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第六話 異世界で農業がしたい

第六話 異世界で農業がしたい


 いよいよ夏休みだ。クラップシリイで何かやりたい。

ん!そうだ!農業、農業生活でスローライフ的なやつ、あれがいいなぁ。アリスに頼んでみよう。

 

「ねぇねぇ、アリス。クラップシリイで農業をやってみたい。野菜育てるやつ。」

「いいわね、農業。ショーヘイは農業経験あるの?」

「ないよ、全く。でもさ、何か楽しそうじゃん。」

「じゃ、郊外に畑の予定地を用意しとくわね、次に来るときに行きましょう。」

「やったー、ありがとう。アリス。」


 次の休みにアリスを訪ねると、農業予定地まで、どこでも扉を設置してくれたらしい、ありがたい。

「これで、バカチンの監視から逃れられるわ、ショーヘイがここにいることは、まずばれないはずよ、じゃ、早速、扉で向かいましょう。」

 俺とアリスは扉を通り、アリスの用意してくれた畑の予定地に向かった。


 そこは、何もない平地だった。小さな小屋があり、アリスが用意してくれた農作業の道具が入っていた。軍手をつけ、服が汚れないように、作業着に着替える。

「さぁ、準備出来たわね、じゃぁまずは土を耕さないとね。ここ全部じゃ広いから、3m四方くらい、土を掘り返してね。」

 アリスは手伝ってくれないらしい。小屋の横のパラソルの下で、ビーチベッドみたいなやつに寝そべって、飲み物を飲みながらこちらを見ている。

まぁ、いいか。鍬を使って、土を掘り起こす。コツが掴めていないのか、ちっとも作業が進まない。

 だいたい土が硬すぎではないのだろうか。水分補給と休憩を挟み、何とか半分掘り起こした。アリスをみると、可愛くこちらに手を振ってくる。

 アリスの笑顔で元気が出た、もうひと踏ん張りだ。


4時間ほどかかり、3m四方を掘り起こした。

「じゃ、次は、あっちの森から腐葉土集めてきてね。危険な動物はいないから安心して。だいたいこのバケツ10杯くらいかしら。」

「ねぇ、アリス、腐葉土ってさ、落ち葉が腐ったみたいなやつでいいの?」

「そうよー、腐ったみたいなやつ。葉が黒くて、形が崩れてない物ね。今掘り起こした土にまぜるわよ。」


 俺は腐葉土を集めに、バケツを持って森へ向かった。何とかそれらしい物を集め戻ってくる。バケツ一杯を集めるのに30分もかかった。

 今日はこれぐらいにしといてやるか。

「アリス、今日はもう終わる。」

「そうなの、早いわね。」

「疲れたよ。何だか手のひらも痛いしさ。」

「慣れないことしたもんね。体を奇麗にして帰りましょ。近くに川があるわ、こっちよ。」


 アリスに連れられ、川に向かう。着替えるために、軍手を取ると、えらいことになっていた。両手とも、手のひらにまめができ、それが潰れ、ぐちゃぐちゃだ。

 それを見た瞬間痛みが襲ってくる。

「痛い、痛いよ、アリス、助けて。」

「川で手を洗って、奇麗にして。その後、滅菌してあげるから。」

「水が痛いよ、めちゃくちゃ痛いよ。僕泣いちゃうよ。」

「大げさね、我慢なさい。ほら、奇麗になった。ついでに全身洗いなさい、服脱いで。」

 そう言われ、パンツまで脱がされてしまった。

 あそこを何とか手で隠し、川に入り、アリスに背を向け、全身に水を浴びる。


 アリスにタオルをもらい、体を拭き、着替える。さっぱりした。しかし手のひらは痛い。

「帰ったら、抗生剤入りの軟膏を塗って、絆創膏でも貼っときなさい。」

「うん、わかった。薬塗っとくよ。畑はさ、腐葉土混ぜたら土出来上がり?」

「後は、草食動物の糞に、乾燥した植物を混ぜて堆肥を作るわ。そしてそれを混ぜたら、いちよ、完成ね。」

「土出来たら、何か植えられる?」

「今は夏だから、秋になったら葉物野菜を植えましょうか。5カ月もあれば収穫が出来るかもしれないわ。」

「かもしれないって、出来ないかもしれないの?」

「植えたらちゃんと面倒みないとね、毎日害虫がいないか、雑草が生えていないか、土の水分量は適切か。野生動物に食べられない様にもしないとね。

