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おとぎ世界のアリス  作者: 志帆梨
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人魚姫と“アリス”⑦


朝食を頂いた私は、お出かけをする人魚姫さんの支度を手伝って二人を見送ってから。再びお城での簡単な仕事の手伝いをさせて頂いた。

昨日やらせて頂いた事が殆どだった為、まだ慣れきってはいないがそんなに難しくもなかった。


「アリスちゃん、大分野菜切るの上手になったね!」


料理長のおじさんが、じゃが芋を切る私の手元を覗きながら言って下さる。


「いえ、全然……皆さんが切ってるのに比べると……」


全然綺麗に切れてるとは言い難い。


「そんな小さいのに、包丁を扱えてるだけで凄いんだ。自信を持って大丈夫だよ」

「それに、長年かけて修行した技術を小さな女の子が一日で出来るようになっちゃったら俺らの方が自信喪失しちゃうしね!」

「いいから、お前等は喋ってないで早く仕込み終わらせろ!」

「ちょっ、料理長ズルいですって! アリスちゃんに手伝って貰いながら!」


と、仕事中にも関わらず。楽しい一時に混ぜて頂いてから、私は夕飯を再び王子様と人魚姫さんとご一緒させて頂く事となる。


「街の散策はどうでしたか?」


私が尋ねる。二人の仲が進展したかどうか……気になる所だ。


「とっても楽しかったよ。彼女も、初めて見る物が沢山だったみたいで」


そう笑みを浮かべる王子様に、人魚姫さんはグラタンを口に入れた状態で「うんうん」と頷いた。


「馬車も、噴水も、店も果物や家や花や木も。何でも楽しそうに見たり触ったり、僕まで何だか新鮮で楽しかったよ」


王子様は人魚姫さんへ笑顔を向け、二人は笑みを交わし合う。

どうやら、二人でのお出掛けはお互いに好感触だったらしく。成功とみて良さそうだ。

熱く優しい視線を、うっとりと王子様に向ける人魚姫さんの嬉しそうな横顔に。私も胸の中に喜びを溢れさせるのであった。



  ***



「今日は、楽しかったみたいで良かったです」


私は人魚姫さんに貸された部屋のベットで、彼女の髪をブラシで梳かしながらそう言った。すると、彼女は笑顔で「うんっ」と頷く。

この調子で、王子様と仲良くなっていって欲しいな……。

そんな事を考えていると、人魚姫さんが後ろに立っていた私を振り返った。

どうしたの? と、私は視線で尋ねる。別に、私が声を出さない必要はないのだが。何となく、そうしてしまった。

すると、彼女は私の手にあるヘアブラシを指さす。


「コレですか?」


私がそう言うと、嬉しそうに二度ほど頷く人魚姫さん。


「はい、どうぞ」


柄の部分を彼女に向ける。

人魚姫さんは嬉しそうに受け取ると、私の後ろへと回り。私の髪を梳かし始める。

やってみたかったのだろうか?

人魚姫さんは、痛くしないように優しく梳かし。ゆっくり何度も、私の髪にブラシを通す。その優しい手つきが、とても心地良くて……私は人魚姫さんがするがままに、任せるのであった。

暫くしてから、彼女の手が止まる。そして、梳かすのとは別の形で私の髪を弄り始めた。

また暫く経ってから、彼女に肩を叩かれる。

笑みを浮かべながら、人魚姫さんは部屋にあった鏡を指す。彼女の指示に従い、私はベットから立ち上がり鏡を覗き込んだ。

流したままの髪が、ハーフアップで後頭部で結われていた。少し、顔を横に向けると。私の髪に飾られる、夜色のリボンがチラリと覗いていたのだ。


「これ……」


人魚姫さんは私に両の掌を「どうぞ」と向ける。


「私に、ですか?」


そう尋ねると、彼女は二回ほど大きく頷く。


「こんな素敵なの……も、貰えないです……」


私、人魚姫さんにプレゼントを貰うような事。何もしてないし……。

そう言って、そう思っていると。人魚姫さんは、悲しそうな色を瞳に浮かべた。

うぅ……気持ちは、嬉しいけど……でも、こんな素敵なプレゼント、私なんかには勿体ない……。

そう思ってから再び人魚姫さんを見た。彼女の瞳は、先程と同じように悲しそうに揺れ。表情も不安そうであった。


「……本当に、私が貰っちゃって良いんですか?」


私の言葉に、彼女はパァっと顔を輝かせ。再び数度頷く。


「じゃあ、お言葉に甘えて……ありがとうございます。すっごく可愛いです」


私には勿体ない程に……。

その後、私と人魚姫さんは少し笑顔や気持ちを交わし合ってから就寝した。

私は貸して頂いている自分の部屋へ戻ろうとしたが、人魚姫さんが「行かないで」と服の裾を握ったので。そのまま、彼女の部屋で一緒のベットに入れて貰った。

一人であの大きな部屋とベットは落ち着かないし、私的にも有り難かった。

その夜、私は久しぶりにきちんと眠る事が出来た。しかし、夢の中で帽子屋に会う事はなかった。

その代わりに、ずっと人魚姫さんの歌声を聞きながら。私は自分の瞼が閉じられているのか、それとも開いても何も見えない程の真っ暗な暗闇の中を漂っているのか……どこか呼んでいるような歌声に、私は出口を探す。でも、見つける事は叶わず。私は夢の中で、そこに漂ったまま。朝を迎えるのだった。

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