素材集め
薬を売るにも、そもそも薬が無ければ話にならない。ぼーっと座っているばかりでは、日々の生活は成り立たないのである。
客足が多くないとはいえ、売っていればいつかは在庫切れになる。その前に、在庫の補充は必須なのだ。
「今日必要なのはシランとヤエムグラ、キランソウ、ツワブキくらいかな? あ、クコの実が少ないからあれば採ってこよ」
商品と素材の在庫を確認して、必要なものを書き出していく。
ザクロはラフな長袖シャツに長ズボンを身に付け、その上にゴブリン革でできた防具ならぬジャケットを羽織る。足元もゴブリン革のブーツを履き、マジックバッグを持てば準備完了である。誰がどう見ても『ちょっとそこまでお買い物』スタイルであり、これから迷宮近くまで採取に行く人間とは到底思えない。寧ろ死にに行くような風体である。
しかし、これから彼が向かうのは迷宮近くと言っても、野花や薬草が静かに咲く地域で、小動物達の憩いの場である。生息している植物は特段特殊なものはなく、採取依頼にも載らないようなものばかりのため、ザクロは今まで人と出会ったことはない。勿論モンスターともだ。
ちなみにゴブリン革は、一番格安で手に入る防具として一般的に知られている。つまり値段からお察し、防御力は低いのだ。迷宮都市でなければ、最低ランクのクエストのお供くらいにはなるだろうが、迷宮都市では専ら通常の服として認知されている。
マジックバッグは、魔道具店で購入可能だ。中に入っている魔石の大きさや作り手の技術によって値段の振り幅は大きいが、小さいサイズでも2㎏ほどの重量物を入れることができる。魔獣討伐に行くような冒険者や多くの荷物を運ぶ行商人であれば大きいサイズのマジックバッグを要するが、ザクロの採取目的物は薬草のため、十分に事足りる。
目的地までは徒歩で30分ほどの道のりで、迷宮に向かう冒険者とはルートが違う。迷宮街道からすぐ脇道に逸れていき、まるでハイキングでもしているかのような山道を通っていく。空気が澄み渡り、マイナスイオン溢れた空間に自然と心が落ち着く。
開けた場所に出ると、そこには目的の素材が生い茂っていた。ザクロは必要数だけを摘み取り、凍結魔法で素材の鮮度を維持してからマジックバッグに放り込む。誰も来ないのであれば好きなだけ摘めばいいのでは、と言われるかもしれないが、ここは動植物達の棲家だ。人間のザクロは侵入者であるため、最低限の物のみを求める。それがマナーだ。
ザクロの母も薬師であり、ザクロの師でもある。幼い頃から母の仕事を横で見ており、採取にも同行させてもらっていた。その際、ザクロは多いに越したことはないと、予定よりも多めに薬草を摘んだことがある。その際、母から『自然の恵みは取りすぎてはいけない。私達は大切な命を分けてもらっているのだから』と諭された。幼いからこそ、その言葉は柘榴の心に染み渡った。それ以降、必要以上の採取は行わず、原住生物の巣を荒らさないよう心掛けているのだ。
その志や行動のためか、原住生物はザクロの来訪を意に介さない。ザクロが敵意を向けず、こちらに干渉しようとしないためである。それは動植物との正しい距離の取り方とも言えた。
「今日もありがとう。大切に使わせてもらう」
去り際、森に対して礼を述べるのも母の教えの一つである。
設定考察大好きマンのため、一つ考え始めると思考があっちへこっちへ……。誰か話のまとめ方を教えてください。薬草類の名前は実物から取っていますが、ファンタジーなので悪しからず。
あ、ザクロのお母さんは生きてます。