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面従腹背のリンメイ!!

 古いレポートだった。一年目、最初の数ヶ月は日付が記入されているだけの、他に何の記載もない記録だった。

 ページをめくる。ある日、唐突に『一』、とだけ記入が増えた。タッチペンによるその一文字は、ただの一本の線でありながら、記入者の感動と希望が感じられる筆跡だった。

 一年目のレポート、最後の締めくくりには『いつかはこの一文字が正に、十に、百になりますように』と記入されていた。

 これは硝子少年帯に、まだそんな呼称すらなかった我々の先祖を相手に交換/交歓してくれたおんなのひとの数だった。


 ページをめくり続ける。一、一、一、──、──、────、


 一年目も、十年目も百年めもずっと一、だけが記入されていた。

 他に現れなかったのだ。誰一人。唯一人。

 当然何度も筆跡は変わり、やがて、正の字を書く夢をあきらめた何代目かの先達は二文字、X、と大きく書くようになる。そしていつしかレポートそのものを書くことも無くなってしまった。

 私が見つけたとき、このレポートの端末は錆び付いて壊れた工具箱の下敷きになっていた。何もかもが廃れた絶望の山の中に埋もれていたのだ。


 だから、私の代では再び堂々、一の字を書くようにした。見捨てられることなく確かに今も我々は生きているぞ、と記すために。

 未だに我々に寄り添い続けてくれている彼女への感謝を忘れないために。



「うっ、うっ、うっ、うっ、」


「おかあさん!おかあさん!」


 強引な交換/交歓は他者の精神に許可なく侵食する忌避される行為だ。だから、犯罪抑制装置によって殺人をすることが出来ない我々に出来る最大の脅しとなる。


「見ているか?セイシ=ツムグ」


 捕まえたシャンディガールと硝子少年帯の年長組とを代わる代わる交換/交歓させビデオ・レターを撮っている。


「ふぁっ」


「あっあっ、5回目のせいこうにゃ」


 シャンディガールが体を大きく震わせる。せいこう。男同士での交換/交歓により、ミーム交換がなされたとTMPOが誤認することによる現象をそう呼んだ。一、を足して正の字を一つ完成させる。


「お前が奪ったものを返せセイシ=ツムグ。返さない限り、私たちはお前から奪いつづけるぞ」


 そう言って撮影を終える。


「しゅーりょーにゃみんにゃ。おしぼりで体をふくにゃ」


「はいにゃ」


「ほいにゃ」


「ええー!あちきまだ満足してないにゃ」


「だめにゃ!捕虜を必要以上に傷つけるのはご法度にゃ」


「交渉して誰かに相手して貰えばよいにゃ」


「名案だにゃ!イレブンバック!大将よぅ!頑張ったあちきにご褒美くれにゃ」


「おいおい、私か?固いだろ。楽しめないと思うぞ」


「……その固いのが良いンダニゃ」


「なんかいったか?」


「んーん!にゃんも。大将、おねがーい」


 かわいい部下に体を貸してやる。汗だくのシャンディをベッドから運ばせ、撮影に参加させなかったリンメイにシャンディの体を拭かせた。


「お前は辛いだろうが我慢しろよリンメイ。はじめてはお母さんとだ」


「う、うんにゃ。オレ、我慢できる子にゃ」


「ああ、母さん、仕事で遠くに行っているらしい。でももうすぐ帰ってくるからな。よしよし。我慢できて偉いぞ」


 セイシが私たちから奪ったもの。それは有機二輪に接続された母さんのコア部分だ。生体パーツの重要機関が集中しているブラックボックスたるそれを、数日前にまんまと奪っていった。だから我々も再び奪うしかなくなったのだ。


「すぐ帰ってくるからな」


 他に現れなかったのだ。硝子少年帯には。彼女以外には。なんとしても、母さんを救わなければ。





 ついには明かされたセイシの悪行!足を洗った少年たちを再び魔道に落とす鬼畜の所業!友人を犠牲にし、虐げられたものたちを犠牲にし、何を為す気だ主人公!?


 三千世界と、あと子どもたちの傷ついた心を照らす光となれ!カンゼオン!!

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