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おとぎ世界のアリス  作者: 志帆梨
60/70

鏡の道の途中にて


雪の女王様の宮殿にあった、反射して鏡状態の氷の壁を通り抜け。私と帽子屋は虹色の光がキラキラと反射する空間を歩いていた。

いつもは、あまりゆっくりとこの中を歩く事は無いので。じっくりと観察する事が出来たのは新鮮だ。

とはいっても、いつも帽子屋達と居る暗闇の空間の明るくキラキラしているバージョンみたいなもので。眩い景色に新鮮さを感じるだけだ。

私は自分の少し前を歩く帽子屋へ視線を上げる。

彼は先程から、ただ歩みを進め。私に声を掛けて来ない。静かなのは良い事だが、少々不気味だ……。


「ちょっと、“アリス”! 不気味ってヒドイよー!」


あっ、心の声は聞こえてたんだ。


「どうかしたんですか?」


私が尋ねると、彼は。


「ううん、何でも無いよ!」


と、貼り付けた笑顔を向けた。

具体的には何かは分からないが、何となく。いつもより違和感を感じる。


「そんな事無いよ。ボクはいつも通り、君だけのボクだよ!」

「……貴方って、言う事が本当か嘘か良く分からないですよね」

「えー! そう?」


その反応もワザとらしい。


「そんな事ないよー! ボクは、君にはいつも本当の事しか言ってないさ!」

「テキトーな事の間違いでは?」

「そうかな?」


そうだって……まぁ、でも……。


「私に優しくしてくれてるのは、嘘だとは思ってないです……」


言ってから、何だか気恥ずかしくて視線を下げる。

彼が私に何を隠していて、何の目的で何処に向かわせようとしているのか……それはまだ、全く何も分からないが。それでも、困った時には助けてくれるし。自分の事も何も分からない私には、拠り所になっているのには変わりない。


「“アリス”……」


あっ、心の声聞こえてるんだ……どうしよう、また何か――


「大変だ、“アリス”! あの鏡が、どうやら君を次の世界へ呼んでいるようだ!」


そう大仰に言う帽子屋の視線の先には、先程までは無かった大きな楕円形の鏡が出現していた。

すると、彼は私の両手をガシッと掴む。疑問符を浮かべる前に、私の身体は帽子屋が勢いよく身体を回転させた反動で浮き上がる。

激しく揺らされ、動かされ。私は悲鳴を上げていた。


「行ってらっしゃーい!」


目を回す私の事などお構いなしに、明るい声と共に帽子屋は私の両手を離す。

私の身体は、軽々と吹き飛ばされて鏡をスルリと通り過ぎて行った。

……少し見直したというか、信頼できるという事を伝えたつもりなのに……私は以前と同じように、帽子屋へと怒りの気持ちを沸かせるのであった。



 ***



「嬉しかったよ、“アリス”……」


彼女が抜けて行った鏡を見つめながら、帽子屋が優し気な笑みを浮かべて呟いた。彼女に、決して届かないように。


「――そんなに、あの娘と私を会わせたくなかった?」


すると、ねっとりとした声が。帽子屋に向かって掛かった。


「いやぁ、そういうワケじゃ、無いんだよ?」


彼は、いつの間にか現れていた青虫へと顔を向ける。


「まぁ、もう。一回会ったけど」


アリスと出会った時のように、青虫は水煙管を咥え。煙を吐き出す。


「でも、まだ。君と会うのは、早いかなぁ~って、ボクは思うワケで……」


再び、青虫は煙を吐き出した。


「その感じじゃ、一生会わせてくれなそう」

「いやいや、そんなつもりは無いよ! もう少ししたら、きちんと紹介するさ!」

「そしたら、あの娘に言ってあげようか?」


仮面のように貼り付けた笑顔を浮かべる帽子屋に、青虫は再び水煙管を咥えて煙を吐き出す。


「記憶を抜き取ったのは、貴方だって……ね?」


口元に孤を描きながら告げた青虫の言葉を、帽子屋は先程と変わらぬ笑顔のまま。ただただ黙って、見つめているのであった。

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