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邪なリンメイ!!

「そうか、あったか」


 補陀落町の住民が御覧式交換/交歓(らんこう)していた頃、イレブンバック=ジャックスーツが仲間内10名の実戦部隊とは別、4名からなる工作部隊のひとり、リンメイより報告を受けていた。


 早朝の硝子少年帯(ティーンエイジャー)による補陀落町襲撃は囮。その隙に工作部隊が目的のものを確認、奪取出来ないと判断して狼煙兼煙幕代わりに火をつけて撤退したのであった。


「諸君!」


 イレブンバックの呼び掛けに即座に、かつ自由に思い思いの姿勢で傾聴する仲間たち。

 繋がりは犬の群れより薄く、猫の集会じみて、しかしハダカデバネズミの母娘(おやこ)の様に強く結びついている。イレブンが育ててきた、新しい硝子少年帯の在り方であった。

 この難局に、それもまた変わりつつあったが。


「久しぶりの仕事の時間だ。私たちの得意分野、人攫いだ」


 途端に塗炭にスイッチが入る仲間たち。イレブンがその美しい様を見て、歯を剥き出して虚空を睨む。


「やるしかなくなった」


 犯罪者が犯罪を行う。何もおかしいことはない。何より補陀落町や少年帯も所属するこの隔離地域では、特に彼ら殺人鬼の後継者に対しては奪うことを強いる風情があった。

 情勢が追い風を吹くならば、迷い無く彼らはやる。


「困ったなぁ、いや困った。だが仕方ないね。…やるからには最大効率を目指す」


 狙うはシャンディガール=ガウチョパンツ。セイシ=ツムグのお気に入り。

 かつて、貧困と恨みから一度、硝子少年帯が誘拐した標的を、再びその歯牙にかける!




「ふう」


 水浴び!

 汚染された土地の澄んだ川なんて旧人類が入ったら1日で内臓がとろけて死ぬような其処に底に、柔肌濡らすはシャンディガール=ガウチョパンツ。

 手厚く保護される女性陣程で無いにしろ、男たちも肉体のほとんどを有機機械に代替されているので尋常人類は丈夫なのだ!川の水もゴクゴク飲むぞ!


「にゃにゃーたすけてにゃー」


 シャンディが身を清めるそこへ、川の深い部分に足が付かず、流されるままの少年が表れた。


「助けるけど、暴れないでね!暴れたら一回沈めるからね!」


「きちくー!」


 非力なシャンディの正しい救助方法である!

 各々に取り付けられた犯罪抑制装置はデメリットであると同時に大きなメリットをもたらす物も多い中で、彼に与えられたそれは女性化を進めるのみ。

 だから彼は、自力によって集団での役割を見つけて貢献してきた。やれることを最大限に、最低限やれる範囲でやり通して来たノウハウが、彼個人が持つメリットなのかもしれない。



「た、助かったにゃ。オレ、リンメイにゃ。誘拐犯から逃げてきたのにゃ助けてにゃ」


「暴れないから助かったよ。誘拐犯?」


硝子少年帯(ティーンエイジャーズ)にゃ。もう何年も捕まって、故郷の言葉も忘れちゃったにゃ」


 この溺れ少年の名を覚えているだろうか!?

 リンメイ!硝子少年帯の大将、イレブンバック=ジャックスーツが個人行動を許した凄腕の精鋭4人の一角!

 果たしてリンメイ、その言葉通りに脱走したのか?あるいは虚言によって補陀落町へ潜り込む気なのか!?


(怪しい。溺れていた割には冷静だった。犯罪抑制装置が機能したんじゃないか?)


 殺人鬼たちに与えられた抑制装置の機能は当然殺人の抑制。この殺人鬼用の装置、当初の思惑と外れこの隔離地域で恐ろしい能力を発揮してしまった。これは、使用者に人を殺させない為ならば、何だってする(・・・・・・)のだ。

 この殺人鬼用の抑制装置が、自殺願望のような薄着でジャンクの荒野を駆ける事の出来る理由。そして犯罪者のその子孫から略奪を働けるだけの暴力が振るえる理由であった。

 薄着で高速移動するという遠回しな自殺をさせないために自身の肉体を高度に制御する力を、他殺をさせないために他所の共同体を余裕で制圧するだけの暴力を振るう力を彼らに与えたのだ!


 リンメイ少年が溺れていても冷静だったのは、この殺人鬼用の抑制装置が働いたから、あるいはいっそ装置など関係なく、溺れた事そのものが演技だったからなのではないか?

 つまり、リンメイが硝子少年帯の間者ではないかと、シャンディガールは疑っているのだ!


「ずっと水に浸かってたんでしょ?こっちおいで。暖まろ?」


「た、助かるにゃ」


 簡易ヒーターに鉄棒を挿し込み、熱源とする。ふんわり背中から抱き締めてあげるシャンディ。


(心臓の音が凄い。呼吸も荒い。溺れかけた恐怖?それとも嘘を吐いた恐怖?)


 リンメイの首筋に手で触れるシャンディガール。汗がじっとりと吹き出してくるのはヒーターの暖かさか、敵に命を晒す怖さか。


(うおおおお!柔らかいにゃ。良い匂いするにゃ。え、こんな柔らかい人この世にいる?も、もしかして、この人、噂に聞くおんなのひと?ら、らっきぃ)


 強かさがそこにあった。TMPO端子が接続を望んでカチカチとハマる固さになり、トロトロと潤滑液を垂らす。


(これはチャンスだ。上手く情報を引き出せば、セイシに貢献できる)


(これをチャンスにゃ。上手く情動(リビドー)に踏み込めば、接続して交換/交歓(こうかん)できる)


 ここは犯罪者の町補陀落町!これよりここから始まるは、下心隠した少年同士の、恋だ恥だと偲び、思惑忍ばす凄絶な化かし合い!


「ねぇ、教えて欲しいことがあるんだけど」


「はいにゃ!にゃ、何でもきいてにゃ。こう見えてもオレ、けっこう優秀なほうにゃ」


 初心なボーヤと熟したボーヤ、烈火に燃ゆ萌ゆ下心!勝つのはどっちだ!?


 三千世界と、あと悩める思春期とかを普く差す光明たれ!カンゼヲン!!


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