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第五話 異世界で金儲け②

第五話 異世界で金儲け②


 バカチンに石鹸のサンプル品を手渡してから一週間が過ぎた。相変わらず学校はつまらないが、クラップシリイに行くことを楽しみに、何とか我慢した。


 アリスと一緒にバカチンに会いに行く。

 いったいいくらで売れるだろうか。儲けが出た分は次の商品代に変え、これを繰り返せば大金持ちだ。異世界生活ってこんな感じのはずだ。

 金さえあれば、愛でも買える。誰かの名言だ、誰かは知らんけど。


 バカチンは前回通り、笑顔で迎えてくれた。

「いやーようこそおいでくださいました、ショーヘイさん、鬱金色の魔女。」

「こんにちは、バカチンさん。早速なのですが、石鹸はどうでしたか。」

 俺の言葉にバカチンは少し顔を曇らせた。

「大変申し訳ございませんが、あの石鹸は評判が悪く、買い取ることが出来ません。」

「え、どういうことですか。」

「泡立ちは良い、確かにそれはありました。しかし、そこまでの泡立ちを必要としないこと、それからやはり匂いが受け付けないとの意見が多く、すみません。」

「そうですか、残念です。」

「また、何か新しいものがありましたら、お持ちください。」

 致し方が無い、石鹸が売れないなら、今後の参考に聞いてみるか。

「今後の参考にお聞かせいただきたいのですが、何でも振りかけたら美味しくなる魔法の香辛料とか、そういう物に興味はございますか。」

 バカチンの顔つきが変わる。目の鋭さと圧が怖い。

「香辛料ですか、当然、物によりますが、もちろん検討させて頂きますよ。」


 今まで黙っていた、アリスが口を挟んだ。

「バカチン、正直に答えてくれ、その香辛料がとても魅力的で、国王が気に入りそうなものだった場合、お前ならどうする。」

 バカチンは鋭い目つきのまま、少し笑った。

「鬱金色の魔女が正直にとおっしゃるなら、お答えしますが、ショーヘイさんを拷問して、製造方法、入手方法を聞き出します。

 ショーヘイさんなら、片目を潰すか、指の2、3本切り落とせば、喜んで教えてくれるでしょう。楽勝です。」

「バカチン、そんなことしたら、私を敵に回すことになるが、それでもやるのか。」

「そうですね、もし国王陛下が望むほどのものであれば、鬱金色の魔女でも敵に回します。」

「わかった、ありがとうバカチン。」

「で、その香辛料はあるんですか、ないんですか。」

 バカチンは圧を掛けたままだ、俺は答えに窮した。見かねたアリスが代わりに答える。

「残念ながら、無い。バカチン、お前の答えを聞いて探すのを諦めたよ。」

「そうですか、残念です。」

 バカチンは俺をじっと見ている。俺もバカチンを見ているが視線を外すのが怖く、固まっていた。

 アリスが立ち上がり、俺を抱きかかえるようにして、その場を後にした。


 アリスは急いで自分の部屋に俺を連れて帰った。落ち着き気がない。

「ショーヘイ、私が悪かったわ、もう少し、しっかりと注意しておくべきだった。

 この世界とあなたの世界は価値観が違うのよ、あなたが普段何気なく使っている物が、ここでは戦争の火種にさえなりうるの。

 だから、あなたの世界の物は持ち込まないでちょうだい、お願いよ。

 石鹸はこの世界で価値が無いと私が判断したから、持ち込ませたけど、それも失敗だったわ。これは私のミスね。」

「アリス、ごめんよ、僕が悪かった。許してくれる?」

 アリスは俺を見て、はっとした様子だった。そして笑顔になりいった。

「いいのよ、私のミスだから。あなたが謝らなくて。」


 アリスは少し冷静になったようだ。だが、俺は心の中で恐怖と戦っていた。一見、人の良さそうなバカチンは、平気で拷問をするようなやつだった。

 この世界ではこれが普通なのか。

いや、違う。俺の世界でも平気で拷問するやつなんか、掃いて捨てるほどいた。世界が変わろうと、それは変らないのだ。


「ショーヘイ、しばらくは大人しくして、商売のことは忘れてちょうだい。

でも、もし、ショーヘイがどうしても商売がしたいなら、街の住民数百人にヒアリングで市場調査をし、需要を確認した上で、この世界にある物を使って商品を開発してちょうだい。

