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おとぎ世界のアリス  作者: 志帆梨
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操り人形と“アリス”⑯


私とピノキオ、そしてコオロギの幽霊は操縦室へと走って行く。

到着、突入を果たすと。そこには、一匹のロバの姿があった。


「アレ、最後の人かな?」

「多分ね……」

『無事、ロバになってはおりますが……』


操縦室に男が一人居た……つまり、彼は今、私達が乗っている船の操縦をしていたのだ。


「これからの舵どうしよう……」


ピノキオがロバの首に縄を掛け、その辺の取っ手に繋いでいる傍ら。私は暗い表情で呟く。


「ぼく運転してみたいー!」

「ピノキオ、運転の仕方なんて分からないでしょ」

『それに、方角もね』


舵に触ろうとするピノキオに、私とコオロギは制止を掛ける。


『そうだ! もしかしたら、別の船が通りかかるかもしれない!』

「そしたら、助けて貰えるかも」


コオロギの提案に、私が返す。


「それだー!」


ピノキオが歓喜の声を上げる。

私達は、再び駆け出し。甲板へとやって来る。


「船が通りかかったら大声で……」


その時、船内が大きく揺れた。バランスを崩し、慌てて私とピノキオは手摺に掴まる。


「何!?」

「津波?」


疑問を浮かべていると、再び大きく揺れ出す船内。

手摺から、私は海面を覗き込む。すると、船の下には何か大きな影が見えた。しかし、それは直ぐに見えなくなり空の色を映した青が、船が揺れる度に白い波を立たせている。


「ねえ、アリス……」


私が海面に、未だ目を凝らしていると。震えた声で、ピノキオが私を呼んだ。


『あのぅ……アリスさん……』


コオロギも、私の名を呼ぶ。

アレ? なんか、そういえば、さっきより空が暗くなったような……。

私は陰った方へと振り返る。

――そこには、大きな口を開いた巨大なサメの姿があった。

刹那、私とピノキオとコオロギの悲鳴が重なり合う。

……これは、さすがに……無理だ……。

絶望感が胸を占める中、私達は船ごとサメの巨大な口の中へと吸い込まれて行くのであった。


「アリス……大丈夫?」

「……凄い……私達、まだ生きてるんだ」


船ごと飲み込まれた私達は、口を閉じて真っ暗になったサメの口内で取り敢えず一旦無事な事に安堵する。だが、それも時間の問題だろう。

しかし、中型の船を丸ごと飲み込んでしまうなんて……もうサメというより巨大な怪物だ。


「どうしよう……」

「とにかく、此処から脱出を……」


と、辺りを見回すと。サメの中の奥で、仄かな光を発見する。


「アレは……」

『もしかしたら、私達と同じように飲み込まれた方がいらっしゃるのかも!』


コオロギの言葉に私達はすぐさま、明かりに向かって大声で叫ぶ。

本当は、自分達で明かりの方まで近づいて。その存在を確認したいところであったが。生憎、船を動かせる者はこの場に居なかった。


「おーい!」

「誰か居ませんかー!」


私とピノキオが必死で叫ぶ。


『私、どなたかいらっしゃるか見て参ります!』


コオロギが光に向かって飛んでいく背中に、私は「お願いします!」と声を掛ける。

再び声を掛け続けると、明かりが段々と近づいて来るように感じた。


『アリスさーん! ピノキオー!』


すると、コオロギが帰って来る。


『驚きの方が、居られました!!」


興奮した様子で告げるコオロギ。私とピノキオは「驚きの方?」と、二人揃って首を傾げた。


「おーい!」


その時、下の方から声が掛かる。


「アレ、この声……」


その声は、私とピノキオにとってとても聞き覚えのある声。


「お父さん!」


小船を木の板で出来たオールで漕ぎ、ジェペットさんが私達の船の側までやって来る。

すぐさま船内にあった縄梯子で、ジェペットさんを私達の居る船へと引き上げた。


「いやぁ、二人共、無事で良かった……」

「ごめんね、お父さん……」

「でも、なんでジェペットさんがサメの中に?」


ピノキオを抱きしめていたジェペットさんに、私が尋ねる。


「町を探し回っておったら、子供が二人。港へと歩いて行ったのを見たと言う人がいてのう。一度、帰ってアリスちゃんに報告をしようと思ったんじゃが……」


……家に帰ったら私も居なかった、と。


「それで、とりあえず。ピノキオの方の手掛かりを求めて、海に出たんじゃが……港から大分離れた所まで来たら、こやつに飲み込まれてしまったんじゃ……」


という訳だったらしい。


「お父さん、寄り道しちゃって本当にごめんなさい……」

「私も、勝手に居なくなってしまい本当にすみませんでした……」


私とピノキオは二人で頭を下げた。


「良いんじゃよ」


すると、温かく大きな掌が私の頭と。ピノキオの頭に優しく触れる。


「二人が無事で、本当に良かった」


心の底からそう言ってくれているのを感じ取り、私の胸には嬉しさが広がった。


