雪の女王と“アリス”③
「女王様って、冬を連れて来るって本当ですか?」
なだらかな雪の上をスムーズに滑っていくソリの上で、私は雪の女王様に尋ねた。
口調や態度は淡泊で冷たいが、優しく気遣ってくれる彼女に。私はすっかり警戒心を無くしていたのだ。
「そう、ね……」
どこか、悲し気な色が。女王様の今の言葉に、滲んでいた気がした。
「私は、私の周りのものを。全て凍えさせてしまう呪いを振り撒く存在なの」
「でも、私は今。あんまり寒くないですよ」
つい今、女王様の言葉を聞いて気が付いたが。
「それは貴女が寝ている間に、私が寒さを感じない魔法を掛けているだけ。あまり長くその状態でいると、死んでしまうわ」
「そうだったんですね……」
女王様はそんな事まで出来るのか。
「ありがとうございます」
と、私は言った。
「……冬なんて、嫌よね」
「えっ?」
雪の女王様とは思えない言葉が、聞こえた気がした。
「寒くて、冷たくて。人間は、冬の空の下にずっと居続けていたら。簡単に、死んでいってしまうわ」
淡々と、だが憂いの気持ちが垣間見える言葉だった。
「長い間ずっと……人間達や動物達が過ごす冬を見てきたわ。幸せそうな人達よりも、食べ物に困っていたり。寒さに震えていたり、そのせいで死んでいく人や動物を見る事の方が、ずっと多かった」
感情のこもっていない声は、悲しい言葉を綺麗に綴る。
「昔、貴女と同じくらいの少女が。年明けの朝、亡くなっているを見たわ」
彼女は変わらぬ口調で続けた。
「その子の事、何も知らないから分からないけど。屋根や壁のある家や建物でも入って寒さを少しでも凌げば良かったのに、売っていたマッチで暖を取っていたのか。足元にマッチの燃え殻が散らばっていた」
ただ事実を告げているだけで、抑揚の全く無い声。なのに、どうしてこんなに胸が締め付けられるのだろう。
「冬なんてなければ、そのマッチ売りの少女は死ななかったのに……冬なんて、嫌いだわ」
“雪の女王”であるが彼女が……冬をつかさどる彼女が言うと、なんと悲しく響く台詞なのだろう。
「その子の死は、女王様のせいじゃないですよ……」
女王様が殺した訳では無い。でも……。
「……そんな風に、思えないですよね」
不幸な事故……そう割り切れれば、きっとどんなに楽なんだろう……。
「自分の目の前で、人が亡くなって……気にしないなんて、出来ないですよね……」
私は人魚姫さんの事を思い起こす。
髪に飾ったリボンが、少し重みを増したように感じた。
「貴女も、誰かの“死”を見たの?」
「……はい」
私は、友人になった人魚姫さんの話を女王様へと語った。
女王様は、拙く長い私の話を。私へと視線を送ってくれたまま、黙って聞いてくれていた。
「私、人魚姫さんに……何にも出来なかったんです……友達だったのに……」
すると、ヒンヤリとした感触が頭部に訪れる。
見上げると、女王様が私の頭に白く細い手で触れていたのだ。
「ごめんなさい、冷たかった?」
私が顔を上げると、女王様は私の頭から手を放す。
「いいえ……」
私は顔を少し綻ばせて、首を振った。
「温かかったです」
そう言うと、少しだけ。女王様が微笑んでくれた……そんな気がした。




