第四話 異世界で金儲け①
第四話 異世界で金儲け①
異世界での金儲けのため、石鹸やシャンプーを仕入れる必要がある。先ずは軍資金が必要ではあるが、今週も、週刊少年漫画雑誌を3冊買う必要があるので、残り少ない小遣いでは、心もとない。
そこで、オカンに“参考書買うから、金くれ作戦”を実行することにした。
「お母さん、数学の参考書欲しいから1500円ちょうだい。」
「駄目よ、昭平は勉強しないでしょ。」
「いや、するからさ、今度こそするからさ。」
「別にお母さんは良いのよ、昭平が勉強嫌いなら、無理にしなくても。」
「勉強は嫌いだけど、高校は行かないといけないじゃん。」
「そうね、高校だけは出てちょうだい。大学行かせる余裕は家にはないけど。」
「わかってるよ、大学は行かないからさ、高校行くために参考書代、お願い。」
「しょうがないわね、でも参考書1500円高くないかしら。」
「いやいや、するでしょ1500円くらいは。」
「じゃぁ、これね、1000円札1枚と100円玉5枚。」
「サンキュー、じゃ、土曜日学校終わったら街まで自転車で行ってくるわ。」
「わかった、気を付けるのよ。」
何とか1500円の資金を調達出来た。しかし、この金額でいったいどの程度の量、買えるのだろうか。
土曜日、学校が終わると急いで家に帰り、着替えて街まで自転車を走らせる。今日は部活を休んでしまった。満里奈ちゃん心配しているかな、俺のこと。
街までは30分くらいで着く、無料の自転車置き場に駐輪し、商店街を歩く。何となくおしゃれそうな店に入り、石鹸の値段を見てみると1個で2000円もする。
慌てて、店を出て安そうな石鹸を売っている店を探す。大型量販店に入り、安い石鹸を見つけた。1個150円で10個、買うことが出来た。
とりあえず、物の確保は出来た。1個10倍の1500円で売れれば、15000円だ、今度は100個仕入れられる。
翌日、日曜日は、リュックに石鹸と水筒、昼飯用の菓子パンを入れ、クラップシリイに向かった。
石鹸はアリスに用意してもらった、クラップシリイ製の紙に一つずつ包んだ。
「アリス、おはよ。」
「おはよう、ショーヘイ。今日は何がしたいの?」
「前回の続き、魔獣とか盗賊に襲われている金持ちを助けたい。」
「じゃ、また街道に行くのね。」
「うん、お願い。それと移動は楽な感じで。」
「ちゃんと用意しているわよ、空を飛んで移動できるもの。」
「やったー、ありがとう、アリス。どんなやつかな、楽しみだよ。」
「じゃじゃーん。空飛ぶ絨毯でーす。」
「え、絨毯なの。これで空飛ぶの?危なくない、安全バーも何もないんだけど。」
「まぁ、落ちたら死ぬわね。上空では突風も吹いているから、落ちるかしら。
あ、でも低速で移動したら、まだ安全かも。」
「低速ってどのくらい?」
「歩くよりは大分遅いくらいかしら。」
「無理じゃん、そんなの、意味ないじゃん。いいよ、もう、空は諦めた。」
「そうなの?じゃぁ、歩く?」
「うん、そうする。あーあ、自転車持ってくれば良かった。」
「駄目よ、そんな便利な物持ち込んじゃ。それを目的に一生、命狙われるわよ。」
「そんな大げさな。それにそうなったら、アリスが守ってくれるんでしょ。」
「んー私も100%守れるかと言われたら、ちょっと自信ないかな。」
「怖いよ、便利な物を持ち込むのは、やめるよ。」
アリスと臭い街を出て、街道を歩く。今日は帰りのこともあるから、30分程度歩いたらそこで待機だ。
今日は人を見た、郊外で育てた農作物を搬入する農民たちだ。みな談笑して通り過ぎていく。とても平和だ。
「アリス、この辺て、盗賊とか出るの?」
「出るんじゃない、知らないけど。」
「知らないの?え、知らないのに案内したの?」
「私も盗賊の動向は知らないわよ。でも街に近いから出ないのかも。」
「そうなんだ。そうだよね、アリスも知らないよね、ごめんね。」
しばらく待ったが何も起きない。仕方がない、昼飯にしようか。
リュックから水筒とパンを取り出し食べる。
「ショーヘイ、駄目よ、そのパンを包んでいる物とか水筒もこの世界に持ち込んだら。」
「え、これもダメなの。」
「それもこの世界にとってはオーバーテクノロジーよ、命を狙われる理由には十分よ。」
