プライド
「1週間でポーション用の魔道具、作ってください!!」
思い切って言った言葉に、案の定場の空気が止まった。下げていた頭をそろりと上げて、ロードを見ると強面の顔がさらに厳しさを増している。
「……なんつった?……」
低めの声がズンと響く。あまりの恐ろしさに悲鳴を上げたくなるが、そこは我慢だ。ここはなんとしても引き受けてもらわなければならない。
「… 1週間でポーション用の魔道具、作ってくださぃ……」
同じ言葉を繰り返すが、恐怖から声は小さく、尻窄みになってしまうのは仕方がないというものだろう。
小声でもロードにはしっかりと届いたようで、額には青筋が浮かび上がる。これはもう、予想通りの展開の幕開けだ。
「てめぇ!ふざけてんのかっ!!?1週間でポーション用魔道具だぁ?? こちとら完璧な仕事を心情として、うん10年職人やってんだぞ!! それを特殊なポーション用魔道具1週間で作れだぁ?! なめてんのか!!」
怒号が店内に響き渡る。もう身の置き場が無いというか、ここから逃げ出したいというか、覚悟はしていたが怖いものは怖い。
同じ空間にいるマラヤは慣れているのか、我関せずと言った様子でお茶を飲んでいる。
おれもそっちに戻りたい……。
「坊主と言えど、今回の依頼は受けられねぇな!!職人をなんだと思ってんだ?! そんなに簡単に手に入れたいなら、どっかの量産型の工場にでも頼みな!!」
ロードの怒りは最もだ。ここの職人は、顧客の希望に合わせて一から作り上げていく。なんなら素材から厳選して、より良いものを提供してくれるのだ。けして金儲けのためだけに仕事をせず、客との信頼関係を大切にしている。そのため、その仕事ぶりが人伝てに伝わり、新たな仕事が舞い込むのだ。
そんな事はもちろんわかっている。ザクロだって、越してきた時にそれを実感した1人だ。ロードの仕事は一流で、厳しさの中に温かみがある。それはロード本人にも通ずるところだ。だからこそ、ザクロは『オヤジさん』と呼んでいる。迷宮都市の父のような存在なのだ。
だからこそ、ここで諦めるわけにはいかない。無理を言っているのは百も承知だ。だが、今回の件に関しては、ロードの魔道具がどうしても必要なのだ。
ザクロは腹に力を入れて、俯き気味に話し始めた。
「今回、ギルドから無理難題の依頼をされまして、半ば強制的にポーション作成も店舗移設もしなくちゃいけないんです。それで、急遽魔道具が必要になってしまって……」
「そりゃ、災難だな。だが、頼むのが遅すぎんだよ」
「そうですよね……おれ、迷宮都市で1番の職人はオヤジさんだと思ってて。だから、オヤジさんならやってもらえるかな、って…思って……」
「…………」
ザクロの悲しげな語り口調、ロードの仕事への信頼感を滲ませた内容に、ロードも耳だけは傾けてくれているようだ。これは、あと一押しだ!!
「でも!やっぱり無理ですよね! すいません、忘れてください。……たしか、逆方面に『速さが命』って掲げてる魔道具店があったから、そっちにお願いして……」
「……待て……」
ロードの言葉に、思わず顔を上げる。自分はニヤけていないだろうか。わかってて煽った手前、気付かれたらそこで終わりだ。しかし、期待を抑えるのが難しい。
「確かにあの店は1週間でやるだろうな。だがな、あの店は速さだけ求めて、仕事はテキトーなんだよ。それが? 俺の店を蹴ってあっちに行くだぁ?? ふざけんなよ!!あいつに出来て俺に出来ねぇ訳がねぇだろうが!! 作ってやるよ、1週間で!!最高の魔道具をなぁ?!!」
魔道具入手問題は、これで片付いた。
ロードさんは、マラヤちゃんより少し濃いめの紫髪です。職人気質のオヤジさんです。