白雪姫と“アリス”①
帽子屋に投げ飛ばされた私は。楕円型の鏡を抜け、地面との衝突を果たす。
「イタタ……」
うつ伏せに倒れた私は、したたかに打ち付けた顎を擦る。
「――貴様、誰だ?」
すると、頭上から鋭い女性の声が聞こえてきた。
しまった……人が居たのか。鏡から出て来るのを見られてしまった。
私が内心、一人で焦っていると。
「オイ、聞いているのか?」
厳しい声が再び聞こえて来る。
「は、はい! 聞いてます、聞こえてます!」
顔を上げて、私がそう言うと。声の主である女性は「フンっ」と、鼻を鳴らす。女性はスラリとした美人で、少し歳を召してはいるがあまり気にはならない美貌を備えていた。
「貴様、何者だ? 忌々しい姿をしおって」
なんだか、妙に恐怖心を抱いてしまう声だな……しかも、忌々しい姿って……見た目は私が自分で選べられないんですが……と、私は頭の隅で考える。
そして、同時に。この質問の返答も。
「えっと、その……」
「はっきりせん奴だ」
すみません……。
「この魔法の鏡から出てきたという事は……貴様、まさか鏡の精か?」
えっ? “鏡の精”、とは……一体どういう代物で。
「……ならば、丁度良い」
突然、一人で何かを納得したらしい女性は。冷たい笑みを浮かべて、私へと一つ。果物のリンゴを差し出して来た。
それは真っ赤に熟れていて、とても美味しそうである。
「貴様、このリンゴを持って。白雪姫の元へ行って参れ」
えっ? えっ!?
「あの……」
私はおずおずと声を掛けた。
「なんだ?」
「“白雪姫”さん? とは?」
私に質問に、女性は眉を寄せる。
「ふざけてるのか?」
「滅相もございません!!」
だけど、知らないものは知らないワケで……。
「貴様がいつも私を差し置いて世界で一番美しいと認定している、憎たらしい前妻の娘だ!!」
鬼の形相で捲し立てるように言う女性に、私は身を竦ませる。
「今、森の奥に住んでる七人の小人の家に居るあの小娘を。さっさとこの毒リンゴを食べさせて抹殺して来い!!」
「はっ、はひぃっ!!」
剣幕に押されて、私は思わず返事をし。リンゴを受け取り、部屋の入口へと走って行くのであった。
***
夢中で走り、私は外へと出る。自身が出てきた建物へ視線を向けると、そこは大きなお城であった。
私、よくお城にお邪魔させて貰うな……。
「とにかく、“白雪姫”さんを探しに行けば良いんだっけ?」
まぁ、毒リンゴを食べさせる訳にはいかないけど……とりあえず、探して会って。命が狙われている事は教えてあげた方が良いよね。
私はエプロンのポケットに入れていた、料理長さんから頂いたお弁当の包みを取り出し。毒リンゴを包み、再びポケットへと突っ込んだ。
ポケットのサイズが大きくて助かったなぁ。
流石に、その辺に捨てて動物達が万が一食べてしまったら大変なので。ちゃんとした処分先が見つかるまで、持ち歩く事にする。
……毒リンゴなんてアイテム、本当は持っているのもおっかないが仕方ない。
「よし」
出発する準備が出来た私は、遠目からでも木々が生い茂るのを確認できる森と思われる方へと。歩き出すのであった。




