表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おとぎ世界のアリス  作者: 志帆梨
25/70

操り人形と“アリス”⑤


目を覚ました私は、少しボーっとする頭で帽子屋が言っていた事を思い起こす。

お礼って、何をするつもりなんだろう……まあ、エラさんの時には大分助けてくれたから変な事はしないと思うけど……。


「やあ、アリスちゃん。おはよう」


ジェペットさんの優しい声が私へと向けられる。

貸して頂いた毛布から、私は顔を覗かせ「おはようございます……」としぼんだ声で返す。大変申し訳が無いが、体を起こすのはあともう数十秒の猶予を頂きたかった。


「もうすぐ、朝ご飯が出来上がるけど。アリスちゃんも食べるかい?」

「あっ、すみません……頂きます……」


自分でも呆れてしまうような寝惚けた声を出してしまい、ジェペットさんの穏やかな笑い声が聞こえてくる。


「無理しなくて良いんじゃよ。ゆっくり、起きなさい」

「わぁー! アリスったら、お寝坊だー!」


すると、元気な笑い声も聞こえてきた。


「おはよう……」

「おはよう! あのねあのね、アリス!」


まだ起き上がれない私に構わず、ピノキオは私の身体を揺らしながら声を掛ける。


「今日こそは学校に行くんだ! だからね、ボク、今日はちゃんと起きたんだよ! えらいでしょ!」

「こら、ピノキオ! 無理に起こしたら可哀そうじゃろ」


はしゃぐピノキオを諫めてくれるジェペットさんに、私は上半身をのそのそと起こしながら「大丈夫です……」と返す。


「そろそろ、起きるつもりだったので……」

「わーい! アリス、おはよう!」


身体を起こした私に、無邪気なピノキオが飛びついて来る。

そして、無事ソファーから離脱する事が出来た私は。朝から元気なピノキオに、傍で跳ね回られながら顔を洗ってジェペットさんが作って下さった朝食を頂かせて貰った。

少々歯ごたえの良いバターロールパンと、焼き立ての目玉焼きが白い湯気を上らせて、テーブルの上で私達に本日最初の活力を与えてくれる。


「学校、楽しみだなー!」


隣で朝食を食べるピノキオが言う。


「じゃが、ピノキオ……教科書が……」


あっ、そうか……昨晩、金貨を追いはぎに取られてしまったので。もう教科書を買い戻す事が出来なくなってしまったんだ。

ジェペットさんが最初に買い与えてくれた教科書は、一枚しかない彼の上着を売って工面してくれたお金。流石にもう……。


「大丈夫!」


だが、暗い表情の私達に構わず。ピノキオは明るい声で続けた。


「ぼくね、学校で“ともだち”をつくるんだ!  それでね、教科書見せてもらうの! それでねそれでね! 見せてもらっている間はいっぱい勉強して、勉強してないときに働いて、教科書のお金、今度はぼくがつくるんだ!」


なんと!? なんて前向きな発想と発見。

彼がコオロギを殺虫してしまった人形と、同一人物とは思えない。


「ごちそうさま! じゃあ、ぼく行くね!」

「これ、ピノキオ。そんなに慌てんでも……」


玄関へと駆け出すピノキオを、ジェペットさんが送り出そうと追いかける。

しかし、二人は玄関を開けた瞬間その場に立ち止まり硬直した。


「どうしたんですか?」


私も手を付けていたパンを一度置き、二人の元へと歩み寄る。


「アリス! アレ、見て!」


ピノキオが差した方には、玄関から見える位置に生える大きな木に。洋服を着たキツネとネコがロープで二人仲良く縛り付けられていたのだ。


「こいつら、昨日。ぼくをだましたやつらだ!」


キツネとネコ……ああ、確かに。

ピノキオが近づくが、二人は顔も上げずピクリとも動かない。不思議に思ったのか、ピノキオがツンツンとつつく。続いて、ジェペットさんも歩み寄った。


「うーん、どうやら眠っているだけのようじゃのう」


鼻眼鏡をクイっと一回上げて言った。


「おや?」


すると、膝を曲げて二匹? 二人? を覗き込んでいたジェペットさんが彼等の足元へと更に体を屈める。


「これは……」


私も傍までやって来て、ジェペットさんの手元を覗き込む。

彼の手には、小さな麻袋と紙片が一枚あった。


「何々……『取られた物をお返しします』」


ジェペットさんが読み上げる。

そして、ジェペットさんは麻袋の中身を覗き込んだ。


「なんと、これは……!!」

「お父さん、どうしたの?」


ピノキオも麻袋を覗き込んだ。続いて、私も顔を覗かせる。

そこには、少しくすんだ黄金色のコインが五枚入っていたのだ。


「あっ! ぼくが取られたお金!」

「やったぞピノキオ! これで、また教科書が買える!」

「ほんとだー! ヤッター!」


ピノキオが取られた金貨が戻ってきた事に、歓喜する二人。

これで心置きなくピノキオが学校に行ける事になったので、私の胸にも安堵と嬉しさが込み上げる。

……しかし、これは一体誰の仕業だろうか?

ピノキオから金貨を奪ったキツネとネコを捕らえて、彼等の家の前に置いていくとは……ふと、私の足元にジェペットさんが持っていた紙片がひらりと落ちる。


ジェペットさんが読み上げてくれた『取られた物をお返しします』という文字は正方形の紙の真ん中に書かれており、その右下に。シルクハットの落書きが記載されていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