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2.久々の帰宅(一度目の人生①)

 今日は久々の帰宅だ。土地を癒やす旅に出てから一年半になる。まさかここまで土地が枯れてしまっていたとは……。

 土地を癒やすためには直接その土地を訪れなければならない。力を流す場所があるはずなのに、その場所がわからなくなってしまっていた。きちんと管理されていなかったという証拠だ。本来ならば、場所はしっかり把握され、微力でも力を持った管理者もいるはずなのだ。

 領主一族は何をしていたのか。これでは領民も大変だっただろう。かなりの日程を要したが、それでもまだすべての土地を回り切れてはいない。

 自分の屋敷で寝泊まりした日数より、行く先々で滞在した宿での日数の方が多い。

 屋敷に用意された自分のベッドで寝たことなんて殆どない。お世話になった村のベッドの方が馴染みがあるくらいだ。それでも、そんなことはどうでもよかった。

 領民の生活の方が大切だもの。

 カレンベルクが治めるこの領地はこの国にとっても重要な土地で元々は豊かな土地だった。それなのに、これまで見てきた土地は全て枯れている土地だった。

 この現状を見れば、領主の屋敷でのんびり暮らすことなんてできない。本来であれば帰宅する余裕はないのかもしれない。

 今回の帰宅はこれまでに回ってきた土地の現状を聞くのと、今後の計画を話し合うためだ。

 色んな土地を回ることを優先しているので、結果を確認することまで手が回っていない。

 さすがに一年半も帰ることができないなんて思わなかったけど……。



 懐かしいと思うほどこの屋敷にいたことはないのだけど、久々の帰宅だ。

 屋敷に帰ると屋敷の人間が皆、なんだかよそよそしい。

 久しぶりすぎてどう接していいのかわからないのかしら。

 いくら殆ど滞在したことがなかったとはいえ、この態度は少し悲しいものがある。少しずつ認めてもらえるように頑張るしかない。


 

 誰も出迎えてくれないのね。この領地のために旅に出ていたというのに。

 帰ったというのに夫も夫の両親も出迎えてくれない。行くときはあんなにも笑顔で見送りしてくれていたのに。

 帰るという連絡が届いていないのかしら。

 わたしは使用人に部屋を案内される。まるで客人のような扱いだ。


 案内された部屋のソファにジルベルト様が座っていた。ジルベルト様の隣にはなぜか妹のマリーベルがいる。久々に帰宅するわたしに会いに来た、というわりには雰囲気がおかしい。

 二人の距離、妙に近くないかしら? 

 促されるままわたしは二人の向かいに座る。わたしとマリーベルの座る位置は逆ではないのかと不思議に思ったけれど、言い出せる雰囲気ではなかった。

 これではまるでマリーベルがこの家の人間で、わたしの方がお客様のようだわ。


 妙な雰囲気のまま、ジルベルト様は口を開いた。


「……驚かないで聞いて欲しい。跡継ぎができた」

「跡継ぎですか? 誰か養子でも迎えるのですか?」

 

 もちろんわたしは妊娠していない。この屋敷にきてすぐ旅に出ており、殆どこの屋敷で過ごしていないからだ。

 力が強い子を養子にしたのかもしれない。この家は力不足に悩んでいるのだから不思議なことではない。


「いや、私の子だ。マリーベルは私の子を妊娠している。子どもができたのでマリーベルと一緒になろうと思う」

「はい?」


 一瞬、何を言われているかわからなかった。

 どういうこと? どうしてジルベルト様の子どもをマリーベルが?

 

「君とは確実に子どもが望めるかわからない。我が家には聖女の血を引いた跡継ぎが絶対に必要だ。それは君もわかっているだろう? マリーベルとの子どもを養子に迎える、という手もあるが母親と離すのはかわいそうだ。君も子育ては難しいだろう? それに、私はマリーベルを愛してしまったんだ。マリーベルは領主の仕事を支えてくれた。私とマリーベルは結ばれる運命だったようだ」

「お姉様、ごめんなさい。わたし、ジルベルト様を愛してしまったの……。本当はずっと前から……」

「君もずっと私を放っておいただろう? 領主の仕事はつらく、孤独なものだ。特に私の領地はとても苦しいからね。マリーベルはそんな私を癒やしてくれたんだ。君とは違ってこんなに優しく愛らしく、女性らしい」


 あぁ、そういうことね。わたしがいない間に二人は不倫していたのか……。

 ずっと放っておいたと言うけれど、帰りたくても帰れる状況ではなかった。

 それに、この人は一度も顔を見に来てくれることも、一緒に土地を癒やすこともしてはくれなかった。むしろ、放っておかれたのはわたしのほうではないだろうか。

 わたしはこまめに日々の出来事やこれからの予定を連絡していたというのに。いったいどちらが孤独なのかしら。土地を癒やすのは領主の仕事ではないの? わたしがしてきたことは?

 領地を立て直すための役割分担だと言っていたというのに……。

 目の前の二人は完全に二人の世界を作っている。まるで、わたしの方が横恋慕してきたお邪魔虫のようだ。

 なんだ、わたしは最初から一欠片も愛されていなかったのね……。

 この人ならわたしを愛してくれると思ったのに。いいえ、愛してると言ってくれたからわたしは頑張ってこられたのに。

 わたしの方が力が強かったからわたしが選ばれただけだったのかしら。もしかして、最初からこのつもりだった?

 力の強いわたしに先に領地の土地を全て回復させて、あとはマリーベルと交代させるつもりだったのかもしれない……。

 

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