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おとぎ世界のアリス  作者: 志帆梨
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操り人形と“アリス”⑮


「今回もまた、上手く行ったなあ!」


夜が明け、日が昇った頃。船内にて、麦酒の入ったジョッキを片手に太った小男が言う。


「ああ、バカなガキ共連れて来て。遊ばせてロバにして、あとは出荷するだけ」


大柄な男が、下品な笑い声を豪快に響かせながら酒を飲む。


「なんつー楽な仕事だよ!」

「その割には、金はたんまりだしな!」


その場に居たもう二人の男達もそう続けて、テーブルに所狭しと置かれていた料理を貪る。


「にしても、もうやる事がねーなぁ!」

「ああ、街に着くまで船の中だからな」

「まあ、ゆっくりとしようぜ」

「あと一時間もすりゃ、街の港に到着するしな」


そう言って笑ってから、男達は再びジョッキを傾けた。


「――オイっ、大変だ!!」


すると、バタバタと慌ただしい足音を響かせ。乱暴に部屋のドアを開けて、一人の男が入って来る。


「見てくれ、ジミーが……」


彼の傍から、子供達のロバより大きなロバが悲し気な表情で顔を出す。


「大人のロバ……だと?」

「ジミーがロバになっちまったんだ!!」


駆け込んできた男の言葉に、その場にいた全員が驚愕に表情を歪める。


「そいつが、ジミー……なのか……」


先程までのお気楽な空気を一変させ、彼等は顔を青くした。


「オイ、お前ら……」


すると、ドアの前で佇んでいた男が。室内にいる男達を唖然と指差した。


「その耳……」


彼に言われ、男達は自分の耳元へと触れる。そして、いつもとは違う動物の毛を感じ取った。

恐る恐る、部屋に備え付けられていた鏡へと視線を向ける。そこに映ったのは、自分達の頭から長いフサフサのロバの耳が生えた姿であった。


「どうして!?」

「俺達の飯は安全なハズだろ!?」

「間違えたのか!?」

「どうすんだよ!!」


慌てふためく男達。しかし、その姿はどんどんと四足歩行のロバへと変貌を遂げていく。

遂に、ジミーと同じ完全なロバの姿になってしまった四人の男達を茫然と見てめていた男であったが。


「……まさか」


不安を過らせ、自身の耳へと手を触れる。

違和感は、あった。


「そんな、嘘だ……」


耳から離した手へと視線を落とす男。慌てて彼も鏡の前へとやって来る。映ったのは、頭からロバの耳が生えた自分の姿だった。


「わぁぁぁあああああ!!!!」


彼の悲鳴が轟いた。その時。

後方で扉の閉まる音と。ガチャリと鍵が掛かる音が、聞こえてくるのであった。



 ***



「やったね! アリス!」


ピノキオが両手を上げて、ジャンプをしながら喜んだ。


「まだ油断出来ない。ピノキオ、扉を封鎖する何か持ってきて」


なるべく大きくて重い物をお願い……と、私が言うと。ピノキオは「分かった!」と駆けて行く。


『上手くいって良かったですね、アリスさん!』

「本当に……」


ロバにされた男達が、扉に体当たりしているようで。扉に預ける背中から振動が伝わってくる。

いくら外から鍵を掛けているとはいえ、脱出をされてしまっては勝ち目は薄い。ロバとはいえ、彼等は私達よりは大きな体躯なのだ。


「港に到着するまで、此処から出さないようにしないと……」

『しかし、アリスさん。最初、この作戦にかなり不安を抱かれていたようですが……何がそんなに不安だったのですか?』


と、尋ねて来るコオロギ。


「いや、だって……不確定な要素が多すぎましたから」


私達の作戦、行動はこうだった。

ロバにされた子供達を積み終えてから、出航する前に男達の食べ物を「おもちゃの国」で子供達に食べさせていたロバ化する物とすり替える。

……因みに、本来は彼等が食べる筈だった物は私とピノキオで頂かせて貰った。昼から何も食べていなかったので空腹だったのだ……本当だったら、ジェペットさんと一緒に作ったご馳走を食べる予定だったのに……。

話が脱線してしまったが、すり替えを終えたら私とピノキオは荷物に身を隠す等して船内に潜入し、男達に姿を確認されない幽霊のコオロギに情報を提供して貰いながら様子を伺い。男達がロバ化した所を襲い、船自体を乗っ取る……というものであった。


「でも、まず男達が積み終えてから油断して就寝するかどうかも分からなかったので……奴等が油断しないで、交代で見張りをしていたとしたら。その時点で、この作戦は不可能です」


そして……。


「食べ物のすり替えも、発見されるリスクが大きかったです。何とか、見つからずに出来たのは運が良かったという他は……」

『運も実力の内ですよ、アリスさん!』

「いえ……本当に、この作戦は全部運が良かったから何とかなったと言っても過言じゃありません」


そう、もう一つ。大きな不安要素があったのだ。


「『おもちゃの国』での食べ物が、大人にもロバ化の効力を発揮するのかどうか……確信が無くって」


もしかすると、大人には効かない可能性もあった。


「でも……」


私は深い溜息を一度吐き出す。


「全部、何とかなって良かった……」


私がそう言うと、コオロギは『よしよし』と私の頭に軽く触れるような仕草をしてくれた。


「アリスー! 持ってきたよー!」


すると、ピノキオが大きめの椅子を引き摺りながらやって来る。

扉は外側に開く様式なので、この椅子でバリケードを作ってしまえばロバの彼等はそう簡単に開ける事は出来ないはずだ。

まあ、念の為。椅子を扉の前に設置してから、私も部屋の前を離れ。他にも障害物を置いておく。


「こんだけ置けば、流石に出られないはず」


殆ど扉が見えなくなるほど物を置き終えてから、私が言う。


『ちょっと、やりすぎでは?』

「積み木みたいで楽しかったね、アリス!」


唖然と呟くコオロギと、楽しそうに言うピノキオ。


「まあ、用心に越した事は無いって事で」


そういえば……と、私はコオロギへと顔を向ける。


「部屋に閉じ込めたのは、元々居た四人と二人。昨晩『おもちゃの国』で見た男が四人に、船で積み作業をしていたのが三人だから……」


私はサッと顔を青ざめさせた。


「……一人、足りない」


これはマズい……。


「ど、どうしようアリス!!」


あわあわと慌てる私とピノキオ。


『落ち着いて下さい、二人共!』


私達にコオロギが声を掛ける。


『最後の一人は、操縦室におります! そして、私は彼が料理を食べている所も目撃しておりますので。遅かれ早かれロバになるでしょう』


それは良かっ……ん? 操縦室、って……。


「あっ……」


私はそこで、重要で最悪な見落としをしていた事に気が付いたのであった。

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