて、それを受け入れてくれた。さらに、任せてくれるなんて!


 こんなに嬉しいことはない。今の自分に出来ることを、精一杯やらなくては。



「よし!」



 セレスティンは1人気合を入れると、両腕を捲り上げ、作業を始めた。








 ガン! ゴン! ドン!





「……飾ってるだけだよね?」



 工房まで聞こえてくる音に、ザクロが不安がっていたことを、セレスティンは知る由もない。




DIYをやろうと思っても、美的才能皆無なんで出来ません。

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