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29.束の間の休息

 一晩寝ると、身体はすっきりして軽くなった。けれど、クリストファー様は大事を取って休むように言う。わたしはおとなしく、書類の確認や今後の計画を立てて過ごすことにした。

 想定していたよりも効率よく癒やしを行えそうなのと、周辺の村も状況は良くないのもあり、計画の見直しが必要になったのだ。

 クリストファー様は今、情報収集も兼ねて村の中を散策しているようだ。


 今のわたしはとても調子が良い。体調も問題無いし、力も満ちている。むしろ、余っている感じだ。手のひらに意識を集中させるとほわっとした光が出現する。

 完全に普通じゃないわよね……。



 ……駄目だ。落ち着かない。

 おとなしくしているように言われたけれど、わたしは部屋を抜け出した。  

 

「すみません。お願いがあるのですが……」


 わたしはクリストファー様が帰ってくるまで気分転換させてもらうことにした。




 お昼時になり、クリストファー様が戻ってきた。


「クリス様、お帰りなさいませ」

「…………」


 わたしはクリストファー様を笑顔で出迎えたが、なぜかクリストファー様は固まっている。

 何かおかしなことがあったかしら? わたしの身体がまだおかしい?

 わたしはクリストファー様の態度に不安になる。

 

「どうかしましたか?」

「いや、リリアーナが出迎えてくれるのは良いものだと思ってね……」

「そんな大げさな……。それよりもお食事にしませんか? すぐに用意します」

「リリアーナが? そんなことはしなくて良いんだよ? 今日はゆっくりするように言ったじゃないか」

「寝てばかりいるのも退屈で……。厨房をお借りしました」

「え、まさか、リリアーナが作ったの?」


 手持ち無沙汰だったわたしは昼食の準備をして待っていた。手の込んだものは作れないが、普通に料理はできる。

 クリストファー様はとても驚いていたようだ。


「はい。簡単なものですが用意させていただきました」

「…………」


 クリストファー様の様子にわたしは少し後悔した。

 王族が口にするものを作るだなんて身の程知らずだ。どうして気がつかなかったのかしら。

 わたしがメインで作ったものは他の人に食べるのを辞退されてしまったもの……。やっぱり、信用がないんだわ。


「あ、やっぱり、信頼できる人が作った物でなければ嫌ですよね……」

「い、いや、そうじゃないんだ。あまりのことに感動して……。そうか、リリアーナが僕のために……」


 クリストファー様の一人称が僕になっている。

 こうやって、たまに一人称が変わるのよね……。表情もちょっと崩れているし。

 本当に感動しているようだ。なんだか、ぐっとハードルが上がってしまったような気がする。


「たいしたものではありませんよ?」

「いや、リリアーナが僕を思って用意してくれたことが嬉しいんだ」


 そこまでは言っていないような……。少々面倒なので、わたしは笑顔でやり過ごすことにした。


「料理、できたんだね」

「えぇ、旅に出ることも多かったですから。簡単なものくらいは作れないと困るんです。それに、結構楽しいんですよ。わたしがメインで作ったものは皆さんに遠慮されてしまったのですが、味は悪くないはずです」

「それは当然だよ」


 クリストファー様がちょっと怖い笑顔を浮かべた。


「え?」

「私を差し置いて、リリアーナが作ったものを食べようなんて思う人間はここにはいないと思うよ?」

「…………」


 だから、皆さん頑なに辞退したのね……。いろいろと納得できたわ。


「これからいろいろ作ってくれると嬉しいな。また楽しみが増えたよ」

「えぇ、もちろんです。喜んでもらえるよう修行しますね。それよりも、わたしの作ったもので問題無ければ食事にしましょう。村の様子を聞かせてください」




***


 それからの数日はこの村を拠点に周囲の癒やしを行って過ごした。村人たちからはとても喜ばれている。わたしが光って土地を癒やしたことは知られているので、周囲からは『聖女様』と呼ばれてしまっている。少し居心地が悪い。

 そんなに立派な人間ではないのに……。決まりが悪いわたしに対して、クリストファー様は「存在自体が聖女だから」「聖女なのは間違いないから問題ないよね」などとご機嫌だ。


 わたしたちはジルベルトが何か仕掛けてくるとは思っている。周辺の癒やしを行いながら仕掛けてくるのを待っている状態だ。

 当初、クリストファー様はわたしも一緒に囮になることに反対した。しかし、わたしたちが別行動していれば警備が手薄になってしまう。外出中はクリストファー様と絶対に離れないという約束で一緒に行動させてもらうことになった。

 これだけ強い癒やしの力を示せば、わたしが誘拐されてもおかしくないのよね……。一人でも力の強い人間を確保したいでしょうから。道中、事故にでも遭って死んでしまったことにするなんて、領主ならば難しくないだろうし。



 わたしたちは今、村から少し距離のあるちょっとした森にいる。森といっても近くに川が流れているが、本数も少なく、木には元気がない。

 土地に力を流すと手応えを感じた。本当に調子が良い。これまでよりも少ない力で土地を癒やせる。

 と言っても、あまりやり過ぎると他の土地とのバランスが崩れるのでほどほどにしなければいけない。


「ふぅ、こんなものかしら」

「フィオナ、少し休憩にしよう」



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