 それから、嵐がきたら川の水嵩が増して、水没するかも。大雪が降っても危ないわね。日照時間が不足しても駄目だし、自然相手だと大変ね、色々と。」


 ダメだ、全然スローじゃない。思ってたんとギャップあり過ぎ。

 何かスキルで、耕しただけで、最高の土になりました的なやつ、耕しただけで、勝手に生えて勝手に育ちました的なやつ。そんなものはやっぱりないのか。

 しかも収穫までそんなに時間かかるのでは、毎日の面倒など無理だ、学校も部活もある。


 とりあえず、家に帰って考えよう。

 家に着くと、落ち着く為にオナニーをしようと思ったが、両手とも手のひらが負傷しており、とてもできなかった。

 悶々としながら、アリスが来る夜を待った。アリスに相談して、やっぱり農業は中止にしようと思う。


「ねぇ、アリス。今日農業やったんだけど、イメージと違うから、止めてもいい?」

「んーダメね、準備もしたし、道具も揃えたし。」

「手もさ、ね、こんなになっちゃたし。」

「痛いわよね、でも、それが治ると皮膚が硬くなって、丈夫になるのよ。」

「楽しめないよ、続けても。」

「楽しくやることは大事よね、でもね、続けること、途中で投げ出さないことも大事よ。」

「どうしてもダメ?お願いしてもダメ?」

「抱きしめてあげるから頑張りなさい、私のショーヘイ。」


 あぁ、アリス。今日は射精してないんだ、我慢できない。俺はアリスの胸に顔をうずめ、アリスの太ももに股間を押し付け、果てた。

そして、翌日の朝、自分のパンツが大変なことになっていると思いながらも、そのまま深い眠りについた。


 次の休みには、手も大分治ってきていた。アリスの知り合いの酪農家さんに草食動物の糞をもらい、麦の様な植物の非可食部をもらった。

 これを混ぜ発酵、定期的に混ぜて、酸素が行き渡るようにする。それが終われば、腐葉土を集めた。次の休みには何とか、土は完成出来そうだ。

 アリスは、相変わらずにこにこ見ているだけで、手伝ってはくれなかった。


 その次の休みには、堆肥が完成していたので、腐葉土と混ぜ、畑の形を作る。そして、アリスとここに植える野菜の苗を買いに行った。

 クラップシリイの野菜は良く分からない、アリスに選んでもらい、翌週受け取ることにした。


 次の休み、あっという間に夏休みも終わりだ。苗を植えて、これでひと段落。ただ、ここからが、毎日の世話が待っている。

 アリスは早起きしてやりなさいと言うが、出来るだろうか。頑張ってみよう。


 それからは、アリスに早朝に起こしてもらって、畑を見回る。雑草を抜き、害虫を取り除く。土に水分が少なければ、川から水を汲んで、水をまいた。

 雨の日も、風の日も、欠かさず畑を見た。


 10月もはじめの頃だった、大雨だとアリスが言うので、見に行ったが、もう畑はほぼ浸水し、野菜もダメになってしまった。

 それほど、悔しくはなかったが、自分の努力が、手間が、一瞬で終わってしまうのは、なかなか辛い出来事ではあった。


「ショーヘイ、あなたは頑張った。とても偉いわ。」

「うん、ありがとう、アリス。」

「あなたが毎日口にしている食べ物、それはとても手間がかかって、あなたのもとに届いているの。

 ここでは、機械が導入されて、堆肥や腐葉土も売られているわ。土の水分管理や、pH、それから温度なんかもセンサーで監視しているから、人の目だけで判断しているわけじゃない。

 それでも、毎日、害虫や雑草には気をつけなければならないの。そして、あなたには収穫を体験させてあげられなかったけど、収穫も大変な重労働よ。

 農作業に限ったことではなく、仕事ってどれも大変なの。スローライフって心の在り方の話しよ、決して簡単な労働とかそういう意味ではないわ。」

「理解したよ、アリス。僕は間違っていたみたいだ。」

「ショーヘイが理解してくれて、成長してくれて、私もうれしいわ。

 ご褒美に抱きしめて、頭を撫でてあげるわ、ゆっくり安心して眠りなさい。」

 俺はアリスに褒められ、少しだけ認められた気がして嬉しかった。

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