灰かぶりと“アリス”⑭
「エラ!」
「僕達も!」
「一緒に行くよ!」
ネズミ達も元気良く、前足を上げてくれる。
「皆……」
「さあ、早く行きましょう」
私はエラさんの手を引いて、屋根裏部屋の扉を開けた。
階段を下り、ネズミ達の先導で廊下を覆う赤い絨毯を駆けて行く。
「頼もう!」
ネズミ達に、お城の人達が居ると教えて貰った部屋のドアを開けながら私が大きな声で言う。
「アリス、それ何?」
「分かんないけど、なんか言いたくなった」
頭にふと浮かんだだけで、自分でも良く意味は分からない。
「なっ、なんだい君達は!?」
そんな問答をしていると、室内に居た全員の唖然とした表情が私へと向けられていた。
「ちょっと、突然何なの!?」
「シンデレラ! その子、何!?」
義姉二人が噛みついて来る。
「私の事なんかどうでも良いんです」
「いや、良くは無くない!?」
義姉の一人が言うが、私は気に留めず。エラさんをお城の遣いの方々と思われる薄灰色の髪を顔の両側でカールし。チョコンと鼻の下に髭を生やした男性二人に詰め寄った。
「この人にも、ガラスの靴。試させて下さい」
二人の男性は、一度顔を見合わせるが。
「そっ、それは……」
「もっ、勿論。是非……」
と、未だに戸惑いながらも頷いてくれる二人。
「ちょっと待ちなさいよ!」
だが、待ったを掛ける女の声が。
鋭い三人の視線が私達に向けられる。
「その子、舞踏会に行って無いんだから。靴なんか履いても意味なんて無いわよ!」
「そうよ。履くだけ無駄よ!」
義姉二人が言う。
「それに。そんな小汚い小娘が、探している美女とは思えませんわ」
義母の冷淡な声が、追い打ちを掛けるように告げる。
「しかし、全ての年頃の女性に試すようにと……」
遣いの方の一人が進言するが、鋭い目つきが彼へも襲う。
「でも、この靴はエラさんの物で間違い無いので」
負けじと私が口を挟んだ。
結構、内心ではビビッていたが。そこは、強がりの気持ちだけで堪え立つ。
「なんでそんな事、断言出来るのよ!?」
「てか、貴女誰!?」
「私の事なんてどうでも良いんです」
「「良くないわ!!」」
義姉二人の声がピッタリと揃って私に放たれるが、私はスルーする。
「何故なら、エラさんはそのガラスの靴のもう片方を持っているからです!」
高らかに言い放ちながら、私は右手にエラさんが保管していたガラスの靴を掲げた。
驚愕に表情を変化させていく一同。
「さあ、エラさん」
私の言動に、エラさんも目を丸くしつつ。私に促され「はっ、はい!」とお城の従者の元へと歩み寄る。遣いの方が、エラさんの足元にガラスの靴を差し出した。
おずおぞと、そっと。エラさんはガラスの靴へと右足を入れていく。エラさんの足は、ガラスの靴にピッタリと一致する。
「エラさん、こっちも」
私が所持していた、もう片方もエラさんの足元へと差し出す。その靴も勿論、エラさんの足へと吸い込まれるようにピッタリと履かれるのであった。