白雪姫と“アリス”③
私達は驚いた表情で、同時に声の方へと振り返った。
「ごっ、ごめんね! 驚かせるつもりは、なかったんだけど……」
そこに居たのは、白馬に乗った青年だった。
彼は白馬から降りながら、私と野ウサギの方へと歩み寄り始める。
「今、白雪姫って……」
すると、私を見てさらに表情を変える青年。
「君、名前は?」
私達の近くまでやって来た青年は、私へと視線を合わせて尋ねた。
「わっ、私ですか? 私は、アリスです」
答えると、彼は「そっか……」と少しだけ残念そうな表情を垣間見せる。
「ちょっと、知り合いに似ていて……って、言っても。似てたのは小さい頃だから、本人なワケないんだけど……」
彼はハニカミながら頬を掻く。
ふーん……私に似てる人が居るんだ。まぁ、そうは言われても反応に困ってしまうのだが。
「さっき、“白雪姫”って聞こえたんだけど。君達、何か知ってるの?」
私と野ウサギは、青年の言葉を聞いてからお互いに顔を見合わせた。
「この人も、白雪姫さんの事探してるのかな?」
「どうする?」
私の言葉に、野ウサギも小声で言う。
「どうしよっか……」
私は思案を巡らせる。
「あっ、まず。どうして、白雪姫さんを探しているのか聞いてみたらどうかな?」
「それだ!」
私と野ウサギは、青年へと顔を再び向けた。
「何故、白雪姫さんを探してるんですか?」
「う、うん……あの、全部会話聞こえてたからね?」
戸惑った様子で、彼は「実は……」と言葉を続ける。
「幼い頃に、彼女と会ってから忘れる事が出来なくて……そろそろ、身を固めろと親や家臣達に言われ始めたんだが。結婚するなら彼女以外考えられなくて!」
顔を赤らめながらも、熱の込もった声でさらに続ける青年。
「だから、白雪姫に求婚するために、彼女を探していて!」
私と野ウサギは再び、顔を見合わせた。
まぁ、真偽は一旦置いておくとして理由は判明した。だが……。
「そういえば……貴方は、どちら様でしょうか?」
私達も先に尋ねるのを失念していたが、彼も自分が誰で白雪姫さんとどのような関係者かの説明を省いてしまっていた。
「あ」
私の質問に、青年は間の抜けた表情でそう声を漏らすのであった。
***
数分後、私と野ウサギは青年の白馬に乗せて貰っていた。
「このまま、真っ直ぐ行けば小人達の家だよ!」
白馬の頭にちょこんと乗っかている野ウサギが元気に言う。
あの後、私と野ウサギは青年に詳しい話を聞かせて貰ったのだ。
彼は隣国の王子様――正直、今まで出会ってきた王子様の中で素朴な印象を受ける容姿だ――で、幼い頃に何かのパーティーで見かけた白雪姫さんに一目惚れして忘れられなかったのだという。
そして、周囲に結婚の催促をされ。それならば、結婚相手は白雪姫にお願いしたい……と、彼女を訪ねて。白雪姫さんが元々住んでいた城へと足を運び、彼女が居ないと知ると。こうして方々を探していた……と、いう経緯だそうだ。
その話を聞き納得の上、野ウサギの案内の元。共に白雪姫さんの所へ目指す事と相成った。
「でも、まさか鏡の精に出逢えるなんて光栄だな!」
私の後ろに跨る王子様が、明るい声を掛ける。
なんだか、この王子様の声。聞き覚えがあるんだよな……誰だっけ?
「それにしても、小さい頃の彼女にそっくりだ……」
それって……。
「“白雪姫”さんですか?」
「うん、そうだよ」
王子様は照れたように頷いた。
「確かに! 貴女、ちょっと白雪姫に似てるかも!」
野ウサギが振り返り、元気に告げる。
そんなに? てか、この王子様の声こそ。私は聞き覚えがあるんだけどなぁ……誰だったっけ?
「彼女の妹とかじゃないよね?」
「多分……違う、かと……」
記憶が無いので確証は無いけど……。
「でも、そっか。彼女の母君は、彼女を生んですぐに亡くなってしまったと伺っている。そんなはずは無いな」
悲し気に顔を少し俯かせて呟く。
なるほど……その後に、あの毒リンゴを持たせた女性と白雪姫さんのお父さんが再婚して継母になったのか。
エラさんの時といい、もう少し女性を見る目を……いや、人の好みに意見を述べるのはやめておこう。そんな事を言える程、私も経験豊富では無いというか何も覚えてないし。
「もうすぐ、小人達の家に着くよ!」
元気な野ウサギの声が掛かる。
見ると、私達の向かっている先に小さく可愛らしい木で造られた家が見えてきた。傍までやって来てみると、ジェペットさんの家と比べて小振りで。確かに小人の家という感じだ。
「――大変大変ー!」
すると、家のすぐ傍の大きな木から。リスが一匹駆け下りてきた。
「どうしたの?」
「あっ、君どこ行ってたんだよ!」
野ウサギの知り合いなのか、リスは白馬の頭に乗っかったまま自身に顔を向ける野ウサギに「大変なんだ!」と慌てた様子で続ける。
「白雪姫が、毒で死んじゃったんだ!」
リスの言葉に、その場に居た私達全員が驚愕の声を上げるのであった。




