35-2.後処理(ジルベルト視点)
私のところにクリストファー殿下の部下から連絡が届けられた。
クリストファー殿下は視察中に賊に襲われたが地震と火事によって危機を脱したそうだ。
私の計画は失敗したらしい。クリストファー殿下を消すどころか、地震と火事で私の駒が失われてしまった。
生き残った人間はいない。遺体は損傷がひどかったためすでに全部火葬したらしく、その人数も合っていた。
殿下をかばって何人もの部下を失ったと書かれていたので、本当に惜しかった。
「使えないやつらだな……。まぁ、証拠を消す手間が省けたか」
私はグラスの中の酒を一気に飲み干した。今回、失敗したやつらは手下としてはあまり質がよくない。後先考えずに奪いすぎてしまうのだ。いずれ処分するつもりではあったが、本当に忌々しい。
再びグラスの中に酒を注ぐ。いくら飲んでも飲み足りない。
しかし、思った以上にあの周辺の土地は回復したらしい。想定外に土地を回復させることができたと知らせがあった。別のルートからも同様の報告が上がってきている。
よほどのことがあったのだろう。後ほど計算して請求するとあるのがまた忌々しいが。
これは嬉しい誤算だ。回復は間に合わないかと思ったがこれで希望が見えてきた。
それにしても、宰相が手配した癒やしの力を持つ、フィオナという女性は相当な力の持ち主のようだ。
もっと土地を回らせてから襲撃させればよかったな。惜しいことをした。
「宰相め。そんなに力の強い人間を隠しておくなんて……。話を聞く限りマリーベルより力が強いのでは? マリーベルや無能なリリアーナではなく、その娘を寄越せば良いものを……」
思わず本音が口からこぼれる。
私の手の者の報告には「聖女なのでは?」とあった。土地と契約しなくてもそれほどまでに強い力を示すなんて……。そんなに力が強いなら私が欲しい。
国王陛下が言っていた、クリストファー殿下の妻候補なのかもしれない。しかも、見た目も良いとか。ますます欲しい。
今回の計画で手に入るはずだったのに……。失敗してしまったのは本当に悔やまれる。
なんとかして、その聖女を手に入れることはできないだろうか。クリストファー殿下が消えればなんとかなるか?
いや、国王陛下に釘を刺されている以上、クリストファー殿下がいなくなったとしてもフィオナを私の妻にすることは難しいか……。
なら、やはり正妻はマリーベルだな。フィオナは存在を隠して言うことを聞かせる。
私はペンを取り、クリストファー殿下に手紙を書く。小屋は勝手に使われてしまった、管理不足で申し訳ない、こちらも多くの被害を受けており困っているという内容だ。
実際に計画の直前まであの小屋は使わせていない。別の拠点を使っていた。仮に国王陛下たちが私を疑い、事前に調査をしていたとしてもあの小屋からは何も出てこなかったはずだ。駒が捕まっていなければばれるはずがない。
クリストファー殿下はもう王都に戻ってしまう。これからは警備が厳しくなるだろう。国王陛下からの命令を達成し、廃領の話をなかったことにすることが先決だ。
幸い、こちらにはマリーベルがいる。マリーベルを上手く使えば、なんとか国王陛下との約束は果たせるはずだ。聖女になれば効率よく土地も癒やせる。
マリーベルは私の言うことを本当によくきいてくれる。もっと無理をさせよう。ちょっと甘い言葉をささやけば喜んで何でも言うことをきく、とても可愛い女だ。マリーベルが駄目になったとしてもスペアも見つかった。
フィオナはクリストファー殿下と結婚する前にこちらに招待すれば良い。聖女同士交流してはどうかと?
クリストファー殿下がどこの土地を与えられるのかはわからないが、きっとフィオナは契約して聖女になるのだろう。
これから聖女になるなら、先に聖女となったマリーベルとの交流はきっと有意義だと。私は中古より新品が良い。
そして、不幸な事故に遭ってもらう。
素晴らしい計画だ。
あぁ、気分が良い。
今日はマリーベルがいる。
マリーベルに相手でもさせるか。私のために頑張っているご褒美をやらないとな。




