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12.思い出の中の男の子

 この花びらはわたしがあげたもの? 五歳の時にクリストファー様に会ったことがあるだろうか。全く記憶にない。今から十年以上前とはいえ、会ったことがあればさすがに覚えていると思う。人違いだと思う。


「記憶にございません……。申し訳ないのですが、人違いではないでしょうか?」

「いや、リリアーナだよ。五歳のときに城に来て聖女の癒やしの力を使っただろう?」

「どうしてそのことをご存じなのですか?」


 クリストファー様とは会ったことはない。ただ、お城で少し年上の男の子と会ったことはある。その子には力を使っているところを見られてしまった。そのため、わたしは口止め料として花びらをあげたのだ。その子からもらったのかもしれない。


「警戒しないで。私がその場にいたからだよ」

「? 確かにわたしは力を使い、それを少し年上の男の子に見つかってしまいました。でもその子はクリス様ではありません。近くで見ていたのですか?」


 まさか他にも見られていたとは……。他に見られていたらどうしよう。


「いや、その男の子が私だよ」

「どういうことでしょうか? わたしがあった男の子は確かリックという名前で、髪の色も焦げ茶色でしたし、目の色も違います。服装だって王族っぽくありませんでしたよ」

「城を抜けだそうとしているところだったから変装していたんだ。君に見つかってしまい、咄嗟に名前を偽ってしまった」


 え? まさか本当に?

 衝撃の事実だった。まさか、あの時の男の子がクリストファー様だったなんて……。


「では、あのときの男の子がクリス様なのですか?」

「良かった。覚えてはいたんだね」


 クリストファー様はとても嬉しそうにみえる。さっき少し残念そうだったのはわたしが覚えていないと思ったからのようだ。


「もちろん覚えています。でも、そんなのわかるわけないじゃないですか。名前も髪の色も違います。十歳と二十三歳ではかなり顔の印象も変わりますよ」

「そうかなぁ。私は君の姿絵を見たときにはすぐ君だってわかったよ。というか宰相から話をもらった時に喜びを表に出さないようにするのに必死だったかな。ずっと君に会いたいと思っていたからね」


 まさか、クリストファー様と小さい頃に会ったことがあったなんて……。しかも、ずっと会いたいと思ってくれていたなんて……。

 わたしは五歳の頃、お父様に連れられて城に行っていた時期がある。お父様は連れてきたわりにその辺で遊んできなさいとわたしを部屋から追い出した。お城の中をうろうろしても良いものかと思ったけれど、お父様の言うとおりにした。

 暇になってしまったわたしは城の中を散歩したのだが、植物園のようなところに迷い込んでしまった。今思えば呼ばれたのだと思う。

 そこは中心に大きな木があり、周りには色々な植物が植えられていたが、どれも元気がない。わたしはそれまで力を隠していたにもかかわらず、求められた気がして力を使ってしまったのだ。

 放っておけなかったのよね……。力を流すと喜んでくれたし。


 二度目の人生では力を隠して生きていくことにしていたのに、力を使っているところを男の子に見られてしまった。それがリックだ。もちろんわたしは口止めする。リックは黙っている代わりに少し話し相手になって欲しい、友達になってほしいと言ってきたので話し相手になっていた。

 何日か力を流しているうちに植物たちは満足したようでお礼にと花びらを二枚くれた。

 一度目の人生で不思議な体験をしたわたしは特に何も不思議に思わず、その現象を受け入れて花びらを受け取った。

 不思議な力を感じたし、お守りに良いと植物たちが言っていたので元気の無かったリックに一枚渡した。なんとなく渡した方が良い気がしたのだ。



―――――


「リックはいつもここにくるときは元気がないみたいけど大丈夫? 何か悩みがあるの? 勉強が大変とか?」

「そんなことじゃないよ。でも、君と話していると元気になれるよ」

「確かにわたしと話をしているときは楽しそうだわ。お友達がいないの? お城では難しいわよね。でも、わたしがここにくるのは今日で最後よ?」

「いや、確かに友達は少ないけどさ……。って本当にもうここにこないの?」

「うん。お父様が今日で城にくるのは最後だろうって言っていたの。ここの植物たちも満足したみたいだからわたしもここにくる理由がなくなっちゃった」

「……そうなんだ」

「そんなに悲しそうな顔をしないで。これをあげるわ。ここの植物たちがくれたの。良いお守りになるんですって。だから元気を出して。きっと良いことがあるから。あ、でも、植物たちに良いお守りになるからってもらったのは内緒ね。あと、ここで見たことも」

「もちろん。だったら僕はこれをあげる。今はこれくらいしかないから……。君も僕とここで会ったことは内緒だよ」

「いいの? 懐中時計なんて人にあげたら困らない? それにこれってものすごく立派なものじゃないの?」

「大丈夫だよ。それにこの花びらは幸運のお守りなんだろう? この時計じゃお守りには釣り合わないくらいだよ。お互いに内緒にする約束の証に」

「じゃあ、約束ね」

「……ねぇ、いつか大きくなったらまた会えるかな?」

「うーん、どうだろう。……そうね、会えるといいね。そう思っていた方が素敵だわ」

「僕はきっと素敵になっているだろうから楽しみにしてて」

「もう、何、そのものすごい自信」

「とにかく約束だよ」


―――――


 確かにそんなやりとりがあった。あの、リックがクリストファー様だったなんて……。

 城の植物に詳しかったからてっきり、管理している人か管理している人の息子かと思っていた。それか、わたしのように親に連れられてきた子どもか。

 よくよく考えればあんな立派な懐中時計をポンとくれるような人は身分の高い裕福な人だ。どうして不思議に思わなかったのかしら……。

 過去の自分を殴りたい。なんて失礼な態度だろう。いや、王弟殿下でなかったとしても失礼じゃないだろうか。

 二度目の人生だというのになんて未熟者なの。穴があったら入ってしまいたい……。

 わたしはいたたまれない気持ちになった。


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