操り人形と“アリス”④
その夜は、ジェペットさんの自宅のソファーで横にならせて頂いた。
「ねえ、酷いよ! “アリス”!」
……出た。
「だから冷たいー!!」
帽子屋が叫ぶ。
ジェペットさんの家で就寝させて頂いた私は、やはり夢の中で彼と再会を果たす。
「元気ですね……」
「君に会える、それだけでボクは最高に幸福だからね!」
そっか……と、私は冷淡に返答。
「ねえ、どうして!? どうして、あの猫と対応が違うの!?」
「いや、どうして猫と張り合うんですか?」
「ボクは君の一番でいたいの!」
「何なんですか、本当に……」
訳の分からない人だな……。
「大体、私は自分の事も分からないんですよ? 貴方の事も、今の私には分からないんですから。思い出さない事には一番とか言われても……」
そう返すと、帽子屋は何故か一瞬。少し悲しそうな色を瞳に見せる。
「あの……」
「いいよーだ!」
どうしたのかと、尋ねたかったが。彼が大きな声を出したので遮られる。
「これから、“アリス”の一番を目指すから!」
「だから、どういう事なんですか……」
もう良いや……疲れるだけだし。
「そういえば、操り人形の坊やとはどう?」
操り人形の坊や……ピノキオの事?
「そう!」
何か、心読まれるのも慣れてきちゃったな……。
「それだけボクの存在が、君の中で当たり前になってきたんだね!」
「ピノキオとはまだ出逢ったばっかりで、良く分からないですけど……仲良くはなれそうですよ」
泊まる宛ての無かった私を、家に泊めてくれる提案もしてくれたし。彼は無知なだけで、優しい心は持っていると思う。
「それは良かった!」
ニッコリと、変わらぬ笑顔を浮かべる帽子屋。
「なら、ボクの“アリス”に親切にしてくれたお礼を。何かしてあげなくちゃね!」
「お礼? 貴方が?」
「うん!」
「いや、親切にして貰ったのは私なので。お礼をするなら、私が……」
「まあまあ、そう言わずに! 明日を楽しみにしていてよ!」
と、言う。何かを目論んだ笑みの帽子屋の顔を最後に、私は夢の中から明るくなった朝へと目を覚ます。




