灰かぶりと“アリス”④
「あ、起こしちゃった?」
窓から差し込む太陽の光が顔を照らして、私が目を開けるのを憚らせる。
「私は今から、お義母様とお義姉様達の朝食を作ったり。色々お仕事があるんだけど。アリスちゃんは、まだ寝てて大丈夫だからね」
エラさんは優しい声でそう言うと、屋根裏部屋を後にする。
「……寒い」
エラさんと身を寄せ合っていた為、彼女の温もりで和らいでいた隙間風による寒気が。私をさらにベットから身を起こす事を阻む。
エラさんは毎日、この朝をあの輝かしい笑顔できちんと起床しているのか……本当に偉いなあ……。
「ねえ、コレは使えるかな?」
「大丈夫じゃない?」
「あっ、でも。あと、アレも欲しいね……」
就寝用の布に包まり、どのタイミングで起床をしようか決めあぐねていると。どこからか声が聞こえて来る。
「舞踏会までに間に合うかな……」
「やるって決めたんだから間に合わせるの!」
私は布に包まったまま、ベットを降り。耳を澄ませ、小さな話声の発信元を探す。
「エラ、喜んでくれるかな……」
段々、聞き取りやすくなってきた方へと静かに近づく。
「きっと大丈夫だよ!」
私は壁へと突き当たった。壁へと耳を付けて聳てるが、好感触は得られない。
不思議に思っていると、その声はずっと下の方からしているのだと気がついた。
「僕達は、綺麗な……」
顔を壁の下の方へとずらしていくと、声の人物達と視線が交わる。
壁が割れて出来た隙間に、小さなトンネルが出来ており。彼等はそこに居たのだ。
「綺麗な……何?」
私がそう尋ねると、小さな彼等――三匹のネズミ達は、飛び上がって驚いた。
「みっ、見つかったー!!」
「に、逃げなきゃっ!!」
「殺されるー!!」
「ちょっと、待って!」
小さくて暗い穴の奥地へと駆け出そうとしたネズミ達に、私は慌てて声を掛ける。
「さっき、エラさんを喜ばせる……って、話してたよね?」
私の言葉に、三匹のネズミ達は足を止めて視線を向けた。
「私も、エラさんを喜ばせられる事……したくって……」
もし、良かったら……と、言葉を繋ぐ。
「私も、協力させてくれないかな? 貴方達がやろうとしてる事」
そう言うと、ネズミ達は一度顔を見合わせた。
「どうする?」
「どうしよう……」
顔を寄せ合って、小声で相談を始める。
「でも、舞踏会まで時間がないし……」
「手伝って貰った方が間に合うかも……」
「そうだね! エラと仲良しな女の子だしね!」
聞き耳をこっそり立てていると、どうやら話は纏まったらしい。
彼等はちょこちょこと壁の穴から姿を現した。
「お手伝い、お願いします」
一匹のネズミがペコリとお辞儀をしながら言うと、他の二匹のネズミもお辞儀をしながら「お願いします」と声を揃える。
「こちらこそ……」
床に膝を付いた状態で、私も深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします」
***
ネズミ達の計画は、エラさんにドレスを作ってあげて舞踏会へ行けるようにしよう! というものであった。
「一から作るの?」
布から服を作るのだろうか……自分の事も何も分からないのだから、当然そんな物の作り方等分からないが……。
「流石にそれは……」
一匹のネズミが言う。
「下のバカ義姉が、引っ掛けてスカート破いちゃったドレスと」
「上のブス義姉が、箪笥の肥やしにしてる洋服やアクセサリーを使って補修リメイクしようかと思ってて!」
「うん……最初にさらっと言った、“バカ”と“ブス”って単語が凄く気になったけど。とりあえず、分かった」
小さくて可愛らしい姿の小動物に、そんな辛辣な言葉を吐かれるとは……そんなに酷いお義姉さん達なんだ……。
「あ、ドレスを作る事は、エラには内緒ね!」
「どうして?」
「びっくりさせて、喜んで貰おうと思って!」
「いつも、ご飯の残りを分けてくれるお礼がしたいんだ!」
悪戯っぽく、三匹は笑顔を溢す。
「エラさん……きっと、喜んでくれるよ」
綺麗なエラさんが、素敵なドレスを着て。喜びの笑顔を咲かせてくれたら……きっと、とっても美しいんだろうな……。
「皆で、一緒に頑張ろうね!」
私が言うと、三匹は「おおー!」と声を揃えてくれた。
少し、ワクワクとした気持ちが私の中に生まれ。この計画の成り行きと、待っているであろう嬉しい結果への期待に胸を膨らませるのであった。