 そして、材料費と手間の工賃を上乗せして、製造原価を出して、利益を乗せ、それでも価値が認められる価格で、商品を販売してね。

 でも、それを行うには、競合品の価格、それと品質、販売方法、ルートの確認が必要よ。それによって、目標売上粗利率をどのくらいに設定するのか決めてね。これには、在庫回転月数や廃棄ロスの分も考慮すること、いいかしら。

 販売ルートについても検討してちょうだい。誰がどうやって、どこで販売するのか。それと広告ね、効果測定が可能な広告宣伝を打つ必要があるわ、後から何が有効な宣伝手段だったか、振り返りが出来なから。

 持続的に売上を伸ばしていくためには、商品の改良も必要よ。継続的に市場調査と使用者の感想を聞くことが、仕組みとして必要ね。

 手始めにやることはこれぐらいかしら、出来る?」


「いや、アリス諦めるよ。僕には出来そうもない。」

「そう、なら良いのだけれど、もしまたやりたくなったら言ってね。

 あちらの世界の物を持ち込まない、知識も出さない、これを徹底していれば、その内監視もされなくなると思うわ。」

「うん、でも僕はもう怖くてこの世界の人と話が出来ないよ。」

「それが普通の反応ね、でもそれが正しいわ。最低限の会話で十分よ。」


 その日は疲れてしまい、そのまま家に帰った。

 アリスはいつもに様に優しい、おれはアリスがそばにいないと、眠れないようになってしまった気がする。


 水曜日、発熱した。前日から調子が悪かったが、ここまで発熱するのは何年ぶりだろうか。夜にはいつものようにアリスが現れた。

「アリス、熱があるから近づいたらダメだよ。」

「私が風邪なんか、ひくわけないじゃない。どれどれ見せてね。」

 アリスが僕の額におでこをつける。唇も触れそうだ。こんな発熱でも元気になるのか、我が息子よ。


「ショーへー、あなた、私が見てないところで、クラップシリイの物、口にしてないでしょうね。」

「してないよ、クラップシリイにいるときはずっとアリスと一緒だよ。」

「そう。じゃ、どこから入ったのかしら。まぁいいわ、ショーヘイ、あなたの体の中にはクラップシリイの細菌がいるわ、体内で増殖したので、免疫反応が出ていたのよ。

 もう、あなたの体内から取り除いたから熱も下がるわ。」

「ありがとうアリス、助かったよ。」


「クラップシリイから帰ったら、必ず手洗いをしないさい。余った石鹸があったでしょ。界面活性剤は最近の細胞膜を溶かすから、有効よ。ウィルスでも手洗い、水流で流せるから、必ずね。

 私も気を付けるけど、全てをチェックできるわけじゃないから。」

「うん、わかったよ、アリス。手洗いはするよ。」

「細菌やウィルスはお互いの世界に持ち込まない、持ち込ませないが鉄則よ。万が一どちらかの世界で広がってしまったら取り返しがつかないわ。」


 微生物は怖い、ウィルスも怖い、目に見えないだけにとても怖い。

 しかし、細菌で火星人を全滅させる発想を持った、H・G・ウェルズは偉大だ。


 アリスが布団に入ってくる。僕はアリスに抱き着く。熱があったせいか、もう安心して眠れそうだ。

「ショーヘイ、今回のことでわかったでしょ。簡単に二つの世界の物を、お互いに持ち込んだりしてはいけないのよ。

 それをしてしまえば、どちらかの世界が滅びてしまう可能性があるわ。私は別に構わないけど、ショーヘイは困るでしょ?」

「うん、僕は困る。だからアリスの言うことは、守るよ。」

「いい子ね、ショーヘイは、ふふ。」

 アリスが俺の頭を撫でる、なんて心地よいのだろう。俺はあっという間に、深い眠りへと落ちて行った。

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