菩薩のセイシ!!
「ネタバラシだイレブンバック」
巨大なロボットの手のひらに乗りつつ、セイシ少年が不敵に、敵を作るように厭らしく笑う。
「お前は母さんを返せと喚いていたが!最初からお前の母さんはこっち側だったのさぁぁぁ!」
イレブンバックの極上の脳がフル回転する。最初からとはいつからだ。だって彼女は遥かな昔から、自分たちが硝子少年帯と、それはつまり、
『そう、最初から。あなたたちが硝子少年帯と呼ばれる遥か前の最初から、私は裏切っていた。あなたたちは、あなたという傑作を生むために存在してきたのでしょうね』
「……意味などなかったと言うことですか?」
ロボットの指がピクリと反応する。流石は極上である。わずかな言葉から意図を読み取るそのスペック。
「″存在してきたのでしょうね″、だってよー!ギャハハハハハ!他人事だぜイレブンバック!」
「見せしめ?」
『それは違うわ』
他の犯罪者たちの溜飲を下げるために地獄を生かされてきたのではないと言うならば、では何の為に、我々に味方して、何故いま目の前で巨大な機械に乗って我々と相対しているのだろうか。
「俺の為に決まってんだろ。見ろ。お前の母ちゃんとこんなにナカヨシしてんだからよ」
ロボットの指先に頬っぺたや太ももをスリスリしながらセイシが煽る!パツパツのホットパンツでお尻もペンペンして兎に角煽る!対するイレブンバックもパツパツなホットパンツなので布面積少なすぎる実に野蛮な戦いだな!ここは!天国なんじゃないかな!?
「いつから、生きてる?」
「……いや、頭良すぎだろコイツ」
『極上って、これほどなのね』
イレブンバック、先達たちの記録を思い出す。あの、一、と記された古いレポートの様に、埋もれていた資料。
この、犯罪者だらけの、しかし抑制装置のおかげで最低限の平和だけは保障されているはずの、この、隔離地域で何度となく起こる戦争の記録。
かつての、シャンディガールの1度目の誘拐事件も、発端はその戦争による食料の一時的な枯渇だった。そういえば、シャンディもろとも助けられたあの時から彼の見た目に変化はない。あの時、自分をおぶってくれた大きく見えた背中を、今の自分は追い越している。
記録に何度も出てくる、どこかの誰かに似た誰かの情報。セイシ=ツムグ、この、不和をもたらす少年の先祖かと思っていた情報。
しかし、セイシと母のやり取りは、距離感は、自分と母のような関係とは到底違う。最初からとは、最初から。
「あなたが、おとうさん?」
「やめてくれ」
イレブンバックの純粋な、縋るような眼差しに!思わずセイシも素で返す!不和が得意分野の少年が、逆に心乱されるとは!流石は極上!
「そんな上等なものじゃない。僕は」
直視を避けるようにロボットのコックピットに乗り込むセイシ少年!
「僕は最初の犯罪者。懲罰部隊の生き残りなんだ」
『私は生体パーツ法によるリサイクル兵』
「戦時緊急措置法による『緊急措置』で、こんな姿のままで、こうして今まで生きてきて、今も『戦時中』ということにして何とか人類を生かしてきた」
明かされる衝撃の事実!
異星人との戦いで、軍と母星の人類は消滅し、偶然生き残ったのは人権をほとんど失くした懲罰兵とサイボーグだったのだ!
彼らは最専任にして最後の人類といえども、その権限では同類、つまりは懲罰兵の徴用とサイボーグの生産しか許されなかった!
何もかも崩壊した世界において、しかし埋め込まれた機械によってその行動を制限される2人は、なんとか己を縛る法の解釈をこね繰り回し、こうして自分たちや、他の敗残兵やその死骸からミームを取り出して、人類を、この隔離地域の住民を増やしてきたのだ!
酉歴2×××年!
人口の極端な減少により死刑は廃止。犯罪の極端な厳罰化により懲役は100年を優に超え、しかし刑務所なんかに入れておくような余裕も無いため、犯罪者達を隔離して町を丸々一個作り上げた。
滅びかけた人類は、犯罪者の、その子や孫の代まで延々と労働奉仕を引き継がせることで、なんとか社会を維持している!
ここは地獄の、まさに1丁目!補陀落町!!餓鬼と畜生が血と暴力で互いに合い食む三途の地!!!
セイシ!
製糸、糸屑のような希望の欠片を縒りあわせて糸口を掴むために!
精子、次代に繋ぐために!
勢至、観音とともに無量光をめざすために!
生死、人類の興亡を左右する神のごときものであるために!
かつての名前すら失った少年兵よ!人類の為にセイシを紡げ!




