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7.お父様への相談

 そういったわけで、わたしは今、二度目の人生を送っている。わたしの今回の人生の目標はいくつかある。まずはジルベルトとの結婚回避。そして、ジルベルトの領地の領民を助けて、土地を癒やす。

 マリーベルは……ジルベルトが良いなら結ばれれば良い。個人的にはおすすめしない人間だが、好きだという気持ちは抑えられないだろう。

 二度目の人生なので、よくわかる。マリーベルはずっとジルベルトが好きだった。一度目の人生で、わたしがもっと早くマリーベルの気持ちに気づいて身を引いていれば何かが変わったのだろうか……。

 いや、聖女になれないマリーベルをジルベルトたちが大切にしたとは思えない。

 血縁的に聖女にはなれないし、結婚したとしても聖女になれないとわかればもっと力の強い人間か別の家から聖女になれる人間を迎えようとするだろう。迎える算段がつくまでキープされるだろうけれど。

 ただ、今回は一時的にでも領主夫人にはなれないはずだ。わたしがジルベルトたちを領主の座から追いやるからだ。

 マリーベルに関しては積極的に不幸にしようとは思わないが特に手助けはしない。ジルベルトと結婚して不幸になったとしてもそれは自分の選択だ。

 今回の人生でも二人はわたしとジルベルトが婚約を解消する前から付き合っているのだから。

 そして最後の目標、できればわたしも幸せになりたい。結婚がすべてではないだろうけど、やっぱり幸せな結婚にはあこがれる。


 一つめの目標は先ほど達成できた。円満な婚約破棄だ。下手に執着されても困るのでうまくいって良かった。ずっと無能なフリをしていたのでとても肩身が狭いけれど……。

 問題はどうやってジルベルトの領地を得るか、である。わたし一人の力では限界がある。味方が必要だろう。むしろ、今は無能力者でこの家のお荷物だ。結婚は回避できても領地を奪えないのであれば本末転倒だ。

 お父様なら二度目の人生の話、信じて協力してくれるだろうか……。


 悩んでいても仕方がない。わたしには協力者が必要だ。と言うより、お父様の協力がなければジルベルトを領主の座から降ろし、領地を奪うことなんてできない。

 マリーベルが結婚してしまえばお父様の娘でないことがばれてしまう。結婚相手を替えたいと言ってくるかもしれないし、別の家に介入されれば領地を奪うのはさらに難しくなる。あまり時間はない。

 一度目の人生でもお父様だけはわたしの味方だった。きっとわかってくれる。今だって無能なフリをしていてもお母様のようにあからさまに冷たい態度は取られたことはないのだから。

 それにお父様は『ルーン』の家の当主だ。不思議な体験にも理解があるかもしれない。

 そんな期待を込めてわたしは思いきってお父様に話をしてみることにした。



 お父様の部屋の前に来たけれど、とても緊張する。もし、部屋にも入れてくれなかったら? 力を期待されて婚約したのに婚約破棄だなんて今度こそお父様に失望されたかもしれない。

 いいえ、ここで考えていても仕方がないわ。婚約破棄されたのだもの。今、話ができなくてもどこかで話をする必要があるわ。

 わたしは深呼吸をする。前世でのお父様と死ぬ直前に聞こえてきた不思議な声を思い浮かべた。ほんの少しだけ気持ちが落ち着いた気がする。

 わたしは意を決してお父様の部屋のドアをノックした。


「お父様、少しお時間をよろしいでしょうか?」

「構わないよ。入りなさい」


 お父様はわたしを普通に迎え入れてくれた。

 声や表情は怒っているものではない。

 わたしは平静を装っていたが、内心はひどく緊張していた。

 話を信じてくれるのか、ずっと嘘をついていたことに失望されてしまうのではないか、と。

 わたしはソファに腰掛け、お父様と向き合う。


「お父様、ご存じかと思いますがジルベルト様と婚約解消になりました。申し訳ありません。ジルベルト様はマリーベルと結婚されるようです」

「話は聞いているよ。残念だったな。リリアーナとマリーベルが納得しているなら私としては何も言うことはないよ。リリアーナは色々とつらいと思うが今後のことはゆっくり考えなさい。つらいならしばらくこの家を離れてもいいんだぞ」


 お父様の表情は気遣わしげだ。婚約破棄されたわたしを心配してくれているように見える。

 これならきっと話を聞いてくれるわ。


「ありがとうございます。その件についてお父様にお願いとお聞きしたいことがあります」

「話してみなさい」


 意を決してお父様に尋ねてみた。


「お父様は土地の声を聞いたことがありますか?」

「どうしたんだい。いきなり……」

「土地に神様や精霊のようなものが宿っていると思いますか?」

「もしかして、力に目覚めたのか?」

 

 お父様の表情が変わり、少し興奮気味に言う。嬉しそうだ。やはり無能な娘の存在は辛かったのかもしれない。

 ずっと騙していてごめんなさい、お父様。


「いえ、その、なんと言いますか……。わたしが土地の声を聞いたと言ったら信じてもらえますか?」

「もちろん信じるよ。私はこれまでにも契約してきたからね。契約するときに声が聞こえることもある」

「そうですか……。では、信じていただけないかもしれませんが、わたしの話を聞いていただけますか?」


 わたしはこれまでのことをすべてお父様に話した。お父様はとても驚いていたし、怒っていた。当然だろう。お母様の裏切りも薄々感づいてはいたものの、マリーベルに力があったため、目を背けてきたらしい。


「――というわけで、わたしはジルベルトたちから領地を救いたいのです。お力を貸していただけないでしょうか」

「貸さないわけがないだろう。……これまでよく頑張ってきたな」


 お父様にそう言われて、わたしの瞼からは涙が流れていた。思えばあんなにつらかったはずなのにずっと泣いてなかった。

 色々と麻痺してしまっていたらしい。お父様だって色々とつらいはずなのにわたしのことをねぎらってくれる。お父様のひと言に救われた気がした。


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