表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おとぎ世界のアリス  作者: 志帆梨
54/70

雪の女王と“アリス”②


――“アリス”! 何処?


声が聞こえた。


――何処に居るの? “アリス”!


帽子屋の、声だ。


――ボクの大切な、ボクの“アリス”……。


そして、いつもの能天気そうな様子と違って悲し気な声だ。私は此処にいるというのに、どうして彼は私を探しているのだろう?


――“アリス”……ねえ、“アリス”……。


そんな声出さないで、私は。此処に、傍に居るんだから。

そう心に思いながら、私は声が聞こえる方へと手を伸ばした。視界に、自身の小さな掌が入る。そのまま伸ばせば、姿は確認出来ずとも彼に届く気がしていた。

何の疑いも無く、何の迷いも無く。

だが、その手は届かなかった。私の指先に、何かが当たる。それは、良く姿を確認する事が出来なかったが、壁のように私の前に立ちはだかっていたのだ。

今度は両手を伸ばす。しかし、掌は再び見えない壁に阻まれる。


――“アリス”……。


帽子屋の悲し気に呟くような声が、聞こえて来る。

私は此処だよ、此処に居るよ……と、私は心の中で叫ぶ。しかし、それは声に出す事は叶わず。決して、彼へと届く事は無かった。



 ***



「――目が、覚めた?」


冷たく、凛とした声が私に掛かる。


「……此処は」


私は辺りを見回した。

身体を寄りかからせていた方へと顔を上げると、すぐ上に。先程見た、美しく白い女性の双眸と交わる。


「あっ、すみません!」


私は慌てて、自分の身体を寄りかからせていた女性から身体を離す。


「大丈夫よ」


女性は冷静な声で言う。


「とっても寒そうだったから、凍死しないか心配だったけど。無事に目を覚まして良かったわ」


その口調は、先程と変わらず冷静で淡泊だった。なのに、言われた台詞はとても温かく優しいものだった。


「……ありがとう、ございます」


私はそう告げてから、辺りを見回してみる。

自分が今居るのは、湖で見た白いソリの上であった。


「あのまま、あそこで寝てたら。それこそ、凍え死んでしまうと思って。勝手に私のソリに乗せさせて貰ったわ」

「助けて下さったんですね……重ねて、ありがとうございます」


湖で寝てしまった私を、わざわざソリに乗せて運んでくれたのか……ありがたくも、申し訳ない。


「貴女の家は何処? 街の傍までだったら送って行くわ」


無機質に尋ねる女性。多分、これが彼女のデフォルトの話し方なのだろう。


「家は分からなくて……私、迷子なんです」


私がそう言うと、女性は無表情で私へ視線を向けた。


「なら、私の所に来る?」


唐突に尋ねられた質問に、私は驚愕の表情を向けてしまう。


「でも、いきなりそんな……」

「大きな宮殿で、私はいつも一人なの。滞在してる間、話相手になってくれたら……嬉しいわ」


彼女の口調は相変わらず、冷たく感情の色を感じさせない。

だが、その言葉に偽りがあるようには全く感じられなかった。


「……意外です。そんなふうに言って頂けるなんて」

「宮殿でも一人だし、外に出ても誰かと言葉を交わす事なんて滅多になくて退屈なの」


なるほど……感情は読み取りずらく、冷たい印象を抱いてしまうが。凄く優しい人だなぁ。


「私で良ければ……お話相手くらいにしか、なりませんが」


私がそう告げると、彼女は眉も表情もピクリとも動かさず。


「嬉しいわ。ありがとう」


と、再び無機質に返した。


「そういえば、貴女は一体……」

「さっき、私の事。呼んでいたじゃない」


さっき……あっ! でも、アレは。ついさっき、白鳥さんから聞いた話の人物を思い出しただけなのだが……。


「“雪の女王”」


出来過ぎの偶然を、私は彼女の淡々とした口調から目の当たりにする。


「人は私の事を、そう呼ぶわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