38.あなたの領地はいただきますね
ジルベルトはわたしのことを無能力者だと思っている。フィオナとわたしが同一人物だということに気がついてない。
「えぇ、わたしはあなたの聖女じゃありません。でも、クリス様の聖女になります。そしてあなたの領地はいただきますね。精霊からこの土地を癒やすための力も預かっています」
「リリアーナ、どういうことだ? 私を騙していたのか!」
「わたしはあなたと結婚したくなかったのです。それに婚約破棄をしたのも、わたしとの婚約を破棄する前からマリーベルと交際していたのもあなたのほうではありませんか。マリーベルを確保したのと、これ以上はもう待てないから婚約破棄したのでしょう? 知っていましたよ。ずっと前から二人は愛し合っていたのでしょう?」
「それは、おまえが力を発現させないからじゃないか。私に聖女が必要なことはお前も知っていたはずだ」
「そうですね。ですが、それは浮気をしていい理由にはなりません」
「なんだと! いくら私に未練があるからと見苦しいぞ」
未練なんてこれっぽっちもないのですが……。
わたしの気持ちは一度目の人生を終える前から完全に冷め切っている。
「見苦しいのはジルベルトの方だろう。リリアーナはすでに精霊に認められ、聖女になる資格を持っている。力を使ったところも私は見ている。もちろん、ここの領民もだ。何もしない領主一族と土地を癒やし、精霊に選ばれたリリアーナ。どちらが領民に認められるかは明らかだろうな」
「そんな……。もしや、フィオナ嬢がリリアーナ? リリアーナは私を陥れようとしたのか?!」
二股をかけていたことを棚に上げ、被害者面してきた。ジルベルトはわたしを思いきり睨んでくる。今にも殴りかかってきそうな勢いだ。
そんなジルベルトからわたしを守るようにクリストファー様はわたしの前に立ってくれる。
「リリアーナは幼い頃、城で力を使いすぎてしまい一時的に力を使えなくなってしまっていたのだ。過去に臥せった前王妃殿下を救ったのもリリアーナだ」
「リリアーナが……?」
ジルベルトは大きな衝撃を受けている。
「リリアーナはとても大きな力を持っているようだ。先日、この領地に視察に来たときにこの土地の祝福を受けたのを私も見ている」
「祝福? だったら私と結婚するんだ。強い力があるなら話は別だ!」
わたしたちのやりとりを見ていたマリーベルは震える涙声で「ジルベルト様、ひどいです。わたしはどうなるのですか?」と言ったがジルベルトは取り合わずに無視をする。
「わたしはこの土地に宿る精霊に頼まれました。領地を癒やし、領民を助けて欲しいと。あなたたちにはこの土地の加護がすでにないのではありませんか? だから上手く力が使えないのです。あなたたちには領地を任せられないのでクリス様にお願いしました」
「そんなばかな……。はっ……先ほどからクリストファー殿下と親しげな……。リリアーナ、浮気か! クリストファー殿下に乗り換えるために私を騙したんだな」
「いいえ、違います。クリス様はあなたに婚約破棄された後、お父様に紹介していただきました」
「浮気なら慰謝料だ。浮気でなければ殿下と結婚するなんておかしい。慰謝料としてこの土地と契約しろ! 契約に必要だから結婚してやる。マリーベルを正妻として扱うがな。浮気するような女なんてその程度の扱いで充分だ」
わたしには理解出来ない思考回路だ。
「この土地とは契約しますが、あなたとは結婚しません」
「なんだと!」
「いい加減にしないか。リリアーナは浮気をしていないと言っているだろう。むしろ、そちらが慰謝料を支払うべきでは? 君はリリアーナとの婚約を破棄する前から彼女の妹と浮気していただろう。二人の関係を知っていたリリアーナは何度も婚約を解消したいと言っていたというのに」
「殿下は騙されているのです。浮気をして殿下を騙すような女は殿下に相応しくありません。私が元婚約者として責任をもって有効活用しますよ」
ジルベルトはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべているがクリストファー様の表情は冷ややかだ。
「リリアーナは浮気をするような女性ではない。私が一方的に思いを寄せていただけだ」
「その思いを受け入れたのであれば浮気でしょう」
「はぁ……話にならないな。私がリリアーナと初めて会ったのは子どもの頃で、私は正体を隠していた。だからリリアーナは私のことを知らなかった。リリアーナが婚約破棄されたということで宰相から独身の私に打診があったのだ。独身を貫いていた甲斐があった。この点は君に感謝しているよ」
「私は認めません」
「ジルベルトの意見は必要ない。ジルベルトには領主の座から降りてもらう。カレンベルクはもう領主一族ではない。これは国王陛下が決めたことだ」
どこからか人が現れ、ジルベルトたち領主一族を拘束していく。
「なぜわたくしたちがこんな目に? 離しなさい。わたしを誰だと思っているのですか!」
ジルベルトの母親がヒステリックに叫んでいる。
「自分たちの行いがばれていないと思っているのか? カレンベルクが領主一族から降ろされるのは土地を癒やせないからだけではない」
クリストファー様がジルベルトたちの不正をつまびらかにしていく。わたしが思っていた以上にやりたい放題していたようだ。国からの支援があったにもかかわらず領民が一向に楽にならないわけである。
「何かの間違いでは?」
「これだけの証拠を出してもまだしらばっくれるか……。あぁ、まだ大きな罪があったな。王族殺しの罪だ」
ジルベルトの顔色が変わり、うろたえている。
「な、何の証拠があって……」
「証拠なら嫌というほどある。私達を襲った賊は捕らえてあるからな」
「なっ……」
「おまえたちはもう領主一族ではない。ただの罪人だ。全員捕らえろ! 絶対に死なせるな」
ジルベルトの母親は「わたくしは関係ありません。王族殺しなんて恐ろしいことは考えたこともありません」などと喚いている。
「わたしはこの土地の精霊と約束しました。この土地と領民はわたしが幸せにしますので安心してください」




