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27.特別な場所

 宿泊場所としてこの村で少し立派な家を貸してもらった。食材などは全て持ち込み、村人を含め、今回の視察の同行者以外は立ち入れないようになっている。

 ちなみにこの家はわたしが一度目の人生でもお世話になった場所だ。滞在期間はそんなに長くはなかったけれど、思い出はある。過去にわたしが滞在していたときはこの家でも村人たちとの交流があったが今回は仕方がない。

 クリストファー様がいるし、ジルベルトも何を仕掛けてくるかわからない。賊と繋がっているのなら直接的な攻撃を仕掛けてくる可能性もある。

 ジルベルトなら癒やしを行ってから何かしてくるでしょうね。この村の中に裏切り者がいるとは考えたくないけれど……。

 見覚えのある人たちばかりだけど、全員の顔を覚えているわけでもないし、一度目とは状況も違うのよね。怪しい人なんてわからないわ……。

 明日、あの場所に行く。上手くやれるかしら。

 わたしは椅子に座り窓枠に身体を預けて、ぼんやりと外を眺めながら考え事をしていた。

 

 コンコンと部屋のドアをノックする音がする。


「リリアーナ、クリストファーだけど、少し良いかい?」

「はい、少々お待ちください」


 わたしは返事をしてドアを開ける。


「こんな時間にすまない。何か考え事でも?」


 窓の外を見るように置かれた椅子を見てクリストファー様が訊ねる。なんでもお見通しらしい。


「少々、考え事を。色々と懐かしくて……」

「リリアーナはつらくないかい? ここが最後に訪れた村だったんだろう?」

「ここにつらい思い出はないんですよ。皆さんとても良くしてくれましたし。それより、何かお話があったのでは?」

「あぁ、そうだね。他の人がいるところでは出来ない話があったんだ。二人きりになってしまうけれど、部屋に入っても良いかい?」

「えぇ、構いませんよ。誓いを守ってくださるなら」


 きっと一度目の人生での話を聞きたいのだろう。わたしはニコリと笑顔で変なことはしませんよね? と釘を刺して部屋に入れることにした。


「もちろんだよ」

「どうぞこちらにおかけになってください」

「ありがとう」

「それで、お話とは?」

「今日の話を聞いて違和感を覚えたところはない? 見覚えのない怪しい人がいたとか」

「ちょうど、それを考えていたところです。前回とは状況が違うのと、全員の顔を覚えているわけではないので……。でも、今日の話し合いにいた人たちは全員見覚えがあります。内通者でないとは言い切れませんけど……」

「ふむ」

「どちらかと言うと、この村というより周辺の村を束ねている人物の方が怪しいですね。この村には私腹を肥やしているような人はいないようですし。お金があったとしても物がありません。脅されているなら話は変わりますけど」

「警戒は強めた方が良さそうだな。それと、一部ではあるが報告書が届いている。こちらを確認してもらえないだろうか?」

「早いですね」

「先行して依頼していた分なんだ。君の記憶と照らし合わせて見て欲しい。君と村長の話を聞いて改めてジルベルトが怪しいと思ったよ」


 わたしはクリストファー様に渡された書類を確認していく。そのまま、二人で不審な点や追加で調べた方が良いことを話し合った。



「すまない。早く切り上げようと思っていたのに、ずいぶん遅くなってしまった」

「いえ、大丈夫です」

「……本当は不安じゃない?」

「え?」


 クリストファー様の突然の言葉にわたしはドキリとした。


「明日行く場所では力を制御できなかったんだろう?」

「…………」


 わたしは表情から不安を悟られたくなくて顔を伏せる。


「大丈夫だよ。今回はわたしも一緒だ。一緒に力を流すから負担はずいぶん軽くなるはずだよ。焦らず少しずつ力を流そう」


 クリストファー様はわたしの手をそっと包み込んでくれた。じんわりと温かさがひろがっていく。わたしは思わず顔を上げてクリストファー様を見た。優しい笑顔だ。

 どうしてわかったの? 

 本当は少し不安だった。失敗したらどうしようって。

 不安な気持ちは知られてはいけないと思っていたのに……。聖女になるのにこんな気持ちは抱いてはいけないって思っていたのに……。


「大丈夫だから。安心して」

「クリス様……」


 クリストファー様はわたしのことをよく見てくれている。こんな素晴らしい人にわたしなんかが相応しいのだろうか。

 ……それでも、わたしもこの方と一緒に頑張りたい。



 翌朝、準備を整えたわたしたちは早々に出発することにした。まずは三年前に癒やしを行った場所に行って確認を行い、本来の力を流すべき場所に向かう予定だ。


 わたしたちは村長が用意してくれた案内人に案内され、三年前に癒やしたとされる場所に到着した。

 地面は乾いているし、人が近づいた様子もない。見事に荒れている。


「ここですね」

「あぁ、でも三年前に癒やした割には荒れているな」

「そうですね、力の残滓も感じられません」


 わたしは地面に手を当て軽く力を流してみる。土地と繋がった感覚がなく力が霧散していく感じだ。クリストファー様も同じように確認を行ったが、同じ意見だった。

 この結果には案内人も残念そうな顔をした。

 

「ここでは効果がなさそうです。移動しましょう」


 わたしたちはわたしが一度目の人生を終えた場所に移動した。

 相変わらず荒れている場所だ。

 懐かしい。空気も地面もあの時のままのような気がする。あの時から時間が続いているような錯覚をしそうだ。

 そして、懐かしさだけではなく、なんだか不思議な力を感じる。一度目の人生では感じなかった感覚だ。色んな土地を回ったけれど、こんな風に感じたことは殆どない。


「不思議な場所だね」

「クリストファー様もわかりますか?」

「あぁ、ここは特別な場所だ。こんな風に感じる場所はそうそうない」


 クリストファー様も同じように感じているらしい。


「さっそく、力を流しても良いでしょうか?」

「あぁ、取りかかろう」


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