灰かぶりと“アリス”⑥
だが、次の夜。エラさんと身を寄せ合って就寝についても、夢の中にあの帽子屋が出て来る事は無かった。
居たら居たで鬱陶しいが、居ないのは居ないで気になってしまう。
「――アリス! ねえ、アリスってば!」
不意にか細い声が私を呼んだ。
「あっ、どうしたの?」
「さっきから呼んでたよ!」
「そんなボーっとしてたら、また指刺しちゃうよ!」
ネズミ達の言葉に、私は「ごめんごめん」と苦笑を浮かべながら謝った。
「ここ、もっとフリル付けた方が良いと思うだんけど!」
「あと、リボンも付けて!」
「もっとキラキラさせようよ!」
三匹のネズミが口々に言う。
ドレスの製作は順調に進んでいた。初日は、指を刺しまくっていた私だったが。次の日には、刺繍作業に慣れて怪我をすることは殆ど無くなった。
エラさんが家のお仕事や買い物で屋根裏部屋に居ない間、私達はせっせと作業を進め。贈物であるドレスは大分、形になってきていた。
素人の幼女と、ネズミ三匹が作ったにしては……な、レベルだが……。
「でも、全部出来るかな……」
そして、舞踏会の日は明日と目前に迫っていたのだ。
「大丈夫!」
「何とかなるよ!」
明るく言うネズミ二匹。
まあ……考えたってしょうがない!
今は頭よりも、手を動かそう。と、私達はエラさんの為、ラストスパートをかけるのであった。
――そして、夜。
部屋に戻り、就寝したエラさんを起こさないよう。私達は、こっそりと静かに。彼女への贈り物を完成させたのだった。