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11.思い出してと言われても

 無事、お見合い(のようなもの)は終了した。こんなにあっさりと強力な協力者たちが得られるなんて思ってもみなかった。もしかして、これもあの土地の精霊が力を貸してくれているのだろうか。


 今後の筋書きはこうだ。国王陛下がジルベルトを領地のことで呼び出す。一年以内に領地の回復が見込めない場合領主から降ろすと通告する。

 ジルベルトはマリーベルと結婚し聖女を得るから問題ないと言うだろう。そのまま二人には結婚してもらい、土地との契約を行ってもらう。もちろん契約はできない。聖女なしでは期限内に回復できないからとジルベルトたちから領地を取り上げ、クリストファー様を新しい領主にする。

 まぁ、聖女がいたとしても一年で回復は難しいんですけどね……。

 一度目の人生ではかなり無理をして一年半以上時間をかけて領地を回ったがそれでも全部は無理だった。

 最初から無理な話なのだ。それでもジルベルトたちは回復にどれくらいかかるかわかっていないからできると言うだろう。いや、わかっていたとしてもできると言うしかない。

 そもそも、かなり前から改善を強く求めていたらしく、一年でも充分な期間を設けているそうだ。できればもう少し短い期限を設定したかったそうだが、領主の座から降ろすための充分な不正の証拠を集めたり、スムーズな領主交代を秘密裏に進めたりするためにこの期間にしたらしい。

 ちなみに、ジルベルトたちへの処遇は検討されているがかなり厳しいものになるようだ。疑われている不正も全て暴いてしまおうと秘密裏に調査が進められている。隠しているであろう財産も全て没収するらしい。わたしも何か参考になればと一度目の人生で不審に思ったことをいくつか伝えてある。

 少しでも何か役に立てば良いのだけれど……。



 そしてわたしは今、何故か街でクリストファー様とお茶を飲んでいる。クリストファー様曰く、結婚するなら友好を深める必要があるだろう、とのことだ。確かにそれはそうだろう。どうせ結婚するなら良い関係を築いた方が良い。その方が土地との契約も上手くいく。

 一応、クリストファー様は変装はしているが、格好良さは隠せていない。こうして街中に出るとものすごく注目を浴びてしまう。

 当の本人は慣れているからなのか全く気にした様子はない。


 それにしても会う頻度が高くないだろうか。すでに十回目。週に一度以上会っている。

 悲しいことに、お母様もマリーベルとジルベルトとの結婚準備に夢中なので、わたしの行動には無関心だ。二人で家を空けることも多い。屋敷全体がマリーベルの結婚式の準備に盛り上がっているし、クリストファー様に今後の打ち合わせをしよう、など言われればわたしは断れない。

 別に嫌な相手ではない。ただ、とにかく緊張するのだ。

 そもそも幼い頃から婚約者がいたわたしには男性に対しての免疫がない。一度目の人生では結婚までしていたというのに情けない話だ。


「どうかした? ケーキが口に合わない?」

「いえ、そういうわけでは……。とてもおいしいです」

「悩んでた方のケーキにすればよかった? それともお茶を別のものにした方が相性が良かった?」


 クリストファー様が選んでくれたお店なだけあって、ケーキはとてもおいしい。どうしてケーキを悩んでたことがわかるのかしら。そんなにわかりやすかった?

 ……そうじゃなくて、この状況がおかしいことに気がつかないのかしら。

 クリストファー様はいつもニコニコと上機嫌だけれど、わたしとしてはそんなに気の利いた話題が豊富にあるわけではない。無駄な時間を過ごさせてしまうわけにもいかないし、クリストファー様の容姿が無駄に注目を集めてしまう。一緒にいるわたしは平凡なので、ものすごく居心地が悪い。正直、困るのだ。


「……そういうわけでもありません。ただ、この状況にまだ慣れないだけです」


 単純にあなたがまぶしいなんて言えないわ。


「慣れてもらわないと困るな。これから結婚するんだし」


 笑顔なのだが、圧がすごい。日に日に距離を詰めてくる。今後の打ち合わせをしようと言う割にはただ会話を楽しむだけのことが多い。わたしのつまらない話も楽しそうに聞いているし、今も熱心にわたしを見つめてくる。


「どうしてクリス様はそんなに結婚に前向きなのですか?」

「またそれを聞くの? 君に興味があるからだよ」

「クリス様は興味だけで結婚されるのですか?」

「意地悪なことを言うね。君は私に何も感じない?」

「……そちらの方が意地悪ではありませんか?」


 運命を感じない? とでも言うように何度も何か感じないか確認してくる。意外とロマンチストなのだろうか。わたしの方は運命的なものは今のところ何も感じない。

 でも、緊張はするが一緒にいて嫌じゃないし、慣れればなんとかなりそうだと思う。クリストファー様が気を遣ってくれているからだろうか、会話は楽しい。この人と結婚しても問題ないと思う。まぶしさを除けばだけど。

 一度目の人生でジルベルトと結婚したときとはまったく違う。圧はすごいがわたしをとても大事にしてくれていると感じるのだ。

 ただ、なぜそう思ってくれるかがわからない。クリストファー様もいきなり結婚を勧められたはずである。わたしが土地の精霊の声を聞いて時間を戻してもらった特別な聖女だからだろうか。

 この力に価値があるのは理解できる。理解できるけれど、力だけを求められるのならばやはり悲しいものがある。


「クリス様はわたしが聖女だから結婚するのですか?」


 クリストファー様は少し困った顔をする。意地悪な質問だっただろうか。枯れてしまっている領地に聖女の力は必須である。でも、もし他に何かあるなら聞いておきたい。なにより、これ以上傷つきたくない。


「……できれば君に思い出してほしかったんだけど難しそうだね」

「思い出すようなことは何もないと思うのですが」

「時間もあまりないから仕方ないか。君はこれに見覚えがない?」


 そういって花びらの入ったペンダントをみせてきた。花びらから不思議な力を感じる。偶然にもこれと同じようなものわたしは持っている。


「不思議な力を感じます。奇遇ですね。わたしも同じような花びらを持っています」


 クリストファー様はなぜか少しがっかりしている。


「それ、君からもらったんだよ。覚えていない? 君が五歳くらいの時だと思うんだけど……」


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