20.ジルベルトへの通告
あれからクリストファー様は過剰なアプローチは少しだけ遠慮してくれるようになった。お父様がクリストファー様に何か言ってくれたのかもしれない。
誘われる頻度は多くなってしまったからトータルとしては変わらないような気もするけれど……。
今日はジルベルトが城に呼ばれる日だ。わたしは早めに城に移動し、ジルベルトからは見えない位置に椅子を用意してもらった。会話に参加することはできないが聞くことはできるし、表情を見ることもできる。
用意されたのが国王陛下の後ろということを除けばとても良い場所だ。
衝立があるとは言え、国王陛下の後ろに隠れるのは正直、恐れ多いのですが……。
何かあってはいけないからと一番安全な場所を用意されてしまった。
心配しすぎではないだろうか。
確かにここは安全だろうし、普通はこんなところに人が潜んでいるとは誰も思わないだろうけど。
今日、この場にいるのは国王陛下、クリストファー様、宰相であるお父様、ジルベルトだ。ジルベルトは領地の回復を約束させられ、できなかった場合は領主の座から降ろされることを通告される。
これでジルベルトが諦めて領主の座を降りてくれれば円満な解決なのだけど、それは無理な話よね……。
一日でも早くジルベルトたちからあの領地を解放できるし、マリーベルは無駄に傷つかなくていい。
それでも、きっと最後まで領主の座にしがみつくのだわ。
ジルベルトが何を言ったとしても絶対にやり遂げてみせる。今回はこんなにも心強い味方がいるのだもの。好きにはさせない
わたしは高揚感に似た不思議な感覚に包まれていた。
ジルベルトは国王陛下の前とあって神妙な面持ちだ。国王陛下もわたしと会話したときとは違い、険しい表情をしている。
そんなに会話をしたことはないが、国王陛下もクリストファー様のお兄様と言った感じなのだ。
「ジルベルト、今日そなたを呼んだのは領地についてだ。わかっているな」
「はい、承知しております」
「そなたの領地はずいぶん枯れてしまっているようだが、どうなっている? 前々から伝えてはいたが、このままでは領地を任せることはできない。宰相の娘、リリアーナとの婚約破棄をしたそうだな」
「は、はい」
「あれは、前国王が整えた婚約だぞ」
「申し訳ありません。しかし、リリアーナは聖女になる資格を有しておりません。仕方がなかったのです」
ジルベルトには聖女になる資格の有無を判断する力も権限もない。そもそも、聖女になれる条件や儀式は一般には知られていない。お母様ですら知らないくらいだ。
ルーンのような家の娘や血縁的に近しい者が聖女になれるらしい、となっている。力が偏らないようにするのと聖女を守るためらしい。それだけ聖女は特別なのだ。
ジルベルトもよくわかっていないから婚約破棄を渋ったのだろうけど。本当に何様なのだろうか。
「そなたに聖女の資格の有無を語る資格はないと思うが?」
「そ、それは……。しかし、リリアーナはルーンの娘であるにも関わらず、この歳になっても力を発現させません。聖女になれないのは明白ではないでしょうか」
「では、仮にそなたの言い分が正しいとして、土地を癒やすことは諦めたということだな」
「いえ。近々、聖女を迎える予定ですので問題ありません。宰相もご存じかと思います」
「宰相は納得しているのか?」
「残念ではありますが、気持ちがないのに結婚を強要することはできません。私も娘が可愛いですから。当人同士が納得しているのであれば仕方がないことだと思っております」
「ふむ。で、あればこれ以上は言うまい。では、その聖女によって土地を回復させるのだな?」
「そのとおりでございます」
「そなたたち領主一族は癒やしを行わないのか?」
「わたしたち一族では聖女の力に及びません。癒やすのは聖女に任せ、私たちは領地運営に専念したいと思っています」
「聖女なしではそなたたちには土地を回復させる力はないと……。では、一年以内に回復させなさい」
「い、一年ですか? それはあまりにも急すぎます……」
「何を言う。これまで何度も通告してきたであろう」
ジルベルトはずいぶん動揺しているようだ。明らかにうろたえている。
これまでに何度も領地を回復するように言われているのだから、普通に考えれば急と言うこともないはずだ。
「それは、元婚約者だったリリアーナに力がなかったためです。私たちには領地を回復させる意志はありました。リリアーナに力があればこのようなことになっていません」
「では、すべてはリリアーナのせいだと……。それはそなたたち一族の総意ということで間違いないな」
「そうでございます! すべてリリアーナに責任があります。私たちは一度は婚約者となったリリアーナを思い、力の発現を待っていました。リリアーナは力が無いにもかかわらず私の婚約者の座にしがみつき私の領地に力を与えることを阻んでいたのです」
ジルベルトはとんでもない持論を展開してきた。クリストファー様やお父様から怒りのオーラが見えるのは気のせいではないはずだ。