「ありがとう、お父さん!」


ピノキオは喜びのあまり、ジェペットさんへと抱き着く。


「ところで、その……」


ジェペットさんは「ピノキオや」と、声を掛ける。


「元気そうだから良いんじゃが、その耳と尻尾はどうしたんじゃ?」


不思議そうな表情で尋ねるジェペットさん。


「「あっ」」


すっかり忘れてしまっていた。

私とピノキオは、自分達が今までに体験した出来事をジェペットさんに説明する。


「……それは、大変じゃったのう。本当に、無事で良かった」


私とピノキオは、なかなかの冒険をしたなあ……殆ど、幸運が味方してくれたおかげで無事で良かったあ……。


「アリスが助けに来てくれたから!」


ピノキオが笑顔を向けながら、私に言う。


「アリスが来てくれなかったら、ぼくロバになっちゃって、もうお父さんに会えなかったかも……」

「それはそれは……アリスちゃん、本当にありがとう」

「いえ……そんな……」


どんな顔をしたら良いのか分からず、私は下を向いた。


「とっ、とりあえず、またこの状況の打開策を考えないと……」


サメの中から早く脱出出来なければ、その内、サメの栄養にされてしまうか。良くて、此処にて餓死だろう。


「じゃが、一体どうすれば……」

「アリス! 何か良い方法無い?」


ピノキオが私を見ながら尋ねる。


「これ、ピノキオ……」

「だってね、お父さん! アリスすごいんだよ! アリスのアイデアで、悪い人達を皆ロバにして倒しちゃったんだよ!」

「アレは、運が良かっただけなんだって……」


気まずい表情で私が言う。


「それは凄いのう、アリスちゃん」


じゃがのう……と、ジェペットさんはピノキオを振り返る。


「アリスちゃんにばかり頼っておってはいかんぞ。ワシもお前も、どうするか考えんと」

「えー、でも。アリスみたいに出来るかな?」

「同じように出来る必要は無い。ピノキオは、ピノキオらしく。自分なりに頑張れは良いんじゃよ」


ジェペットさんの優しい言葉に、ピノキオは「ぼくらしく、ぼくなりに……」と呟いた。


「うん! ぼくも考えてみる!」


そして、明るい表情で言うのであった。


「アリス! 今度は、ぼくが助けるからね!」

「うん……ありがとう」


ピノキオの言葉に、私は自然と顔を綻ばせながらお礼を述べる。


「――あのぅ、すみません」


すると、何処からか声が掛かってきた。その声は、ピノキオでもジェペットさんのでもなければ、コオロギの声でも無かった。


「ちょっと、よろしいでしょうか?」


またまた聞こえて来る声。どうやら、下の方から発せられているらしい。

私、ピノキオ、ジェペットさん、ついでにコオロギの幽霊は。船の手摺から海面を覗き込む。


「あっ、ここでーす!」


見るとそこには、鉛色の体躯をした一匹の大きな魚が海面から顔を出していた。


「みなさーん! おぉーい!」


パシャパシャと海水を叩きながら、魚は陽気に私達へと声を掛ける。


「あの、何か御用で?」


少々警戒しながら、私が尋ねる。


「はい! 実は、此処から出るのに。ご協力をお願いしたくて……」


おっと、これは意外なところから光明が。


「貴方も、此処から脱出を?」

「はい! 昨日、群れで泳いでいましたら私だけ逃げそびれてパクっと飲み込まれてしまって……」


それは、何とも切ない話だ……。


「君、泳ぐの遅いんだね!」


ピノキオが無邪気な声で言う。


「失敬な! これでも私めはマグロ! 泳ぎには自信があります!」


あっ、マグロなんだ。


「じゃあ、何でパクっと飲まれちゃったんですか?」


私が尋ねると、マグロは「それはですね」と言葉を続ける。


「その日は、ちょっと食中しょくあたりを起こしてしまい……」


何を食べたんだろうか……。


「でも、どうやって此処から脱出をするんですか?」

「はい! 私めが、サメの喉に体当たりを致します」


何とも、意外で乱暴な作戦だ。


「すると、サメはきっと咳を始めて私達を吐き出す事でしょう!」


まあ、確かに。


「ただ……喉に体当たりした勢いで、そのまま胃袋に流れ込んでしまっては困るので。私の身体と、この船を縄か何かで繋いでおいて頂きたいのと。サメが息を吸った際、再び引き戻されないよう船を全速力で進めて頂きたいのです!」


成程、そうすれば。マグロも、サメの内部に引っ張られたとしても。私達の船と一緒に、サメの体の外に出れるという訳か。

……だが。


「実は、私達。船の運転が……」

「アリスちゃん、それならワシに任せなさい」


ジェペットさんが、私の肩に手を添えて言う。


「昔、少し乗っておってのう。扱い方ならまだ覚えておるよ」

「わーい! お父さん、スゴイー!」

「ありがとうございます、ジェペットさん」


これは、何とかなるかもしれない。


「ピノキオ、船にあるありったけのロープ取ってこよう」

「うん!」


私とピノキオは、船内へと駆けて行くのであった。

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