不便だ、異世界。不便すぎる。しかもつまらない。イベントが始まらない。
それでもアリスと色々話しをしていたら、時間はあっという間に過ぎて行く。いつの間にか夕方だ。
「アリス、帰ろうか。」
「えぇ、帰りましょう、ショーヘイ。」
「今日も何もなかったね。」
「そうね、ショーヘイが望んでいるような、ドラマティックな展開はそうそう起きないわね。
天文学的な確率かしら。後500年から1000年通えば何とかなるかも。」
「えー、無理じゃん。僕、500年先なんか死んでるし。」
「それもそうね。諦めるしかないわね。
そもそも、ショーヘイは盗賊退治に何を求めていたのかしら、スリル?」
「いや、違うよ。僕戦わないし。金持ちを助けて、持ってきた石鹸を売りつけるんだよ。それも高値で。金持ちじゃなくても地位のある人で良いんだけど。」
「なるほどね、商売をしたいのね。」
「えー言ったじゃん。伝えたじゃん。ん、言ってなかった、僕?」
「聞いてないわよ、私は。ただ、盗賊退治で金持ちを助けたいとしか。」
「そうか、ごめんね。間違えた。」
落ち込んだ、異世界金儲け作戦はここに頓挫した。
落ちた俺を見かねてか、アリスが提案してくれた。
「地位のある人で良いなら、この街を管轄している人に会わせてあげるわ。
あなたの世界での時間軸、一週間後にアポイント取るから、その時一緒に会いましょうね。」
「ありがとうアリス。」
俺は急に目の前が明るくなった、そしてアリスに抱き着いた。
つまらない日本での生活は、それでもあっと言う間に過ぎ、日曜日になった。
クラップシリイに向かい、アリスと街を管轄する人に会った。その人は太った、普通のおっさんだった。
「ようこそ、鬱金色の魔女。それから、魔女のお弟子さんですか。」
「僕は、ショウヘイと言います。魔女の弟子です。」
「そうですか、お弟子さんですか。私はこのシェームの街を管轄するバカチンと申します。どうぞ、よろしくお願いします。
それで、今日はどのようなご用件でしょう。わざわざ鬱金色の魔女からの面会申し入れですので、かなり緊張はしておりますが。」
そういうとバカチンは額の汗をぬぐっていた。本当に緊張している様だ。僕は用件をきりだす。
「この石鹸を売りたいのですが、買っていただけますでしょうか。」
石鹸を取り出し、バカチンに手渡す。バカチンは石鹸を手に取り顔をしかめた。
「見たところ普通の石鹸ですね、ただ、匂いがきついですね。この匂いではなかなか買い手はつかないと思いますが。」
「泡立ちが凄いんです、一度水につけて泡立ててみてください。」
バカチンは、分かりましたと言って、手を洗いに部屋の外に出て、しばらくすると戻ってきた。
「確かに泡立ちはすごいですね。ただ、必要でしょうか。私は魅力を感じません。」
「きっと、ご婦人には受けると思うのですが、どうでしょうか。」
「そうですね、試させてみましょう、いくつかお預かりしてもよろしいですか。」
僕は5個バカチンに渡し、また感想を聞きに来ると言って、その場を後にした。
アリスは一言も話しをせず、僕の隣で保護者のように座っていただけだった。しかし、アリスはうこん色の魔女と呼ばれていた。どういう意味だろう。
「ねぇ、アリス、うこん色の魔女ってどういう意味?」
「あの呼ばれ方は好きじゃないわ。私の髪の色が鬱金色だからよ。」
「へぇーそうなんだ。でも好きじゃないんだね。でもさ、“うんこ色”じゃなくて良かったじゃん。」
アリスは俺を睨んだ。予想通り、この展開になるのが気に入らないのだ。いや、でも俺でも嫌だな、これは。俺はアリスをその仇名では呼ばないことに決めた。
「ごめんね、アリス、気にする、よね。」
「別に構わないわ、慣れているもの。」
「僕は、そんな呼び方しないよ、アリスのこと。アリスは奇麗だよ。」
アメリアはやっと笑顔になった。
僕らが歩いている横を5歳くらいの女の子を連れている母娘がすれ違う。
「あ、うんこ色の魔女さんだ!うんこ!うんこ!」
「止めないさい!そんな風に呼んだら失礼でしょ。」
母親は苦笑いしながら、会釈をして娘を引っ張って行った。
無敵な俺でもとても居た堪れなかった。