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35-1.後処理

 クリストファー様の無事を確認したわたしたちは拠点にしていた村に移動した。捕らわれていた場所は村からそんなに離れていなかった。領主の土地で立ち入らないように管理されている場所だったため、普段は人が近寄らないようになっていたらしい。

 こんなところに賊のアジトだなんて、ジルベルトと賊は完全に繋がっている。小屋が燃えてしまったため、証拠は消えてしまったが、賊たちは捕らえてある。


 わたしは今ベッドに横たわるクリストファー様の介抱をしている。と言っても賊に刺された外傷はきれいに治っていたのであまりやることはない。ただ、側にいて欲しいとのことで話し相手をするくらいだ。

 わたしがいるとあまり眠ってくれないから側を離れたいのだけど……。


「ねぇ、リリアーナ。果物が食べたいな。食べさせてくれる?」

「……わかりました」


 クリストファー様はこうやってわたしに甘えてくる。恥ずかしいけど仕方がない。クリストファー様にお返ししないと今度何かあったときにきっと後悔してしまう。

 けれど、今この家にはわたしたちのことを知っている人しかいないとはいえ、少し自重してほしい。そこまで大きな家ではないし、クリストファー様のお世話もある。偶然、居合わせた人は皆、気まずそうにしていた。

 クリストファー様はあの火事で自重を焼き捨ててきてしまったのかしら。


 そんなことを考えながらクリストファー様の口元にリンゴを運ぶと嬉しそうに口に入れた。

 こういう顔をされると断れないのよね……。


「怪我も悪くないね」

「悪いです! もう二度と会えないかと思ったんですよ。それに、今は怪我はしていませんよね?」


 わたしはじとりとした目でクリストファー様を睨む。


「そんな顔をしないで。笑顔が見たいな」


 クリストファー様の手がするりとわたしの頬に伸びてくる。


「もう……」

「でも、怪我が治っていて驚いたよ」

「えぇ、本当に驚きました。クリストファー様以外の地震や火事で怪我をした人も治っていたらしいです。すごいですよね。精霊の力って」

「いや、それ、リリアーナがやったんでしょ……」

「わたしにはそんな力ありませんよ」


 わたしはクリストファー様の言葉を笑い飛ばした。しかし、村人たちはわたしの言葉を受け入れてくれない。聖女だなんだとちょっとした騒ぎになって大変だった。

 どうしてか、あの不思議な現象を起こしたのがわたしだとばれてしまっていた。

 フランツ様たちが収めてくれて、その後、クリストファー様が釘を刺してくれたから騒ぎは収まったけれど……。

 今でも村人とすれ違うと拝む人がいたりして居た堪れない。


「いや、リリアーナみたいな女性を真の聖女と言うのだと思うよ。我々は精霊たちから力を借りて癒やしを行っているわけだろう? こんなに強く精霊と繋がっているなんて特別だよ。今度、城の資料を漁ってみよう。何か残っているかもしれない」

「真の聖女ですか……」


 わたしはただ、精霊の望みを叶えるために生かされているだけなのに。それなのに、今回は助けてもらってばかり。特別な存在ではない。ちゃんと自分の役割を果たさないと……。


「クリストファー様、そろそろフランツ様が報告にくる時間ですよ」

「もうそんな時間か……」

「もう外で待っていると思うので、声をかけてきますね」

「放っておけば勝手にくるよ」


 そう言ってクリストファー様は立ち上がろうとしたわたしを抱き寄せようとしてくる。


「駄目です。そう言って、前にフランツ様を困らせたでしょう?」


 ここに戻ってきてからクリストファー様はこれまでにないくらいわたしにべったりだった。今思い出しても恥ずかしい。



***

 

 わたしの目の前には運ばれてきたクリストファー様がいる。

 呼吸をして心臓が動いている。何も苦しそうな顔をしていない穏やかな表情だ。

 こうして隣にいると奇跡が起きたのだと実感する。 

 目を覚ましたクリストファー様はわたしの存在を確かめるように抱きしめてきた。人を呼んでこようと思ったのになかなか離してくれない。

 

「あ、あの、クリス様?」

「……リリアーナだ。無事でよかった」

「それはわたしの台詞ですよ」

「本当は君としたいことがたくさんあったんだ」

「わたしも一人になって後悔したことがたくさんありました。もっと素直になっておけばよかったって」

「本当? それは何?」


 クリストファー様の表情が変わった。

 あれ? 何かスイッチが入ってしまったかも。


「えっと……」


 わたしは思わず口ごもる。言えるわけない。


「教えて?」

「ひ、秘密です」

「そんなこと言わないで。これからは後悔しないように素直になって生きていこう?」

「でも……」


 いつにもまして圧がすごい。目を覚ましたばかりなのに立場が逆転している。全く許してもらえる気配がない。どうしよう……。


「さぁ、素直になって?」

「うぅ……」


 ――結局、白状させられてしまった……。


「じゃあ、リリアーナの存在を確かめさせて?」

「え?」

「口づけ、許しておけばよかったと思ったんだろう?」

「確かに言いましたけど……婚前ですし……」

「じゃあ、良いよね。後悔するといけないし」


 クリストファー様はわたしの顔に手をかけた。そのままクリストファー様の綺麗な顔が迫ってくる。

 このまま本当に? 良いの? やっぱり駄目じゃないかしら。

 後悔したという割にはわたしの頭の中は以前と同じように混乱していた。


 もう観念するしかない、そう思った時、ドアをノックする音した。そのままドアが開かれてしまう。

 え?

 わたしたちの顔はもう触れる寸前のところで止まった。


「クリストファー様、お加減はいかがですか? 起きている気配がしましたので……。お食事と至急確認していただきたい書類をお持ちしました」

「……誰が入室を許可した?」


 わたしたちを見るとフランツ様が一瞬固まり、すぐにくるりと身体の向きを変えた。

 危なかった。あと少しでもフランツ様が入ってくるのが遅かったら、とんでもないところを見られてしまうところだった。


「し、失礼しました。リリアーナ様はすでにお部屋にお戻りかと思っておりました」

「これからはきちんと確認してから入室するように。そして、今後は絶対に邪魔をしないように」


 クリストファー様はかなりご機嫌ななめだ。邪魔をするなというところにとても気持ちが込められている。

 わたしは助かった。とても恥ずかしい思いをしたけれど……。


***


 あれ以来、フランツ様たちは極力わたしたちの邪魔をしないように気をつけていた。フランツ様はこれまでは必要があれば許可を得ることなく部屋を出入りできる関係だったらしい。クリストファー様は女性に全く興味を示してこなかったので、このような状況になることを想定できず、とても驚いたそうだ。

 と言うわけで、こちらから声をかけないとフランツ様たちの方からは声をかけるのが難しい。

 こうしてばかりもいられないのでわたしはクリストファー様を振り切ってフランツ様に声をかけた。



 後処理は順調に進んでいる。ここを離れるのももう少しだ。


 

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