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無上なりしシャンディ

「何してるニャ」


 イレブンバックの死闘。決して一方的な蹂躙ではなかったそれが、全て終わった後に、リンメイは到着した。言い付け通りに待機していて、しかし何か嫌な予感がして、慌てて駆けつけたのだ。全て終わってしまったが。


「ああ、リンメイか」


「お前、みんな、みんな助けるって言ってたニャ。だから」


 そう、だから裏切ったのだ。リンメイは。仲間が、イレブンバックが飢えず、死なずに済むからと。


「約束するよ。これから彼らは央土(センター)に運ぶ。飢えることも死ぬこともない。争いは尽きないが、それはここも変わらないしね」


 大量の有機二輪。おんなのひとの端末たるそれらが硝子少年帯のメンバーを丁重に乗せていく。


 培養脳を抜き取られた端末、イレブンバックがセイシとの決闘で乗っていた骨董品、硝子少年帯の母だったそれ、打ち捨てられた有機二輪がリンメイの目にうつる。


 擦り傷だらけの二輪のボディを撫でる。柔らかく良い匂いのするおんなのひとの体。傷に紛れて刻まれたイレブンバックの暗号をみつけた。


「シャンディちゃんが、大将の弟さんだったのニャ?」


「うん?ああ。そうだよ」


「シャンディちゃんも、大将みたいに、いつか《こう》なるニャ?」


「ああ?ああ、そうなるかもなぁ?」


 不穏な空気を感じとり、スイッチのはいっていくセイシ。


「じゃあ、オイラが守るニャ。大将の兄弟を。お前の好きにはさせないニャ」


 イレブンバックは裏切ったこともお見通しで、その上で、リンメイに後事を託したのだ。裏切りが仲間のための選択だったことも、この胸に灯るシャンディへの思いも、全てお見通しなのかもしれない。裏切り者の自分を、信じて頼ってくれたのだ。


「御大層だな。あわよくば独り占めしたいからじゃねえの?キモチイイもんな。シャンディは」


「お前えぇぇぇ!」


「やるのか?イレブンバックですらボコボコだったのに。二輪もない生身のお前が?俺に?」


 楽しそうにカンゼオンの人型ロボットに乗り込むセイシ。大袈裟に駆動音をかき鳴らし、立ち上がる巨体。


「誰だてめぇぇぇぇ!」


「お前たちのご先祖様だよ」


「知らねぇぇえぇぇ!」


「何年かしたら嫌でも覚えるさ。お前も戦場につれていくからな」


「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」


「ギャハハハハハ!流石はイレブンバック。教育が行き届いているなぁぁぁ!!」


 勇気の言葉を吐き立ち向かう勇者リンメイ。


 ロボットの放つ宙泳粒子ウルトラマリンアッシュ。その励起による瑠璃光が周囲を照らす。





 粗末な、おそらくはその場所で一番上等な、ベッドの上で待っていたシャンディガール。

 そこへリンメイを抱えたセイシが迎えに来た。


「この子の記憶を弄ってくれ。補陀落町の住人、キミの護衛ということにしよう」


 それが先祖由来の特殊技能のない、シャンディの役割であった。持ち前のHACKの才能によって、誘拐先で、交易先で、他者を操作し、争いを起こし、そうやってセイシの役に立ってきたのだ。兄弟そろって慰み物にされていたこの場所から、拾い上げてくれたあの時から。


「すごい血!セイシ!?」


「ああ、イレブンバックが。彼は凄いね。犯罪抑制装置による矯正を、一瞬だけだが突破したようだ」


 恐るべきイレブンバック。カンゼオンの主機たる巨大なロボットに、脱け殻の二輪で挑み、あらゆる手管でコックピットから引きずり出し、手傷を負わされた。

 殺人の業を背負うが故に、同じ人類を傷つけることが出来ないはずなのに。


「いずれは僕でも、この業から解放される道が見えた」


 犯罪抑制装置による不和不和衝動を発散させたセイシは、今このときは、元の性格のままの、希望に輝く目をしている。また直ぐに争いを求めるようになるが。


「ああ、シャンディ」


 その輝く眼差しをシャンディに向け、感極まって抱き締めるセイシ。普段は絶対にしない。二人きりで、抑制装置が作動していなくて、そしてこの地獄を照らす希望の光が見えたために、耐えられなかったのだ。


「シャンディ。この呪いが解けたとき、その時はどうぞ僕と結婚してください」


「うん。いいよセイシ」


 恐るべき魔性。いや、神聖と言うべきか。永遠のような時を生きる怪物が、見た目相応の少年のように求める。極上、無上の存在。


「必ず自分を取り戻す」


 可愛らしい口付け。


「うん。応援してる」


(でもごめんね。優しいキミも意地悪なキミも、極悪なキミだって、ボク、どれもすっごくすごく好きなんだ)


 TMPO端子によるこうかんでは無く、肉体改造のために住民たちから失われた生殖器による交接はもちろん無く。見つめあい抱擁を交わす。それがこの土地での最高の愛情表現だった。


(この時が永遠に続けば良いのに)






 酉歴2×××年!




 人口の極端な減少により死刑は廃止。犯罪の極端な厳罰化により懲役は100年を優に超え、しかし刑務所なんかに入れておくような余裕も無いため、犯罪者達を隔離して町を丸々一個作り上げた。


 滅びかけた人類は、犯罪者の、その子や孫の代まで延々と労働奉仕を引き継がせることで、なんとか社会を維持している!




 ここは地獄の、まさに1丁目!補陀落町!!餓鬼と畜生が血と暴力で互いに合い食む三途の地!!!




 三千世界を普く照らす光となれ!カンゼヲン!!

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