操り人形と“アリス”⑧
「いいなー!! ボクも、“アリス”の作ったご飯食べたーい!」
あー、もうー……。
「やっぱり今夜も冷たーい!」
彼は今夜も変わらず、ハイテンションだ。
「そりゃあ、君と今日も会う事が出来たからね!」
「……そうですか」
「そんな素敵な日なのだから! 早速、お茶会を開こうー!」
言った傍から、出現するテーブルと椅子とティーセット。勿論、まぬけな顔をした茶色いウサギと、眠っているヤマネのぬいぐるみも一緒だ。
「本日はセイロンティーに、おやつはザッハトルテだよ!」
「ザッハトルテ?」
聞いた事無い名前のお菓子だ。
「とーっても美味しいよ! 是非食べてみて!」
まあ、「百聞は一見に如かず」っていうしね。私は早々に椅子に着席して預く事とする。
私も大分、慣れてきたなあ……。
「それだけ、ボクの存在が君の――」
「紅茶お願いしまーす」
彼にも、何だかんだ慣れてきた気がする。
帽子屋が淹れてくれた温かな紅茶が、少し苦みを帯びた香りで私の鼻腔を刺激した。
「美味しい……」
しかし……これは夢の世界の食事だよね?
何で、こんなに味をしっかり感じる事が出来るのやら……。
「もしかしたら“夢”だと思っている“今”が現実で、“起きてる”と思ってる時が“夢”かもしれないよ?」
「まあ、そうかもしれないですね……」
結局、全然良く分からないが。
まあ、特に何か問題があるわけでもないし。あんまり深く考えるのは良そう。
「そうそう! 今は、ボクと二人きりの時間を楽しもう!」
私は目の前に置かれた「ザッハトルテ」という、チョコレートケーキのような形状のお菓子へフォークを差し込んだ。
「ねえ、無視なの“アリス”!?」
「あっ、これ美味しい」
「ねえ、“アリス”?!」
この前のチョコレートケーキとは、また違った味わいと触感。そして、私の口の中に濃厚なビタースイーツが広がった。
「心の中でまで無視しないで~!」
「そんな事より」
「そんな事?!」
「なんで貴方は、私に何も教えてくれないんですか?」
妙に重い空気が、この真っ暗な空間を包んだ。
だが、帽子屋は静かにいつもの笑みを浮かべていた。そしてティーカップを手に取り、口元へと傾ける。
この先、どう言葉を続けて先に進むべきか……私は思考を巡らせる。選択肢を間違えたら、もしかすると――
「ボクが大好きな“アリス”を、傷つけるような事をしたりなんかしないよ」
ティーカップを口から離し、ニッコリと彼は言う。
「ボクが教えないのは、“教える事”に意味が無いからだよ」
「それって、どういう事?」
「見つけてみて」
「えっ?」
笑みを浮かべて細められ、その瞳を垣間見る事も出来ないのに。彼の視線は私を確実に捕らえる。
「君が進み続ければ、きっと君が欲しい答えに辿りつけるかもしれない」
「私が知りたい事は、私自身で見つけるべき……と?」
「そう、固い話じゃあなくてね」
笑いながら、帽子屋は続けた。
「“宝探し”は、探している過程が一番楽しいって事だよ!」




