1.婚約破棄は計画通り
「リリアーナ、君との結婚は無かったことにしてもらう。君の力が発現しない以上、君とは結婚できない。君の妹であるマリーベルと結婚することにするよ」
「……わたしも正直、ずっと心苦しかったのです。ジルベルト様には聖女が必要ですもの。これで肩の荷が下りました。昔から二人はお似合いだと思っていたのです。これまでお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。どうか、マリーベルとお幸せになさってください」
わたしは微笑んで二人を祝福する言葉を述べた。嘘偽りのない心からの祝福だ。
以前からジルベルトがマリーベルと浮気をしているのは知っているがわたしの心の中はとても穏やかだ。
「ありがとう。マリーベルと幸せになるよ」
円満な婚約破棄。これがわたしの目指したゴール。
婚約破棄に円満も何もないけれど……。
この人とは結婚したくない。わたしはその一心で今日まで頑張ってきた。
この婚約破棄も計画通りで、努力がようやく報われる。これでわたしは自由だ。
わたしはこれまで自分の力を隠し、無能のフリをしてきた。力があればわたしの目の前にいる男、ジルベルト・カレンベルクと結婚することになってしまうからだ。マリーベルは本来のわたしよりかなり力が少ないものの、すでに力を発現させている。
力の有無を考えなければ、元々、ジルベルトはマリーベルのようなタイプが好きなのだろう。昔からマリーベルに対する態度は婚約者の妹に対するものではなかった。
間抜けなことにそれに気がつくのに随分時間がかかったのだけど……。
わたしの両親は政略結婚だったせいかあまり仲が良くない。お父様の家は代々特別な力を持った家系であり、お母様はその分家筋。お母様は結婚したい人がいたにもかかわらず、親に無理やりお父様との結婚を決められてしまったらしい。
わたしを生んだ後は義務を果たしたとばかりに結婚前に恋仲だった人と子どもをもうけてしまう。それがわたしの妹マリーベルだ。つまり、マリーベルにはお父様の血が流れていない。
なぜそんなことを知っているのかって? それはわたしが今、二度目の人生を送っているからだ。
わたしは生前、『聖女』として生きていた。聖女は特別な力を持っている。土地を癒やす強い力だ。この土地を癒やす力自体は持っている人間はそれなりにいるし、男性でも力が無いわけではない。しかし、聖女に比べると弱い。
聖女が特別なのは強い力だけでなく、土地と契約できるからだ。土地と契約できればさらに効率良く土地に力を注げる。
領主一族は基本的に土地を癒やす力を持っていて、その土地を癒やす義務がある。その力がないと土地は荒れ、作物が育たなくなってしまい、自然災害も多発するからだ。
しかし、わたしが婚約解消をしたジルベルトの家は土地を癒やす力が薄れてしまっており、土地を充分に癒やすことができていない。
そのため、どうしても聖女が欲しい。わたしとの婚約も聖女の力を期待したからだった。
それなのにわたしは聖女としての『癒やし』の力を発現させない。すでに力を示しているマリーベルと結婚したい、となるのは自然なことだろう。マリーベルも昔からジルベルトのことが好きだったのだ。ちょうど良い。
これまでの努力もようやく報われた。
一度目の人生ではわたしはジルベルトの家に聖女として迎えられた。すでに領地はやせ細っており、わたしは嫁いできて土地と契約し、すぐに領地内の土地を癒やす旅に出ることになった。
わたしが土地を癒やすために家を離れている隙にジルベルトはマリーベルと浮気をしていたらしい。わたしが帰ってくるとマリーベルはジルベルトの子どもを身ごもっていた。
ジルベルトの家は跡継ぎができたと大喜びで、わたしはお払い箱になった。
せっかくの二度目の人生。そんな浮気男との結婚は回避したい。マリーベルはジルベルトのことが好きなら自由にすればいい。ただ、喜んで婚約破棄に同意はするが、ジルベルトはこれから大変だろう……。
マリーベルは聖女になれないし、わたしはジルベルトから領地を奪うつもりだから。