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8.お父様の提案

 ひとしきり泣いた後、落ち着きを取り戻したわたしはお父様とこれからのことを話し合うことにした。


「それで、リリアーナはどうしたい?」

「できればわたし、ジルベルトの領地を奪いたいです。いいえ、できればではありませんね。あのような人たちに任せておけません。あの土地の精霊とも約束しましたし、わたしはあの土地を癒やしたいと思います。マリーベルが聖女になれないことがわかり、わたしが力を示せば結婚を迫られると思います。もちろん、わたしはジルベルトとの結婚は望んでいません」

「安心しなさい。何があってもジルベルトとは結婚させない。あんな男にやってたまるか。マリーベルは良いのか?」

「マリーベルは引き離したとしてもまた不倫するでしょう。結ばれるのは運命だそうですから。あの子は本当に昔からジルベルトのことは好きだったんです。ジルベルトもマリーベルのような人が好きなようですし。だったら素直に一緒になれば良いと思います。お父様は複雑な気持ちでしょうけど……。なので、マリーベルの気持ち次第ですね」

「そうだな。血は繋がっていなくともずっと自分の娘として育ててきたんだ。不幸になるとわかっている結婚の話を進めるのは複雑だよ。だが、本人に結婚の意思が固いなら仕方がないし、領主一族でなくとも幸せになる方法はあるだろう」

「マリーベルでは聖女になれないのでわたしのように契約して土地を癒やすことはできません。ですが、一応、力は持っていますし、自分たちで幸せを掴む分には邪魔しないつもりです。……わたしの一度目の人生ではマリーベルもかわいそうでしたから。わたしの邪魔をするなら話は別ですけど」

「リリアーナが良いのであれば二人の結婚はこのまま進めよう。聖女ではないマリーベルを受け入れるかはわからないが……。そのあとはどうする?」

「ジルベルトたち領主一族をどうやって排除するかを悩んでいます。土地の精霊と約束もしましたし、あの土地はわたしを受け入れてくれると思うのですが……」

「土地は受け入れてくれるだろう。その点は心配していない。ただ、あの土地を癒やすのは骨が折れるぞ。相当枯れてしまっている……。国としても支援しているはずなのに一向に改善しない。なぜもう少し自分たちで努力しようとしないのか理解できない」


 お父様はジルベルトたち領主一族にかなりお怒りだ。領主の資格がないという。わたしもそう思う。


「ジルベルトたちが領地運営できていない以上、廃領して新たに領主を立てるのが良いだろう。国王陛下もあの領地には頭を悩ませている。リリアーナとの婚約があったから支援をしつつ現状維持だっただけだ。新しく領主をたてるなら身分の高い人物で未婚の男性であれば問題ないと思うが……」

 

 そう言ってお父様は考え込んだ。が、すぐに名案が思いついたようだ。

 さすがお父様だわ。


「王弟殿下はどうだろうか? まだ結婚相手は決まっていないはずだ」


 お父様ったら何を言っているかわかっているの?

 あまりにも意外な人物が挙げられてわたしは驚く。

 確かに王族であれば皆納得せざるを得ないだろう。よそから人を連れてくるよりも人を動かすのも簡単だ。

 だからといって、王族に簡単にお願いできることではない。

 しかも、王弟殿下といえば女性に人気はあるのにどんなに周囲に薦められても頑なに婚約者も決めず独身を貫いていると知られているような方だ。

 噂話に疎いわたしですら知っているわ。


「そんな……わたしたちで決められることではありませんわ」

「悪くない話だと思うのだが……。王弟殿下はいずれ王からどこかに領地を与えられて領主となる予定だ。あの土地は今は枯れてしまっているが国にとっては重要な土地だ。それにこの家はリリアーナが思っている以上に発言力があるぞ」

「ま、待ってください、お父様。国王陛下や王弟殿下のお考えやお気持ちもあることですから……」

「いや、これ以上の案はない。早速、明日にでも提案してこよう」


 お父様は完全に一人で盛り上がっている。

 駄目だ。わたしには止められない。こんな大きな話になるだなんて……。

 お父様はこの国の宰相である。止められるのは国王陛下くらいだ。国王陛下に期待するしかない。


「待ってください。お父様、仮に王弟殿下に新しい領主になっていただくとしても結婚はどうするのですか? わたしが結婚してその土地に入り、契約しないといけませんよね? それに、わたしはあの土地の精霊と約束したのです。他の方にお任せするわけにはいきません」


 聖女が特定の土地と契約するには、その領地の領主と結婚する必要がある。領主より強い力を持つ聖女が土地と契約しようとすれば、領主が領主として認められなくなる。聖女が領主になってしまうのだ。

 けれど、わたしでは領主は務まらない。わたしは土地を癒やせるだけで、領地を治める教育は受けていないし、その力もない。領主になれる人が必要だ。

 理屈はわからないが、結婚すれば領主と聖女は対等の存在として一緒に土地に認められるらしい。領主も力が強まったりするなどの恩恵を受ける。

 しかし、癒やしの力は国としてとても大切にしている力だ。聖女が契約すれば他の土地を癒やすことが困難になる。貴重な聖女を特定の土地だけに力をとどめておくのは好ましくない。

 聖女が結婚により、定住先を決めるなら契約することを認める、というのが国の方針だ。

 それでも、国全体で癒やしの力が不足していた時は、契約することを認められなかったこともあるとか。

 


「……それはお互いが気に入れば問題ないのではないか? 王弟殿下は素晴らしい方だよ。唯一の欠点は結婚相手を頑なに決めようとしないことくらいだ」


 考えてなかったわね、お父様……。そんな方がわたしとの結婚を考えてくれるなんて思えない。


 本来ならば結婚も土地との契約も聖女の意思が尊重される。ジルベルトの領地は重要な土地であるにも関わらず、聖女が必要な状態だったので特別扱いだった。

 一応、ジルベルトとは幼い頃から交流させ、わたしも望んでいるという形にしようとしてくれていたけれど。


 王弟殿下はわたしを望んでくれるのかしら。

 一度目の人生であっさり夫に捨てられたわたしは、女性としての自信がない。

 かと言って、私自身は領主の器ではない。ただ、『癒やし』の力があるだけだ。

 きっと新しい領主には王弟殿下が相応しい。でも、わたしが聖女として望まれなかったら?

 あの土地の聖女になれなければ、わたしは他の土地も回る必要がある。土地の精霊との約束も守れないし、責任を全て王弟殿下に押しつけることはできない。



 このような感じでお父様との話は終了した。とりあえず味方を得ることはできたし、対策案?も無事できあがった。あまりに大きな話になってしまい驚いたけれど。

 あとは王族との話し合いだろう。わたしはお父様の話し合いの結果を待つことにした。


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